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2017年07月21日(金)
2015年の「Iambic 9 Poetry」

(20170724:『「Iambic 9 Poetry」ききくらべなど』からタイトルだけ変えてみた)

自分用メモ。その都度web上を探しまわらないようにしたいという魂胆ではありますが、ひとに聴かせたい+紹介したい欲もあり。夜な夜な観て、聴いております。

先日書いたようにSquarepusher空白期(自分の)を辿っているところ。その道中でいちばん衝撃を受けたのは「Iambic 9 Poetry」の変化でした。2004年発表の『Ultravisitor』に収録されていた、最もフラジャイルな曲。歩くような速度のBPM、つぶやきあるいはためいきのようなリフレイン。躓き、転び、そして再びたちあがるリズム。冬の星空、春の陽だまり、雪の降り積もる夜、あるいは雨降りの朝。内に激しさを秘めた、静かな風景が想起される美しい曲です。

・原曲


この曲が、2015年の『Damogen Furies』ツアーのアンコールで演奏されていました。リズムとハーモニーを同時に奏でるベースソロ。イントロとアウトロが加えられ、新しいひとつの楽曲として生まれかわったかのようです。続けて演奏された同じく『Ultravisitor』収録の「Tetra-Sync」とともに、沢山の動画がYouTubeにアップされています。どれもがオーガニック、そしてエモーショナルな演奏。

アメリカ(4月)とスペイン(6月)、そして日本(5月)での映像を並べてみます。観客の反応の違いがまた面白い。

・Squarepusher, Live @ The Observatory, Orange County California

オレンジカウンティ。アメリカには根強いファンがいるようで、未だに「F**kin' Daddy!」とか声がかかっている。演奏も力強く、ちょっと荒々しさがあります。

・Squarepusher - @ Sónar 2015

バルセロナ、Sónar 2015でのステージ。フロアのざわつきがちょっと気になってるかな? 映像と同期している機材のチェックもいそがしい。

・Squarepusher Iambic 9 Poetry~Bass solo~Tetra-Sync Live In Japan 2015.

東京、恵比寿ガーデンホール。途中からで音割れも酷いけど、フロアの喜びようが伝わって泣き笑い。『Ultravisitor』ツアーの来日公演では演奏されませんでしたから、「Iambic 9 Poetry」が日本で披露されたのはこの日が初めてだった筈。大歓声のあと、水を打ったように静まり返るところは日本ならではですね。一音も聴き逃すまい、といった雰囲気。
それを受けてか、演奏もアメリカ、スペインのときよりためがあるというか、一音一音をかみしめるように弾いているように感じます。歓声と拍手に照れたように応える表情もとてもいい。「Tetra-Sync」に入ろうとしてもニヤニヤがおさまらないのか、鼻すするような仕草してるとこもかわいいですね(笑)。その反面、リフをまるでうわの空で弾いているような様子も見せる。楽器に身体を預けているようでもあります。

・Squarepusher Damogen Furies Tour Tokyo Encore

同じ東京での映像。こちらはアンコールの最初から入ってて音もそれなりにいいんだけど、近くにいる感極まりきったお兄さんの声がうるさい(笑)。

ちなみにこのイントロですが、2011年4月に行われた『MADE IN JAPAN - A Benefit Concert For The Victims of the Japan Disaster』のオープニングで演奏されています。音源はこちら↓

・Squarepusher - ATP Presents Made In Japan Benefit, London - 2011 by keyfumbler | Mixcloud


東日本大震災に際してATPが開催したイヴェントで、おおよそこういうことには距離をおきそうな面々(LFOにFuck Buttons!)が出演していました。それ程の事態だったとも解釈出来ますが、手を挙げたひとたちの筆頭に彼がいたことを思うともう感謝ばかりですよ……。
ドラマーとのインプロセットだったそうで、イントロに続いての展開は『Just a Souvenir』や『Shobaleader One: d'Demonstrator』の流れを汲んだものになっていますね。途中聴こえる「This is for Japan, This is for Japan.」という観客の声も印象的。

それにしても……このヴァージョンの「Iambic 9 Poetry」を含むアンコールの楽曲、スタジオレコーディングしてリリースしてくれないかなあ。イントロとアウトロがあとから加えられたなんて思えない完成度です。いや、アンコールまるごとが、もとからこの構成…ひとつの組曲のようになっているかのよう。「Iambic 9 Poetry」はその第二楽章、「Tetra-Sync」が第四楽章と考えれば合点がいく。さまざまなコードやキーからあらゆる曲に繋いでいく技量はDJ的でもあるけれど、それを演奏で出来てしまうところは流石。だからこそライヴで、なのかもしれません。また聴ける機会はあるのだろうか……orz

そんなこんなで2009〜2011〜2015を後追いで繋げている最中です。この間ベースソロのインプロ作品を発表したり、Shobaleader Oneを展開させたり、ロボットのための楽曲を書いたり、ソフトを開発したり。一見バラバラのようだけど、こうやってみると各々の活動に次へのヒントが見つかる。彼からすると自然に、おおきな流れのなかを泳いでいるのでしょう。

そして決して本数は多くないけれど、このひとのライヴに対する愛着も改めて感じています。自分をステージで晒すのは苦手だけど、観客の反応はうれしいみたいな複雑さ。名前のとおりの生真面目さで、ステージをよいものにしようとせっせと準備してる様子も伝わりますし、実際ステージに立つと「皆楽しんで! 愉快になって!」といったテイでめっちゃ煽るし(しかもマイク通さずにな…地声デカい……)盛り上げますよね。それが「頭おかしい」といわれてしまうものに仕上がっちゃう。唯一無二ですね(微笑)。

センシティヴな感性を持つひとたち。コミュニケーションの手段としてアートを選んだ、才能あふれるひとたち。彼らが創作に没頭出来ますように。彼らの心が、闇で溺れることがありませんように。今はただただそれを願うばかりです。