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2016年01月09日(土) ■ |
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『오케피(オケピ)』 |
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『오케피(オケピ)』@LGアートセンター
2016年観劇始めはなんと韓国公演です、この腰の重いのがよう出掛けたな……。三谷幸喜の『オケピ!』が、韓国のプロダクションで上演中なのです。会場のLGアートセンターは三階構造でキャパ1100、日本で『オケピ!』が上演された青山劇場は1200ですからだいたい同じくらいの規模ですね。ほぼ埋まってました、日本人客もちらほら。ダブルキャストで、観劇日のキャストはこちら。
(クリックすると拡大します)
そもそも今回渡韓して迄この作品を観ようと思ったのは、『新しき世界』をきっかけに惚れ込んだ役者であるファン・ジョンミンさんが演出を手掛け、コンダクター役で出演もするから。ジョンミンさんは韓国版『笑の大学』初演に劇作家役で出演しており、パートナーであるキム・ミヘさんとともに『オケピ!』に惚れ込んで韓国での上演実現に奔走したひとでもあります。制作はそのジョンミンさんとミヘさんが立ち上げた会社、SEM Company。ミヘさんは今作のプロデューサーを務めています。上演迄五年かかったとのこと。基本当て書きのため戯曲の出版はしない(『オケピ!』は白水社からの出版が慣例となっている岸田戯曲賞受賞作品のため、重版はしないという条件で出版された)、当然改変などもってのほかという、作品の扱いにとても厳しい三谷さん。かなりの交渉、準備が必要だったと思われます。今回の上演は戯曲が存在せずDVD化はされた2003年版が基になっていたようですから、上演台本のチェック等細かいところ迄詰めたのではないでしょうか。
さて内容と観客の反応ですが……とてもよかった! 開幕直後、日本と韓国両方のミュージカル/演劇に詳しい知人(在韓邦人)が「グランドミュージカルが主流である韓国の観客に、このノリがどう受け入れられるか…」と言っており、実際一幕目は困惑の雰囲気がありました。ミュージシャンそれぞれのテーマが順に唄われ、最後にはタペストリーのようにひとつの曲へと編み込まれていく序盤のハイライト「彼らはそれぞれの問題を抱えて演奏する」でも反応はほほお、といった程度で拍手も普通。しかしこれは日本で『オケピ!』が初演されたときもそうだった。これはストレートプレイ・ミュージカルコメディだ、と観客が了解する迄が肝です。
幕開けから台詞、台詞、台詞。「いつから唄い始めるんだと思ってるでしょう?」なんてコンダクターが観客に語りかける場面もある。初演の戯曲には「この芝居、ミュージカルにしては唄が少なすぎないかな。台詞ばっかり」なんてオーボエが観客に語りかける場面もある。 (追記:初演の戯曲を読みなおしてみたら、上記のコンダクターの台詞はありませんでした、失礼しました! しかし真田広之にこう語りかけられた憶えはあるんですよね…今となっては自分の記憶が信用出来ない。そして今回の上演では韓国語のリスニングが出来ていないので(…)この台詞があったか定かではありませんが、該当の場面で観客は笑っていたので、おそらく同じような台詞があったのだと推測します。もしなかったら失礼しました! 趣旨としては、歌が少ないミュージカルであるというのを伝えるための台詞がある、という例としてのものです) 演者が根気よく、徐々に観客を惹きつけていく。印象としてはまずトランペットの言動から笑いが増えはじめ、サックスの八面六臂の活躍にドッとわく。二幕目にはもうすっかり演者のペース、手拍子が起こり、歓声が飛ぶ。この頃には台詞の応酬場面もドカドカウケてました。客いじりの場面ではやんややんやの喝采が。自分がいじられなくてよかったとこっそりホッとした…だって言葉が解らない! どぎまぎしてたらこのいい流れを切ってしまう!
