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2018年07月14日(土)
『フリー・コミティッド』

『フリー・コミティッド』@DDD青山クロスシアター

120分中105いや110分くらいが急、10〜15分で緩、という体感。それだけの時間急のテンションを維持し、38役をクリアに演じ分ける。そして一瞬、軸の役に戻った凪のシーンこそに成河という演者そのものの魅力が立ちあがる。いや、すごかった。

ストーリーはとても苦い。日々オーディションを受け続けている役者は、役が決まらない間は違う仕事で日銭を稼がねばならない。一度決まった大きな役は理由もよくわからないまま立ち消えになり、新しく受けたオーディションは最終選考についての通知がこない。今の仕事は有名レストランの予約を受けつける電話係。絶対権力のシェフ、横柄な客、いつ迄待っても出勤してこない同僚、クリスマス休暇は一緒に過ごしたいと連絡してくる父……オーデション仲間からは最終選考に残ったという連絡が届く。焦り、苛立ち、疲弊…それでもときどき希望の光が灯るような出来事が起こり……?

役者という仕事は関係性こそがだいじ。オーディション仲間の言葉を借りればそれはカネとコネづくりに他ならない。有名レストランの顧客には有名人がいるわけで、それがハリウッドの重鎮の可能性もある。今の予約係という仕事を通じてチャンスが掴めるかもしれない。でもそれは、自分の役者としての力量のうちなのだろうか? 役者は悩み、迷い、そして決断する。それは今、この作品を演じている自身を映す鏡になる。

雑多な荷物が置かれた日光の入らない地下室。小道具のひとつひとつに目が届く。劇場のキャパ、舞台と客席の距離が活かされている。これらを注意深く見ておくと、登場人物に心で呼びかけることが出来る。いろんな国のひとから予約が入るんだな、ああ2コール以上鳴っちゃったよ、このお客はヤバい! 電話のやりとりは音声が観客に聴こえる場合と聴こえない場合がある。何度も電話をかけてくる客はこっちも名前を憶え、ああ、またこいつか! とイライラする(笑)。そうして登場人物と観客の関係が結ばれた頃合い、絶妙なタイミングで舞台上の彼は客席に向かって声をかける。それもたった一度だけ。観客はすっかり、彼(の役、ともいえる)に魅了されてしまう。成河さんとつきあいの長い、千葉哲也の演出もいい塩梅。

やーそれにしてもほんとヒドい職場だった……ぜってーあの職就きたくねえ。病む。でもそのヒドい職場のヒドいひとたちの長所もちゃんと描いてる、だから尚更苦い。いちばんひとあたりがよく、優しく、ある局面で主人公に救いの手を差しのべた人物がその店では問題人物とされている謎を残すところも粋だった。世界は何もかも多面体だ。

漆黒のブラック職場で日々働く彼の誠実さと才能を、誰かが目に留めていますようにと願わずにはいられない。チャンスが訪れる日はきっと遠くない、必ず見ているひとはいる。そう思いたくなる苦くも甘い二時間の舞台。こんな暑い夏にこんな熱い舞台(しかもひとり芝居)を30公演。つくづく芝居にとり憑かれた成河さんの、芝居への矜持を見た思いでした。