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2019年05月16日(木)
『君と河をのぼろう パール兄弟 2019』

『君と河をのぼろう パール兄弟 2019』@Shibuya CLUB QUATTRO


終わってみれば三時間超。いんやはやすごいな!

「盆暮れのパール」も今は昔、年イチのパール兄弟です。いやいや、全く活動してなかった時期もあるので有難い。どなたか「パール兄妹の屋号を守り続けてくれたサエキさんに感謝」とツイートされてたけどその通りですね。ひとりのときもパール兄弟と名乗っていたなあ。本当に有難うございます……。

といいつつ、段取り魔のサエキさんはいろいろこれいわなきゃあれやらなきゃと終始あたふたしており、突っ込みたくなる程落ち着きがない。その昔窪田さんが「サエキくんをいじるのは娯楽」といってましたがその通りですね。でもパールのファンじゃないひとから「演奏はすごいのにヴォーカルがねー」とかいわれるとカチンとくる複雑なファン心理。そこがいいんだよ、そこが! サエキさんには他にかえがたい声を持ってるんだからよう! とはいうものの、サエキさんボイトレの効果ちゃんと出てますよね。そりゃあまだ不安定なところありますけど、昔に比べれば全然ねえ。

シュッとしてるといえばまっちゃんがダントツで、まーお素敵。オシャレだし。BPM速い曲を叩くときはルイス・コールにフォームが似ているというのは新しい発見であった。脇をしめてコンパクトに叩くんですね。というか以前はもうちょっと重い音とフォームだったと思いますが、恐ろしく巧いまま演奏も変わっていくのだなと思ったり。バカボンも坊主で節制が習慣づけられているのかやはりシュッとしてて、「快楽の季節」のソロはディストーションかけたかのような歪んだ音でビリビリのソロを披露。これも巧いが天井知らず。スティックは出てこなかったがコントラバスも弾いて(ボウイングもあり)、聴きなじんだパールの楽曲を新たな瑞々しさで聴かせてくれます。能ある鷹は爪を隠す程勿体ぶらないですね! 最高か!

やっぱり日頃のメンテはだいじねとかいってると、窪田さんが椅子用意してて曲ごとに座るのが気になってくる。だ、大丈夫? いや、アコースティックギター弾くときは座奏だからってのはいいんですよ。ちょっと空くとすぐ座るんだよ、譜面かえるときとか。それはいいんだ、演奏以外に頓着ないひとだってのは重々承知で…服装とかもそうだし……でも心配になっちゃうんだよー。足腰だいじ! まだまだお元気で演奏聴かせて! 「ケンタッキーの白い女」を筆頭に切れ味鋭いカッティングはますます研がれております!

さてこの夜のゲストはMOONRIDERSのおふたり、岡田徹さんと鈴木慶一さん。岡田さんプロデュースの『未来はパール』『PEARLTRON』からの楽曲を中心に、岡田さん参加の(!)パールのナンバー、パールのバックによる(!!)MOONRIDERSのナンバーが演奏されました。サエキさんが詞を書いた「9月の海はクラゲの海」は絶対やるよね、あとはどれかななんて思っていたら、岡田さんが登場しての一曲目が「ニットキャップマン」、虚を衝かれてもうから泣く。うええええサエキさんやパールと縁のない曲もやるのねそれはたまらん、ていうかどうしよう、セトリの予想が全くつかなくなったぞ。「ニットキャップマン」大好きなんだよ……矢野顕子さんのカヴァーも何度聴いたことか。ていうか過去形じゃなく今もしょっちゅう聴いてるよ。“いつもつながれてた雑種ドックが 声をからして”のところでいつもダーと泣く。なんならこの言葉を思い返しただけで泣く。ということで今泣いてる(やばい)。「いとこ同士」も、K1さん曰く「リリースしたときのライヴで一回やったきり」という「羊のトライアングル」も聴けて、こんなプレゼント誰が予想したかよ〜素晴らしい夜になるとは思っていたけどよ〜うえええええ(泣いてる)。

しかし曲間のおしゃべりではずっと笑っていた。K1さんの一声でそれ迄詰めてきたアレンジがパーになったり(笑)、シンセサイザー黎明期だったので仕込みが大変だったり。貴重な話だわ。打ち込みは当時音色の種類が少なかったんで、「いとこ同士」のキックはかしぶちさんが手で打ったって話に笑った。「なんで手?」「やー、キックしか録らないのに足でやるのは……って」だって。

思い出話に花が咲き、でもその思い出のなかには故人もいて、笑い乍らもしんみりとし。窪田さんも今年還暦だからなあ。生年月日は1959年9月18日とスラスラ出てくる、やはり若い頃に好きになった御仁の基本情報は頭から消えないものですわ。ちなみに身長は177cmですよ。デビュー当時は窪田さんがいちばん歳下でしたが、ふと思い立って調べてみたら、矢代さんが1960年生まれだった。というわけで、パール兄弟も来年還暦バンドの仲間入りです。これって貴重なことだなあと今更実感したりして。ふりかえれば窪田晴男のギターを聴き続けてもう33年ですよ。ほらもう初めて聴いた年代とかも憶えてるあたり、病が重い。一生いちばん好きなギター弾きですわ。

岡田さんが古希を迎えたということでサエキさんがはりきってケーキや鏡割り用の樽を用意して皆でお祝い。「誕生日四月なんだけど」とボソッという岡田さんに皆大笑い、「いいんですよこういうのは皆が集まってるときにやってお祝いしないと!」というサエキさんに皆で拍手。岡田さんがふと話し出す、「還暦には未来が見えたけど、古希は未来が見えなかったの」。静まり返るフロア。「でもね、一年前くらいにサエキから声かけてもらって、リハやって。そしたらそれが未来になったね。(今回のタイトル)パールと河をのぼったんだ。バンドでやるのも久しぶりだったんだ」。ここでまた泣く。もう、なんて夜だ。

アンコールは全員でTHE BANDの「The Night They Drove Old Dixie Down」のカヴァー。南北戦争で失われたものを南部側から描いた歌。K1さんたちがアグネス・チャンの香港公演で演奏したときのエピソードを披露、「そのとき会場にいた黒人女性から『Go Home!』っていわれたんだ」。そういえばスズカツさんの『欲望という名の電車』でもTHE BANDの曲が使われていたなあ。音楽(作品)に罪はある? 当日配布されていたサエキさんによる訳詞は、繰り返される議論を思い出させたのでした。