そう、当方言葉が解らない訳です。戯曲を頭に入れていったもののそれは初演のものだし、細かいニュアンスは理解出来ていない。それでもとても楽しめたし、韓国の観客のポジティヴな反応がとても嬉しかった。上演中にオーケストラピットを出て行ったメンバーがチムジルバンに行って、ヤンモリ被って戻って来る場面があったり(笑)と、韓国ならではの設定もありました。「ポジティブ・シンキングマン」の韓国語題が「하염없이 긍정맨(とめどなく肯定マン)」となっており、サビはケンチャナなんとか〜と聴こえたので、「だいじょうぶだいじょうぶ」てなちょう前向きな歌詞になってるんだろうな、と想像するのも楽しかった。
演出でまず驚かされたのは、舞台構造が二層になっており従来のオーケストラピットが上に位置していたこと。開幕直後、そのオーケストラピットの紹介らしきアナウンスとともに入場してきたミュージシャンたちが手を振り、観客が拍手で応えたこと。このときジョンミンさんも登場して場を盛り上げていたこと。この幕開けを観たとき、ジョンミンさんがこの作品を上演したかった理由が判ったような気がしました。『オケピ!』は、ショウマストゴーオンという舞台人の矜持を通して登場人物が成長する物語。舞台の裏方、スタッフへの敬意が溢れる作品であると同時に、観客を楽しませる、という思いが詰まった作品。そして彼が演じたコンダクターは、個性の強いメンバー…共演者たちの魅力を引き立てまとめ、自分が影になることも厭わないという役柄。舞台の上から指図され、ピットのなかではトラブル続き。周囲に振りまわされ、右往左往していても、ステージを無事終えられるよう、バンドの先頭に立つ。やれやれと苦笑し乍らも、どこかでそれを楽しんでいるかのよう……ファン・ジョンミンという演劇人の、舞台への思いを改めて知り、胸を熱くした次第です。
それにしてもこのオープニング含め、全方位に目配りが利いたその演出/スタッフワークにも唸った。舞台機構の使い方も絶妙。ステージ上の盆は円柱になっており、その上にオケピがある。場面によって、ソロを唄う演者は円柱から降りて前に出てくる。そのとき盆がまわり、ピットをミュージシャンの背中越しに見ることになる。譜面用ライトのちいさな光はこんなに美しいのだ、と気付く。舞台裏のまた裏、ミュージシャン側からしか見えない世界も見せてくれるこの構造。群像劇で今誰に注意を向ければいいか等、ピンスポットによる誘導もさりげなく丁寧です。いやはや参った。
出演者はジョンミンさん以外知らないひとばかりだったのですが、どのひともよかった〜。皆さん歌にパンチのあること! ハープ役のリナさんは日本初演・松たか子の唄いまわしに再演・天海祐希の立ち姿を持ち合わせていた。いやーホント、センテンスの語尾がお松のグルーヴ! わっとなったわ……。個人的に大好きなナンバーを唄うオーボエ役のソ・ボムソクさん、パーカッション役のチョン・ウクジンさん、どちらも素敵。そしてトランペットな! キム・ジェボムさん、ニヒルでよかった。トレンチコートの裾をいちいちバッ! と翻すアクションもいい。そしてそんな彼らが唄っているとき、満面の笑顔で、そして彼のファンならピンとくるであろう、あの独特の動きでリズムをとり踊っているジョンミンさんのかわいらしいこと。そうそう、ジョンミンさんのナンバー第一声には鳥肌たちましたね。あの歌声だ! あの歌声を生で聴けている! と思って。はー素晴らしかった。
服部隆之による楽曲も堪能、改めていい曲揃いだなと。このプロダクションで日本公演があればいいのに、このキャストレコーディングでサウンドトラック出ればいいのに(日本のすら出てないけどな…告知出たのに延期〜中止になったんだよね……)と思いつつ劇場をあとにしましたよ。観ることが出来て本当によかったです。
あっそうそう、舞い上がっていたのか帽子を劇場内に忘れてしまったのです。終演後に気付き慌てて戻ったんですが、どう韓国語で言えばいいのか判らない。やばい…とりあえず英語で……と劇場スタッフの方に「あいろすとにっときゃっぷいんしあたー」と言ったら「ああ、帽子! こちらですか?」と日本語で答えられ持ってきてくれました……。おもいっきし「かむさはむにだー!」て言いましたよ。有難うございましたー!
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その他。
・ジョンミンさんやっぱプロポーションいいわ…舞台映えする。礼装似合うわ ・ピアノ役のひとりが『ベテラン』の財閥会長役だった方(ソン・ヨンチャン。せんだみつおに似ている)だった。観た日には出演されなかったんですがどんなふうに唄うんだったのかすっごい気になる…あの腹黒財閥会長が……
・公演レヴュー|甘くほろ苦い人生の味...「オケピ」|NAVER (Google日本語訳)
・音楽監督/指揮のキム・ムンジョンインタヴュー「音楽監督は旋律を舞台化する人です」|hankooki.com (Google日本語訳) キム・ムンジョンさん、韓国ミュージカル界でかなりの実力派のようです
・『オケピ』パンフの三谷さんコメント
(クリックすると拡大します)
観にいらっしゃる予定のよう。今回の演出(装置)では、オケピから観ることは難しいのではないか(笑)
・『ミュージカル「オケピ!」観劇して感激』|ゆうきの韓国スケッチブログ 韓国在住の方のブログ。感想が素敵だったのでリンク張らせて頂きます。開演前のアナウンス、こんなこと言ってたのか〜(笑)あちこちから笑いが起こってたんです。言葉が解らない自分はひたすらキョロキョロしていた。そうそう、開演前とカーテンコールは撮影可だったのでした
・2003年日本版の感想はこちら。初演の頃はまだ感想日記を始めてなかったんだなあとしみじみ振り返る
本編以外のあれこれについては次の頁で。
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