初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2017年04月30日(日)
『2017・待つ』

GEKISHA NINAGAWA STUDIO『2017・待つ』@彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO(大稽古場)

初期メンバーが中心となり、再びの『待つ』。ベニサン・ピットで観続けた、思い入れのあるシリーズ。懐古と発見と、可能性と。蜷川さんの遺したものは、これからどうなっていくのだろう。

『待つ』シリーズにゴールド・シアターとネクスト・シアターの面々が出ていることの喜び。総出のフェルナンド・アバラール『戦場のピクニック』、その説得力。実際にその時代を知っているひとびとから発せられる「あったあった」「このくらい」「あたりまえ」というような言葉があまりにも軽妙で、戦争が日常にあるくらしについて考えを巡らせずにはいられない。その「あたりまえ」をつきつけられるのはネクストのメンバー。若い世代の彼らは、それ以外の道を探そうとする。その誠実な思いに老人たちも歩みよっていく。戦場で食べるランチ、戦場で聴く音楽。そしてダンス。ひとときの安らぎ。夢のような時間は、やがて暗闇にかえっていく。この光景は、ニナスタ、ゴールド、ネクストの役者が揃ってこそのもの。

このパートのみ演出に井上尊晶のクレジットがあった。独特のサポートが必要で、独特のメソッドがあるゴールドという劇団。次回彼らを演出する岩松了にそのノウハウが伝えられていくのだろう。

そうそう、清家栄一はひとりでやるのが常だった。思い入れがあるのだろうシェイクスピア作品の数々。そうとは知らず観ていても、ちょっとした言葉のつかいかたで「あ、これきっとそうだわ」と気づく清水邦夫作品『花飾りも帯もない氷山よ』を立体化したのは飯田邦博×塚本幸男。ウィリアム・サローヤン『パパ・ユーアクレイジー』、幸田文『終焉』、小澤僥謳『火宅の人』を引用した構成が見事だった妹尾正文×堀文明。

大石継太×岡田正のパートは、オムニバス形式の今作で唯一拍手が起こったパート。前田司郎『逆に14歳』をふたりで演じる。最初そうだとわからなかった(声でやっと気づいた)大石さんの変わり身に驚く。ちょっとしたメイクと、マウスピースでこんなにもかわるのか。改めてこのひとの柔軟な、透明な資質に驚かされる。悲劇も、喜劇も、どんな物語もひきうけることができる。いつからか女方の役まわりが増えた岡田さんも、ジェンダーと世代を超える人間の姿を見せてくれる。葬儀に出る機会が増え、身体は衰え、心や弱る。それでもふたりは14歳の瑞々しさに溢れて、いつでもそこへかえることが出来る。泣き笑いで拍手を贈る。

この盛り上がりのあとどうするか…と思っていたところ、田丸雅智『キャベツ』という不条理SFのような短編がきた。初めて知る作家だが、ふと思い出したのは宇野イサム。かつてニナスタに在籍していた「すこしふしぎ=SF」な短編を多数発表していた作家だ。新川將人×野辺富三はその「すこしふしぎ」をひとなつこく演じる。これ面白かったな、野辺さんの新しい魅力を発見した感じ、ゆるキャラ(失礼)のようなかわいらしさ。向かいに裏方で入っていたネクストの續木さんが座っていたんだけど、思わず吹き出しちゃったって感じで笑っていたのも微笑ましかった。

そして、ニナスタの面々によるレジナルド・ローズ『十二人の怒れる男』。観られてうれしかった。何度も繰り返される「話しあいましょう」という台詞。自身がこの世界に存在することを知らせたい、認めてもらいたいといわんばかりに熱弁をふるう登場人物たち。この集団がはじまった頃、こういう熱気に満ちていたのだろうなと追体験させてもらった気分で胸が熱くなる。そうそう、初めて役者の井上尊晶さんを観たことにもなんだか感動したな。「GEKISHA NINAGAWA STUDIO翻案」とクレジットがあり、今の世相や問題に置き換えたであろうやりとりもある。それでもこの作品がいつ観ても“現在”だ。作品のもつ普遍性は素晴らしくもあり、悲しくもある。世界が、人間が変わっていないということだからだ。ちょっとした言葉から浮き彫りになる差別意識、個人的怨嗟。常に“現在”を見据えていた蜷川さんに観てもらいたかった。戸川純、シガーロス。聴きなれた曲ときおり我にかえる。そうだ、蜷川さんはもういないのだ。でも、と思う。だから、とも思う。

このパートにネクストのメンバーが加わっていたこと、ニナスタの面々に一歩も引かない演技をみせていたことも頼もしかった。『戦場の〜』同様、世代のぶつかりあい、そして「話しあい」。彼らがこれからどんな演劇を見せてくれるのか楽しみにしている。そのときを「待つ」。

-----

・終演後大石継太さんは人魚の肉喰った族だという話をしました(笑)綺麗な顔立ちよねー、そして最初観たときから殆ど印象がかわらない
・宣美に鳥井和昌、当日パンフレットに「協力」として今回出演していないあのひとこのひとの名前があったこともうれしかった

・[NINAGAWA STUDIO WEB SITE]-ニナガワ・スタジオ-
・9人の俳優たちのプロフィール
・さいたまゴールド・シアターも参戦、エチュード発表

・9人の俳優たちの座談会『9人、〈待つ〉を語る。』
「ふだん言い出しっぺになるようなイメージではなかった人(大石)が、すごく強力に「やろうよ」って言うのは珍しいなあと思った」。というわけで、言い出しっぺは大石さんだったとのこと。うん、わかる……お通夜の話、鈴木裕美さんもツイートしていましたね。『待つ』の大石さんを観るの、大好きだった

・蜷川幸雄の遺産。『2017・待つ』の言葉と身体|長谷部浩の劇評