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2015年05月04日(月) ■ |
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『ART』 |
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『ART』@サンシャイン劇場
『前に下がる 下を仰ぐ』、『現代演劇ポスター展』と、二日間現代アートに触れてきてこの作品。いやーニヨニヨしました。よりにもよって? 山口晃展には『オイル オン カンバス(本歌 西本願寺 襖絵)』と言う(一見)真っ白な作品がありましてな……(苦笑)。
三人芝居。ひとりが絵を買う。真っ白なキャンバスに真っ白な線が数本描かれている。500万円也。ひとりが笑い飛ばす。なんでこんなクソに500万も!? ひとりは自分の結婚を前にして落ち着かない。かくて三人の友情に亀裂が生じ始める。いや、そもそも三人を繋ぎとめていたのは友情だったのだろうか? 支配欲、服従欲、自己愛の変態過程だったのではないか?
ヤスミナ・レザ好きだわー。『偶然の男』、『おとなのけんか』(『大人は、かく戦えり』の映画版)と観てきてハズレがない。対人関係の齟齬を描き、背後にある社会との関わりや個人の事情を浮き彫りにする。基本的に問題は解決しない。仕方ない、それでも、と言う感覚も消えないが、それでも寛容を感じずにはいられない。痛烈なブラックコメディとも言えるが、後味は意外にも悪くない。人生は苦くて甘い。
登場人物たちが直面する問題に苦笑させられ乍らも(身に覚えがないと言うひとはいないだろう)、今回考えさせられるのはアートの価値と言うもの。作家の有名性、価格と言った付加価値や、単純に色を沢山使えばその分絵具代がかかるだろうと言ったコストパフォーマンス迄。作家、作品への敬意をお金で表すことの難しさ、作品をまっさらの状態で見る、感じることの難しさ。セルジュが白い絵に感動したのは事実だろうが、それに500万(この額はイワンの年収…いやその倍だったか? を上回る)を出したのは彼が裕福だから? その絵を陵辱したのはマークへの服従心から? それとも名声のため(だけ)に手にしたものなど代替可能だから? 作品をクソ扱いしたマークは、セルジュの本心を知っていると言う慢心がある。そしてセルジュが心底嫌うマークの妻は、絵の受難を救う方法を知っている。
マーク=市村正親、セルジュ=益岡徹、イワン=平田満。市村さんは身のこなしが美しく、自信にあふれ、それが同時に傲慢として映る人物像。しかしいちばん観客を沸かせる。どんなに酷いことを言っても愛嬌があり、支配されていると感じていても彼に惹かれてしまうセルジュの気持ちに同情の念すら沸く。とても魅力的な人物像。平田さんは、急に痩せたと言う役柄なので衣裳が全体的にぶかぶか。終始萌え袖だったのがもーかわいいのなんの! 寛容=何もかもがどうでもいい、はある意味真理。それをどう見せるか? と言うところがイワンを演じるところのキモなのでしょうが、平田さんは生活者としての諦めを図々しさとして見せていて、これがまた憎めないのです。そういうもんでしょ? と問い掛けられたようでハッとする。例の長ゼリ(市村さん曰く「かわいそう」、後述リンク参照)すごかったです、拍手喝采。必死で喋るイワンをつめた〜く(と言うかもはや無の境地で)聴き続けるふたり、と言う場面が面白くて面白くてもう! 波状の笑いが続いてましたよね……。争いの発端となる益岡さん、インテリで気遣いも出来る大人でもあり、寂しさを抱えた人物でもあり。響きのある深い声に陰影がある。
と言うか、登場人物全員が愛嬌のある魅力的な人物なんですよね。実のところこれ、キャパ500いや300くらいの緊密な空間で観たい芝居なのですが、役者が劇場のスケールにきちんと合わせた演技をしてくれるのでとても楽しめました。
絵画同様白を基調とした、壁面をスライドするだけで三人それぞれの家に変わる美術もよかったです。
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・観劇予報 : 16年ぶりに市村正親・平田満・益岡徹が再結集! 舞台『アート』製作発表レポート
・ヤスミナ・レザ作品の登場人物、『偶然の男』は二人、『ART』は三人、『大人は、かく戦えり』は四人なのな。まあ発表順でいけば『ART』が1994年、『偶然の男』が1995年、『大人は、かく戦えり』は2006年なんで特に意味はないんだろうが…これからも上演があったら観ていきたいです
・それはともかく『ART』はシティボーイズで上演したら面白そうと思いましたよ。イワンは固定できたろうさん、あとのふたりはどちらがどちらの役やってもハマりそう
・ちなみに翌日には二子玉川に『ストランドビースト』を観に行きましてん…初期型は羽根やペットボトルが砂でガサガサになっててのらいぬみたいでかわいかった、動かすとこも観られた! しかしCMで使った大きなやつを多摩川河川敷で動かすんだと思ってたら、展示場もデモエリアもショッピングセンター敷地内に点在する形。なんかちりぢりになった兄弟みたいでちょっとあわれであった。アート三昧なGWでございました
・中外製薬CM 風で吹きこまれるいのち篇 「創造で、想像を超える。」
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