初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2019年02月02日(土)
『오이디푸스(オイディプス)』

『오이디푸스(オイディプス)』@芸術の殿堂 CJトウォル劇場



韓国観劇二泊三日の旅、まずはファン・ジョンミン主演のこちら。トウォル劇場のキャパは700強、三階席迄あります。役者たちはマイクを装着していました。場内は東京文化会館や昔の芸劇中劇場を思い出す雰囲気。客層はバラエティ豊かで、家族づれも。ジョンミンさんの「国民的スター」っぷりを実感する。今回初めて韓国のストレートプレイを観たのですが、ミュージカル同様ロビーにキャストパネルや撮影スポットがあるのには驚いた。グッズはプログラムとトートバッグだったかな。このトートバッグ、象形文字っぽい王冠と目のイラスト入りでひいん(泣)となる。

さて本編ですが、ネタバレしてますので未見の方はご注意を。制作はジョンミンさんの個人事務所SEM COMPANY、プロデューサーはジョンミンさんのパートナーでもあるキム・ミヘ、上演台本はハン・アリム、演出はソ・ジェヒョン。

後述のニュース記事に「ソポクレス原作の作品で、ソ・ジェヒョン演出と新しい創作陣で構成し、さまざまな変化を試みる予定」とあったが、成程こんな『オイディプス王』は初めてだ、と驚かされたことがいくつか。コロスの群唱は極力減らされ、通常は「歌」で描写される場面を役者たちが実際に演じてみせる。よって使者により伝えられる、イオカステの死の場面も視覚化されている。オイディプスとふたりの娘(アンティゴネー、イスメーネー)との別れの場面がない。娘たちはコロスの姿を借りてイオカステとの別れに登場し、母の死には嘆き悲しむ。コロス長はコロス──民衆ではなくオイディプスの背後に寄り添い、彼を操るように彼と同じ台詞を語る。まるでコロス長こそが、オイディプスの変えられない運命のように。

特に衝撃を受けたのは、イオカステの亡骸を抱きしめたオイディプスが「オモニ、オンマ、オンマ」続いて「アボジ」と泣きくれたことだ。聴き間違えてはいないと思うが、オイディプスは「オモニ」のあとに「オンマ」といった。どちらも「お母さん」の意味だが、「オンマ」はどちらかというとこどもの使う言葉で「ママ」や「おかあちゃん」といったニュアンスだ。オイディプスは初めて誰かのこどもになったのだ、初めて親のもとへと戻ったのだ。娘たちとの別れもなくテーバイを離れる彼は、初めてこどもの時代を取り返した。こんな親から生まれた娘たちは結婚も出来ず、子を宿すこともないだろうとオイディプスが嘆く場面がないことも、父との別れに悲しむ娘たちの姿がないことも象徴的。ハン・アリムの翻案は血縁が絶えることを恐れず、娘たちの未来には父親が嘆く以外の道があるという可能性を残した現代的なものに感じました。この作品においてはかなり新鮮。2500年前に書かれた物語が現代に上演されることの意味を考えました。

演者たちは抑制されたダンスのように動く。コロスの隊列は集団行動のように美しく移動したかと思えば、災厄に苦しみのたうつテーバイの市民に、禍々しい声色を発し三叉路の殺人を見守るカラスになる。重心を低く、這うように歩く予言者テイレシアスはさながら暗黒舞踏家。終始舞台のトーンは暗く、回る盆はどうあがいても悲劇に向かうしかない主人公の行く末を表しているかのよう。舞台が最も明るくなるのは、皮肉にも光を失ったオイディプスがテーバイを去るとき。真っ白な装束に着替えたオイディプスは舞台を降り、民衆──客席へ紛れて退場する。運命にとことん抗い、向き合ったあとの穏やかで、美しい表情。

ヴィジュアルに訴える演出は、韓国語の台詞についていけない者にとってとても助けになった。その一方で、目を潰す場面に血糊を使わない等、演者の力と観客の想像力を信じる清潔感がありました。目に見えないものを見せるという演劇を、見えないものを見る想像力を持つ観客を信じる演出家に好感を持ちました。演者も皆素晴らしかった。いいカンパニーだった……(ほれぼれ)。

集中力の高い、とても静かな客席でした。あたりまえといえばそうですが、実際はなかなかないものです。それだけ惹きつけられる作品だったということもあるでしょう。カーテンコールになると、熱いスタンディングオベーション。ああ、観ることが出来てよかった!

