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2018年10月28日(日)
高橋徹也『夜に生きるもの/ベッドタウン』発売20周年記念再現ライブ

高橋徹也『夜に生きるもの/ベッドタウン』発売20周年記念再現ライブ@Star Pine’s Cafe



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vo/g:高橋徹也
b:鹿島達也
drs:脇山広介
key:sugarbeans
pedal steel:宮下広輔
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再現といっても、コピーではないのだ。当時のレコーディングメンバーは高橋さんと鹿島さんのみ。ホーンは不在。二枚のアルバムは、現在のものとして甦る。そしてきっと、再演の度に時代の空気とプレイヤー同士の関わりを得て生まれ変わる。そんなことが出来るのも、このアルバム二枚が「怪物」だから、だ。奇妙で異様で、作者自身の才能と、当時彼がおかれた環境なくしては生まれえなかった怪物。

二年前の『夜に生きるもの 2016』と同じ、「ナイトクラブ」のホーンセクション(い〜や〜菊地成孔節〜!)がオープニングSE。リリース順でまずは『夜に生きるもの』、インターミッション(黒から花柄へシャツを着替えてきた高橋さん曰く「46歳のお色なおし。誰も求めてない(笑)」)を挟んで『ベッドタウン』。冒頭、高橋さんのシャウトから「真っ赤な車」が走り出した瞬間が最初のハイライト、「ナイトクラブ」のサビでミラーボールが乱反射した瞬間が二度目のハイライト。はやいな! 中盤の「夕食の後」「女ごころ」でのスウィンギン、ドライヴィンっぷりにも腰が抜ける。ハイライトばっかりだな!

アルバムの曲順は当然考え抜かれたものだが、おそらくライヴ前提のものではない。使用楽器や編成、チューニングを曲ごとにチェックするためか(一曲一曲を順番に丁寧に、という心構えの時間も必要としたのかもしれない)、いつもより曲間が長いように感じたのですが、その間のフロアの静かなこと。聴く側にもかなり緊張感があったように思います。近年のバンド編成でのレパートリーになっているのは『夜に〜』からのナンバーが多い。にも関わらずお色なおし(…)後の『ベッドタウン』の方がリラックスした演奏に感じる……と思っていたら、終盤に近づくにつれ静かに場の空気がはりつめていく。毎度のこととはいえ演奏が凄まじすぎて、聴く方も笑いがとまりませんよ。恐ろしいことですよ。

それはプレイヤー側もそうだったのか、佐藤さんが「いつだってさよなら」のイントロを間違える。しばしステージとフロアからの非難(笑)を受け、「…緊張してて……」とぼそり。別にものすごく久しぶりにやったという曲ではないだけに、あながち冗談でもなかったのかも。高橋さんも終盤は「素面なのに呂律がまわらなくなって」ましたし(MCの。歌は全く問題ありませんでしたよ!)。それだけ集中していたのだろうなあ。ライヴ後に脇山さんが「試合」とツイートしていたのが印象的でした。プレイヤーはアスリート。佐藤さんが鍵盤とコーラスで奏でるハーモニー、脇山さんのドンズバのドラミング(「シーラカンス」、圧巻!)、「鏡の前で〜」「ベッドタウン」でエレキギターを立奏した宮下さんの「ベッドタウン」のアルペジオ素晴らしかった。そして鹿島さんは鹿島さんですからしてもうね。アップライトベースみたいな音のする平べったいベースの音、恰好よかったなあ。で、アップライトではボウイングも。高橋さん曰く「なんなんだ、このひと!」ですわ。

二枚のアルバムを続けて聴くと、歌詞のつくりだけではなく楽曲構成が兄弟みたいなところがよくわかって興味深かった。「ナイトクラブ」と「シーラカンス」、「チャイナ・カフェ」と「笑わない男」、そして勿論「真っ赤な車」と「かっこいい車」。「曲のストックがなくなった」という程追いつめられた状況から生まれたものなのかもしれないが、今では高橋徹也というアーティストの歴史としてみることが出来る。詞で描写されるのは夜と郊外の風景。これは高橋徹也というアーティストが持ち続けている世界。映像喚起力の強さはずっとあるけど、今回それに加えて聴き手の記憶を書き換える力みたいなのがあるなあと感じる。自分の記憶ではないのに、それを実際見たことがあるような気にさせる。暗闇のなか、手探りで冷蔵庫を開けたのはホテルだった? デパートの屋上で見たアドバルーンは赤かったっけ?……恐ろしいことです(またいう)。

