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2018年09月22日(土)
『よみちにひはくれない 』浦和バージョン

『よみちにひはくれない』浦和バージョン@さいたま市(浦和)市街地


いやー刺された(笑)。公園のシーンで役者さんの周りに沢山飛んでるのが見えて、あー演じる側は刺されても演技が終わる迄移動出来ないねえ…と思ってる間に自分が刺されてた。上演中だから変に動いたりして場に影響与えたくないから搔くに搔けないし〜。移動中あちこちから「刺された……」「痒い……」という囁き声がしてました(笑)。そういうのも含めて楽しかった。

高齢者による舞台づくりに蜷川幸雄と取り組んできたさいたま芸術劇場が、国際フェスティバル『世界ゴールド祭 2018』をスタートさせました。まずは初日のこれ。あと一本観る予定です。

この手の作品をつれまわし演劇と勝手に名付けていましたが、今作は「徘徊演劇」と銘打たれています。俳優・介護福祉士の菅原直樹がひとりの高齢者とともに立ちあげた劇団、OiBokkeShiの代表作。彼らが拠点とする岡山の街での初演から、場を浦和に移しての改定上演です。徘徊者は各回30名弱(チケット前売分20名+誘導スタッフ、関係者。菅原さんも同行)。小雨ならそのまま上演、荒天の場合は会館内で別バージョンを上演とのことだったので、当日9時の発表を遠足気分でドキドキ待つ。念のためレインコート持参で出掛けました。浦和に着いた頃にはすっかり晴天、日差しも強くなんてこったい。チケットとったときは残暑厳しいだろうから暑さ対策しなきゃと思ってたのに、ここ数日の秋空に油断した……上演中は日傘も差せませんから帽子持参をお勧めします(公演はもう終わっているので、またの上演があるときの参考にということで)。

集合場所の埼玉会館ロビーで受付を済ませ、諸注意メモと首からさげる「徘徊中」パスを受けとる。スタッフの方が「4000歩くらい歩きます」「暑くなるので必要な方は飲みものの準備を」「途中コンビニに寄ったりはしませんので(笑)買うなら今のうちに」等いろいろお話ししててくださる。開演時間になると「まだいらっしゃらない方がいますにで3分待ちます」。追いつけなくなる限界が3分ということですね。「案内人」の女性が諸注意とともに挨拶、導入を語り始める。深い、芯のある声にはっとして目をやる。ネクストシアターの堀杏子だ。出演者のチェックはしていなかったので、これから誰が出てくるかというのも楽しみのひとつ。ガイドに従いロビーを出て、浦和の街なかへ。さあ、出発です。

「主人公の神崎くんが、故郷である浦和へ二十年ぶりに帰ってくるところから物語は始まります。彼の到着を待ちましょう」。「神崎くん」を待つ。通りの向こうからネクストの手打隆盛が歩いてくるのが見える。古典や翻訳ものを意識的に上演する集団だったネクストのなかでも、演技巧者の手打さんは年長者の役を演じることが多かった。現代劇で年相応の役を演じる彼を観るのは、おそらく初めてだ。ほぼノーメイクの普段着で、口語体で話す様子を新鮮な気持ちで観る。彼の前に現れたのは、ゴールドシアターの遠山陽一。五月の公演でも印象的だった、あのひとなつこい笑顔で手打さんへ歩み寄る。

帰郷した神崎くんは、幼いころ世話になった「じいちゃん」を見かけ声をかける。じいちゃんは、認知症を患い徘徊を繰り返している妻が、目を離した隙にまたいなくなってしまったと話す。神崎くんは「ばあちゃん」を探し、かつての住まい、遊んだ公園、よしみの店を訪問するうち、故郷とそこに暮らすひとびとの現在を知ることになるのだが……。

神崎くんの後を追って歩く。神崎くんと別れ、先回りの道を行く。お寺の奥に猫が一匹。あ、と思っていると、その先の路地裏にもう二匹。人間たちがぞろぞろと入り込んできたので、大慌てで隠れ場所を探している。お邪魔しますね。案内人は観客を誘導し乍ら、この二十年で変わった浦和の街並みについて、この地を離れる迄の神崎くんについて教えてくれる。街と神崎くんを慈しむような優しい語り口。彼女はただの案内人なのだろうか? 語り手らしくひっそりとした気配だが、どうにも気にかかる。なんとも美しい姿なのだ。顔の造作だけでなく、表情も、声のトーンも。以前はだんご屋さんだったという雑貨店へ着く。ゴールドの田内一子がすらりと店内から出てきて迎えてくれる。あはは、田内さん、地元で本当にこんなお店を開いていそうな馴染みっぷり。流石だ。靴を脱いであがらせて頂く。とても急な階段(昔の家にはよくあった!)をのぼると、畳敷きに座布団が敷いてある。

