初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2016年02月26日(金)
『原色衝動 ダンサーズ イン ザ パラダイス』

『原色衝動 ダンサーズ イン ザ パラダイス』@世田谷パブリックシアター

白井剛×キム・ソンヨン×荒木経惟。そしてADは榎本了壱。これは気になるってなものです。昨年秋、京都芸術劇場で初演(このときのサブタイトルは『パラダイスでインパルス』)された際のキャッチフレーズが「天才アラーキーで遊ぶ!」でしたので、なんだか楽しそうな内容なのかな? 白井さんのコミカルな部分が観られるのかな? と思っていました。

・【原色衝動】紹介動画|channel 京都芸術劇場

これもなんだか楽しそうな映像でしたし。かわいらしさすらあるじゃないのー。

しかしフライヤー等の宣美はそうとも言えない空気感。動きのあるモノクロームの人物写真と、毒々しい色合いの静物写真のコントラストに魅かれます。果たして出かけていってみれば、緊張感溢れる艶やかな公演でした。

使用された映像はアラーキーの『往生写集−東ノ空・ꟼARADISE』から。ステージ後方に貼られた布や床に、華やか、しかし泥臭い色彩が溢れる。布は複数の層に分かれている。スクリーンとして使うものと、カーテンとして使うものと。スクリーンに映る写真をカーテンで一部しか見えないようにする。隠すように見せるところが、ストリップを思わせて艶めかしく魅力的。映像設計は山田晋平。

序盤は無音、これが長い。静まり返る観客が見守るなか、ふたりはゆっくりと肌が触れ合うスレスレ迄近付き、そして離れ、を繰り返す。身体も、顔も。胸も、腕も、頬も、唇も。これがエロティック極まりない。文字通り固唾を呑む、その音が自分だけでなく隣席のひとにも聴こえてしまいそう。いや、実際聴こえていたと思う。同様に隣のひとの、唾を呑み込む音が聴こえたから。これはもう、お腹なんか鳴らせません(笑)。そういう意味でもすごい緊張感でした。実質二列目だったんだけど、ここでお腹鳴らしたら確実に三階席迄聴こえたであろう……。映像は沼のように音もなくたゆたう、そのなかを泳ぐように、ふたりはしなやかに踊る。魚みたいだ。ああ、これは三階席から全景を観たかったな! と思うと同時に、息遣い、匂いすらも伝わりそうな前列でふたりのふれあい(触れてなくても)を観られたのは貴重な体験。

「新種の爬虫類が組んず解れつ、別世界のラブシーンが見たいね。どっちが武蔵で小次郎か、これは新しい決闘だよ」。本公演に際してのアラーキの言葉だが、いやーあれはラブシーンですね、本当に。美術(杉山至。『同じ夢』も彼だったなあ、両極を観た思い)の他にあるのは椅子と怪獣のビニール人形、ときにスネアドラム。舞台袖の機構も見える。天井の高いSePTにふたりきり、その空間の広さと反比例して覗き見している感覚に陥る。ふと目をやれば、カーテンで仕切られた隙間には人形の目。

アラーキーは声で出演(?)も。宣材写真を撮影したときのものだろう、「いいよ!」「決闘だよ、決闘!」と言った声、続いて韓国語に通訳された言葉がとぶ。モノクロの写真に血を連想する。ふたりの衣装も黒一色なのに、生命と情熱を連想させる赤い血が脳裏に浮かぶ。ふれあわないラブシーン、ふれあう格闘(そうそう、他にこういうジャンルを知らないので見当違いかもしれないが、contact Gonzoを思い出すようなシーンもあった)。ふれていないのに傷が現れるよう、血が流れるよう。生には必ず死がついてくる。ここ数年のアラーキーは、死と戯れるように写真を撮る。「今は死神が言い寄ってきてっから、この死神をどかせないと」。『往生写集』を撮っているとき(2013年末。写真集の刊行と写真展は2014年春)、彼は右目を失明している。死に向かい乍ら踊るふたりのダンサーの姿に、生命の軌跡を見る思い。

ふたりのチャームに思わずクスッとする場面もあったが、終わってみれば格闘技の試合を観たような気分。カーテンコールではこちらが一息ついた。

ツナギのようなソンヨンさん、ノースリーブの白井さん。ダンサーの身体の動きにピタリと添うような、それでいてゆったりとした清川敦子の衣装も素敵。要所要所でガツンとくる原摩利彦の音楽も印象に残りました。

-----

・『原色衝動』|世田谷パブリックシアター

・『原色衝動』trailer movie|SetagayaPT


・プロジェクション・コントロール 〜Modul8を使って|Digital Imaging|AMeeT
“舞台に映像をプロジェクションしながらの画像調整は、必要不可欠な作業である。というのも、PC上でつくった映像(素材)を、そのモニターに表示されている通りに舞台上に投影することはまず不可能だからだ。そもそもそれを目標とすることにあまり意味がない(もちろん舞台上で素材が「うまく投影されている」イメージをもっておくことはとても大事なことだが)。”
山田晋平さんのお仕事、オペレーションの話と使用ソフトについて。維新派とかも手掛けてるんですね。照明との掛け合い等、こういうところに注目しつつ公演を観るのも楽しいかも