「ぶっちゃけ売れていないアルバムですよ」。「ディレクターに今年は二枚出すぞっていわれてもう必死で」「曲のストックも使い切って。こんなこと初めてだった」「正直あの年の記憶が殆どない」「翌年にもう一枚、ということにしておけば俺、メジャーにあと一年いられたんだなと思いました(笑)」。なんでもデビューアルバムを出したあとくらいに、アンケートか何かに「なんちゃって○○○○」と書かれたことを今でも悔しく思っており、それもあってか二枚目はこんなものに……みたいなことをいっていた。それでもついてきてくれたひとには感謝したい、とも。ご本人面白おかしく話していたし、フロアは大ウケだったし、こうして話すことが出来ているのは自分のなかで消化しているからこそでしょうが、「なんちゃって○○○○」の話は今でも憤懣やるかたない様子でしたね……やわらかく書いてますが、実際はもっと激しい言葉を使ってましたし。いやーいちばんいったらあかんやろそれ、という言葉だし名前だよね。誰も幸せにならないよ……。そのことがバネというか反動となって生まれたのが『夜に生きるもの』となれば、そう書いたひとに感謝か? いやいや、そのことがなくてもきっと怪物は生まれたに違いない。

「『再現』って、現役で活動してるひとが一番使っちゃいけない言葉ですよね。この二枚のアルバムは目の上のたんこぶというか、ずっと乗り越えなきゃいけない存在だと思ってて……今日はそれを少しは超えられたかな」。

本編ラスト の「犬と老人」では、ライヴが終わる名残惜しさと、再現を見届けられたという安堵と、そして勿論この曲の持つ繊細で壮大な世界に、自分がいた周囲の男女問わず揃って涙ぐむ(思わず見渡してもうた)始末。アンコールはその余韻もぶっ飛ばすアッパーな二曲。オーラスが最新曲「友よ、また会おう」だというのがまた最高。これがまたストレートなロックナンバーでグッとくるんです。格好いい。

ポピュラー・ミュージックの美点は、当人が当人にしか出せない声と演奏をリアルタイムで聴いていける(アレンジの変化含)ところ。珠玉の新作は増えていく一方なので悩ましいだろうが、当人の体力、気力と「今がそれをやるときだ」という思いが合致したらいくらでも実演してほしい。そしていつか当人も、当時の聴き手もいなくなったとき、その録音物(楽譜でもいいのだ)とともに遠くの時間にいるひとびとに迄彼の音楽が届いたら。その時代の声や演奏で鳴らされることがあったら、どんなに素敵なことだろう。そのとき彼の楽曲は、ポピュラー・ミュージックと呼ばれるのだろうか。

高橋さんのデビューアルバムが『POPULAR MUSIC ALBUM』というタイトルだというのはつくづく象徴的だ。出来すぎている、と感じるくらい。私は当時のことは知らない。どういった思いでこのタイトルにしたのだろう。

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セットリスト
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Opening SE:Night Creatures
『夜に生きるもの』
01. 真っ赤な車
02. ナイトクラブ
03. 鏡の前に立って自分を眺める時は出来るだけ暗い方が都合がいいんだ
04. 人の住む場所
05. 夕食の後
06. 女ごころ
07. チャイナ・カフェ
08. いつだってさよなら
09. 新しい世界
10. 夜に生きるもの
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『ベッドタウン』
11. テーマ
12. 後ろ向きに走れ
13. 悲しみのテーマ
14. シーラカンス
15. かっこいい車
16. 世界はまわる
17. 笑わない男
18. ベッドタウン
19. 犬と老人
encore
20. 最高の笑顔
21. 友よ、また会おう
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・二つの夜、新しい朝┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
しみじみ。これからも聴いていきます

・高橋徹也『夜に生きるもの/ベッドタウン』20th ANNIVERSARY EDITION発売&再現ライブ(更新中)┃together
ううう、反芻。chinacafeさんまとめ有難うございますー!

・30年とか25年とか20年とか|高橋徹也 吉祥寺スターパインズカフェ公演┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
最後の集合写真、山田さん2Fバルコニーから乗りだして撮ってたなあ……

・佐藤さんのサンプラーの音が後方スピーカー直結だったのかシャッター音やクラップハンズ音が2F直撃で(しかもものすごくデカい)ビクゥッとかなった

・客入れでThe Smithの『The Queen is Dead』がまるまるかかってのたうちまわる。終わったらまた頭からかかるし。で、レピッシュの「美代ちゃんのハッパ」のイントロって、これの表題曲に影響受けてる? とか思った…どっちも昔っからアホ程聴いてるのに何故今そう思ったんだろう。しみじみ