現実と虚構(妄想)、あるいは此岸と彼岸の谷間にいることに、観客が気付く瞬間が二度ある。神崎くんの同級生である女性が既に故人であると明かされたとき、時計店の「先輩」がばあちゃんについて話すときだ。ここで観客は、案内人がその同級生なのではないかとハッとする。神崎くんの背後を歩く黄色いシャツを着た老婦人が「ばあちゃん」ではなかったときの不安が、先輩の言葉で確実なものとなる。

初演では、青年と老人の他は街の住人に自分の役割を演じてもらう(菅原さん曰く「自分の役を自分で演じるのだから、その道のプロ」)という構成だったそうだ。今回登場した「案内人」、つまりその街のガイドであると同時に、観客を演劇の世界へといざなうガイドの役割も果たした彼女の存在はとても大きなものだった。そして、不在である「ばあちゃん」もだいじな登場人物だった。神崎くんは案内人と、じいちゃんはばあちゃんと、街を通して対話する。思い出の地を巡ることで妄想の世界にいる老者を探しだし、記憶を辿ることで死者と会うことが出来る。タイトルにもなっている「よみちにひはくれない」をじいちゃんが口にするとき、神崎くんと同様に観客は少し力を抜いて微笑む。街を徘徊しているのは自分たち。とっくに日は暮れている、だからゆっくりしていこう。焦らず、急がず。シャッターの内側から聴く祭囃子とじいちゃんの歌声は、深く心に沁み入りました。

演劇はそのとき、その場だけのもの。この作品がいろんな街で上演されていけばいいなと妄想する。この公演に気付くことが出来てよかった、観る機会を逃すことがなくよかった。消えていく場所と時間を追いかける観劇は旅に似ている。

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・メガネのパリミキ店内に入る場面もありました。勿論営業中。ネクストの堀源起演じる店長と、ホントの店長の会話(おそらく堀さんがアドリブで話を振っている)が面白くて、クスクス笑い乍ら出た。菅原さん曰く「店長、だんだん演技するようになってきた」。偶然居合わせたお客さんもいて、事前に説明は受けていたようだけど上演中は明らかに緊張感が漂っておりました(笑)

・ちなみに前の回では、アパート階上で神崎くんが「ばーちゃーん」と大声を出すシーンの目の前で電柱を工事中だったそうです……観客は通りから神崎くんを見あげる形だったけど、彼の目の前には電柱にのぼっていた工事のひとがいたと(笑)それも観たかった……

・当日パンフレットには案内人・堀さんによる『今日神崎くんが歩いた道』イラストマップが。かわいい。あの子が愛した故郷だね

・ネクストのメンバーによる現代劇、これからも観ていきたいな。ホントに魅力的な集団だから

・観客のなかには来週上演の『BED』の作・演出を手掛けるデービッド・スレイターの姿も。同行の通訳さんがリアルタイムで英語に訳して台詞を伝えていました。こういうのも楽しかったな

・上演後、菅原さんと公演制作(さい芸)松野創さんによるアフタートークも。いや実際すっごい大変だっただろうな……実際に演技の場になる家だけでなく、近隣住人にもちゃんと内容を伝えておかないといけないし。街の住人に敬意を持ち、コミュニケーションをしっかりとらなければならないという話が聞けてよかった。高齢者に台詞を憶えさせるのではなく、彼らが何度も話す内容を台詞にすればいいという話には目からウロコ。成程!

・さいたまゴールド・シアターの面々が浦和で“徘徊”「よみちにひはくれない」開幕│ステージナタリー

・『世界ゴールド祭2018』は、世界のゴールド世代が集い、高齢社会にクリエイティブな潮流を巻き起こすべく開催される舞台芸術の国際フェスティバル│SPICE

・〈世界ゴールド祭〉ノゾエ征爾×菅原直樹が、演劇をやることで高齢者から生まれ出る強烈パワーを語る。│SPICE
「お年寄りは認知症を患ったり障害を持ったりして、どんどん役を奪われていくんです。これまでの人生ではサラリーマン役だったり、クリーニング屋さん役だったり、あるいはお父さんお母さん役だったり、それぞれ役割を持って生きてきた。やっぱり生きている限り人は役割を持ちたいんじゃないかと思うんです。」
「そのときに演劇に出会うことで、これまでやってきた役にも、やれなかった役にも挑戦できる。それは大きな楽しみになるんじゃないでしょうか。と同時にその人にできる役割を見つけてあげることがいいケアにもなる。」