---

さて真面目な感想は書き終えた。ジョンミンさんのオイディプス、素敵すぎてこっちの目が潰れる思いでしたよね。ランニングマンが観られたのにはキエーとなりましたよね……ジョンミンさんの! ダンス! ツーブロックにエクステの髪型も格好よかった。テーバイを離れるオイディプスは、3列分あるOP席と通常席間の通路から退場していくのですが、舞台を降りてきたときの客席の空気といったら。お、おりてきた! 近く通る! という緊張感がすごかった(笑)。通常席の4列目だったので結構近くで見られた…う、美しかった……目が! 綺麗! ピュアな瞳が亜弓さんのよう! 盲目の演技ってどうしても亜弓さんとマヤの『奇跡の人』思い出すよね〜世代〜などと終演後話す。それにしても華奢だった。脚も細くて長くて、綺麗なひとでしたよよよよよ。太らない体質ぽいよね、恰幅のいいひとの役がきたら身体つくるの大変だろうね、などと話してポワーとなる。

ところで出待ちした方のツイートを見たんだけど、ジョンミンさん松葉杖をついていたとのこと。心配だな……舞台観てるときあれっ? とは思った。若干足をひきずっていた。しかしオイディプスの足に傷があるのはストーリー上のポイントなので、意図的な表現だと思いなおした。ランニングマンや殺陣のシーンではスムーズに動いていたとは思うけど、どうなんだろう……負担が大きい動きだろうしなあ。といえば昨年の『リチャード三世』も負担の大きい姿勢を続けていて大変だったようだ。事故や怪我などなく、カンパニーが無事千秋楽を迎えられますように。

-----

・연극 ‘오이디푸스' 연습실 공개 - 3장~6장 하이라이트

約20分の(太っ腹!)リハーサルハイライト映像。有難い〜!

・演劇「オイディプス」ファン・ジョンミンらの強烈なキャラクターポスター公開┃Kstyle
宣美も素晴らしかった〜

・名著44 ソポクレス『オイディプス王』┃100分de名著
いいテキストがあったわ〜、てかこれオンエア観てたわ。バックナンバー取り寄せられたので復習。神話から戯曲が生まれ、上演されるようになる時代背景もわかって読み応えある

-----

(追記;20190209)
・90분간 휘몰아친 눈물과 절규, 황정민 파격 변신 '오이디푸스'┃NAVER 뉴스
(翻訳:・90分間吹き荒んだ涙と叫び、ファン・ジョンミン破格変身『オイディプス』
・[연극 리뷰] 21세기 관객도 울린, 이 사내의 핏빛 절규┃NAVER 뉴스
(翻訳:・演劇レビュー:21世紀観客も泣かした、この男の血の色叫び
レヴューも熱いわ……

・[연극 '오이디푸스'] 배역마다 한 명이 투혼…'원캐스트'의 막강한 힘┃NAVER 뉴스
(翻訳:・演劇『オイディプス』配役ごとに一人が闘魂…「ワンキャスト」の莫強した力
韓国ではストレートプレイでもダブル、トリプルキャストは珍しくないそうです。というか、日本の方が珍しいのかな? キャストに大きな負担がかからず、アクシデントがあった場合のリカバリにもなります。しかし今回のカンパニーは全役がワンキャストのようです

・スイングとは?┃RR Voice Studio Official Blog
メイン、アンサンブル、アンダースタディ、スタンバイ/オルタネート、スイングキャストの違いについてわかりやすく解説しているブログがありましたのでリンク張らせて頂きました。有難うございます。今回のカンパニー、スイングも不在なのかな? と話題ですが果たしてどうだろう

・[연극 '오이디푸스'] 배역마다 한 명이 투혼…'원캐스트'의 막강한 힘┃NAVER 뉴스
(翻訳:・俳優ファン・ジョンミン「1年に一回ずつは演劇出演駄目押し 今年もオイディプス王で舞台に」
・ファン・ジョンミン、これまで演劇に出演しなかった理由を語る「有名じゃなかったから」┃kstyle
日本語記事、ちょっとはしょりすぎ(笑)。映画俳優として確固たる地位を得ているのに何故今演劇を? という質問に、「観客がいなくて幕をあげられないときもあったけど、今はこうして来てくれる観客がいる。ずっと演劇に帰ることを考えていた」と答えています。「舞台にいる90分は自由に感じる」。舞台に魅入られたひとなのだなあ(そしてまた惚れなおす)。『リチャード三世』は観られなくて本当に残念だったけど、今後も舞台はコンスタントに続けてくれそう

-----
(追記;20190218)

2/10付で舞台映像がアップされてました