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2016年03月17日(木)
『親切なクムジャさん』

『親切なクムジャさん』@韓国文化院 ハンマダンホール

おっきなスクリーンで観る機会を待ってた甲斐があった〜パク・チャヌク監督復讐三部作、最終章。しかし前の二作(『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』)をまだ観ていないのでした…や、やっぱ初見をスクリーンにしたくてね……。原題は『친절한 금자씨(親切なクムジャさん)』、英題は『Sympathy For Lady Vengeance』。日韓ともに2005年公開作品。

と言う訳で十年以上も前の作品なのか〜と初見なのに感慨深くもなったりしました。監督や出演者の今の仕事ぶりを知っていて、遡って観ている訳ですから。チャヌクさんもミンシクさんももう大御所の域ですし……。変わったところがあるかは判断出来ないが、変わらないところ、素地のようなものについて意識的に観る。ヴァイオレンス、グロテスク、ユーモア、映像美、そして宗教観。『渇き』でも感じた「信仰を持つ者の罪の意識」について考えさせられる。監督のインタヴュー等にふれると必ず出てくる、彼がクリスチャンであること、それは親の影響下にあること(つまり親がそうだったので、生まれたときから自分の意志とは関係なくクリスチャンとして生活することになった)、自分が成長するに従いその信仰に疑問を持ったこと、しかし幼少期からの刷り込みでもあるその宗教観からは逃れられないこと……それらを監督は、作品を通して追求し続けている。そう感じるのは、私自身の育った環境に共通するものがあるからだろう。母の死によりその縁は消滅したが、受けた影響は消えることがないし、それによっていいこともわるいこともあった。得たものは多い。失ったものがあるかは、他の環境で育ちなおすことが出来ないので判らない。

信仰への疑問が憎しみや軽蔑に転ずるかというと、必ずしもそうではない。安息を得る方法としてそれを選んだ、生きていくためのツールと解釈することも出来る。そもそもそう解釈すること自体が宗教への冒涜なのかもしれないが、神という存在に対しての冒涜にはならないと自分は考える。チャヌク監督の描写はシニカルであり乍ら愛嬌がある。「バカだなあおまえ、そんなことを信じきって。でも、決して否定出来ない」。罪は消せない、抱えて生きていくしかない。生きることを選んだならば。では、生きていくうえで救いを求めるのはどこなのか? 生きている間か、死んでからか。未来へと生きていく娘にか。クムジャさんが選んだ道、イ・ヨンエが最後に見せた表情が忘れられない。

ガッちゃん(Dr.スランプ)のストラップがふいに映ってハッとする。「こどもが好んで持つものを大人が持っている違和感=犯人には余罪がある」ことを表すための小道具なのだが、日常に紛れ込む近くて遠い国のことをまた思う。韓国におけるクリスチャンの数、欧米への養子縁組の多さ、出所時に食べる豆腐の意味。知識が増えると理解も増える。こんな積み重ねも、個人の貴重な思い出になる。

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・輝国山人の韓国映画 親切なクムジャさん
過去作品について知りたいときはまずここ! 毎回本当にお世話になっております有難うございます〜! こちらのデータにありますが友情出演多数。スンワンおにいちゃんどこに出てるかわからんかった…ガンホさんとハギュンさんはわかった

・Sang-gyeong Jo - IMDb
衣装を担当したチョ・サンギョンの作品データ。ワンピースの柄からケーキ屋さんの制服迄どれもスタイリッシュで素敵だなあ、『渇き』のセンスと共通しているような……と気になって調べたら同じひとだった。『新しき世界』から『暗殺』迄、レトロもモダンもお手のもの。手掛けた作品群の多彩さに驚くと同時に、チャヌク監督の美術におけるヴィジョンはとても明確なのだなと思う。作家性ともいえるか。そしてその要求に応えるサンギョンさんの仕事人ぶりにも瞠目。本当に服がいちいち綺麗なんだよ……色彩、ライン、目が醒めるような美しさ。しかしこの頁、IMDbなのに日本語(ローマ字)タイトルになってるのが多いのはなんでだろう…おかげでわかりやすかったけど

・ナム・イルが映ったとき「松本隆がなんで出てる?」と素で思うなど
いやホントに素で思った