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2017年02月04日(土)
『ダークマスター』

庭劇団ペニノ『ダークマスター』@こまばアゴラ劇場

岸田戯曲賞受賞後初の関東公演になるのかな? 再々演くらいらしいですが、今回は関西プロジェクトとして大幅に改定が加えられたとのこと。原作は『オールドボーイ』の狩撫麻礼、書籍は絶版ですが電子書籍で読むことが出来ます。

・泉晴紀、ダークマスター『オトナの漫画』ビームコミックス Kindle版
(第0話。「ダークマスター」はタイトルではなく、狩撫麻礼の別名義)

とある洋食屋。店主の腕は一流、しかし偏屈で接客が下手。そして重度のアルコール依存症らしい。ある日ひとりのバックパッカーが店に迷い込んでくる。その男は職に就かず、日本中を旅している。携帯も身分証も家においてきていると話す。そうだ、こいつに仕事を代わってもらおう……。店主は男の耳にイヤフォンを仕込み、階上の部屋から料理の手順を指示するという。そのとおりにつくればおいしい洋食が出来あがり、客は喜んで帰っていく。やがて店は行列が出来る程の評判になるが、店主はあの日以来部屋から出てこない……。

ペニノの公演を心待ちにしていた昨年、こんなエキストラ募集の告知がtwitterに流れてきました。「舞台上で美味しい洋食を食べませんか」……??? ペニノを観るようになったのは2013年からなので、このときは『ダークマスター』の存在を知りませんでした。関西の公演を経てやっと東京での上演がはじまり、さてtwitterに流れてくるのは「腹が減るので食事してから行った方がいい」「(劇場近くの)キッチン南海でごはん食べて帰りたくなる」「でもソワレ終了後は南海もう閉まってる」「あああ!」という感想。おいおい楽しみすぎるがな。お昼をしっかり食べていきましたが……。

噂に違わずお腹のすくこと(笑)。実際に食事をつくるのです。舞台上から漂ってくるいいにおい。視覚、聴覚だけでなく嗅覚まで刺激されちゃあたまりません、客席のあちこちから生唾を呑みこむ音、お腹の鳴る音。いやあ、鳴るよね…身体は正直、抗えないよね……いやはやこれぞ演劇の強み、アゴラ劇場という閉塞感に満ちた場も効果的です。あまり広いところだとこの臨場感は出ない。

客席にはイヤフォンが設置されており、観客は男と同様店主からの指示をイヤフォンから聞きます。バターをひとかけ、揚げるように焼く、ブランデーをふりかける、隠し味に豆板醤、ピーナッツを砕いたものを入れて食感に違いを出す……さ、参考にします! といいたくなるレシピの数々。調理は時間との勝負。同時にいくつもの作業をこなさなければならない。切り方は? 道具はどれ? 盛り付けは? 段取りに四苦八苦しているところに話しかけてくる店の客。う、うるせえ、集中出来ない! 話しかけんなああああ!!! いやーウケたウケた、舞台と観客が一体になるような、ライヴ感覚の盛り上がりを見せた場面でした。てかワンオペの料理人のすごさをも思い知りましたよね……。調理、セッティング、会計。まさに職人技。それを演じる役者もすげえな! 別に料理人じゃないのに!(笑)そうよね役者ってなんでも演じるのが役者なのよね。うーんやっぱりすごいな役者って。なんてこと迄考えてしまいました。

しかしこのまま楽しく終わるわけないのがペニノです。いわれるがまま動いていた男はやがて指示がなくても料理をつくれるようになり、店主と同化していく。比喩ではなく。身体の不調を訴える店主に請われて薬を服む、飲めなかった酒を呑む。店主が呼んだデリヘルを抱き、イヤフォンからは店主の喘ぎ声。「誰が」料理をつくるのか?「誰が」いくのか? 原作は30頁弱の短編ですが、加えられたエピソードの芳醇なこと。フィールドワークの成果も反映される。再開発されていく大阪という都市、外資産業の参入。レシピ通りにつくれば街の姿は同じになる。画一化していく資本社会を一筋縄ではいかない表現でタニノクロウは描きます。酒はマッカラン1939、この時代、日本は何をしていたか。店を訪れる中国人との対峙に都市の風景を重ねて観る。

帰宅後、このツイートどおりにGoogle Mapを開いてみました。

・大阪|オーバルシアター周辺

このあたりだったのか……再開発進む阿倍野地区だ。画面上を散歩してみる。作品にもう一歩踏み込んだ気分になる。いいこと教えて頂きました、有難うございます!

終演後、劇場近くにあるキッチン南海(近所にキッチン南海があるってのがデキすぎてる〜)を横目に帰った。夜は洋食店に行った(笑・いや偶然だけど。もともと行く予定だったんだよ〜)。劇場にい乍らにしてつれまわし演劇を体験した気分だったが、観劇後もそれは続いた。いやはやペニノはクセになる、異世界へつれていってくれる。

最後に、参考になれば。時間は気にならない面白さとはいえ、背もたれなしの狭い席での観劇になるのでちょっと体力いります。いちばん後ろの列か壁際の席に座ると寄りかかれるところがあり、少し楽です。しかし後ろ/前過ぎる席だと、天井を利用した映像が見づらいかも。見えるのが勿論いいんだけど、それが見えないからといって展開が判らなくなるということはありません。

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・庭劇団ペニノ「ダークマスター」東京公演感想まとめ - Togetterまとめ

・タニノクロウ展/東京篇
翌日行ってみました。京都の展示より規模はちいさいかもしれないけど、作品世界は体験出来ますよ。ちなみに会場のパラボリカ・ビスは、池波正太郎が愛した洋食大吉のすぐそばです。ふふふ

・デリヘル嬢役の坂井初音さんがいい味出してた。元(になるのかな)維新派の井上和也さんが出てました。初めて白塗りじゃない井上さん観たわ

・作った料理はオムライス、ヘレステーキ、コロッケ定食、ナポリタン、野菜炒め定食、ハンバーグだったかな。そうそう、ナポリタンは炒めあわせた麺の上に茹で上げの麺を少し盛り、最初はその麺だけを食べるってのやってみたい。「デュラムセモリナは小麦そのものがうまいんや〜」