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2015年01月29日(木)
『惡』

『惡』@紀伊國屋ホール

わー、これめっけもんだった。所謂“Kid A”が社会に出たら? 犯罪を犯したらどうなる? という点を追うのかなと見せかけて、バイオSFでもあるけど家族の話。そして人間の良心の話。結末には結構驚かされた。

昨年の理研のあれこれや、それを面白おかしく騒ぎ立てるメディアの痛いところも衝いてる。人間関係がにっちもさっちもいかなくなる迄の時間をかなり圧縮している+話のスケールもかなり大きくなるので、風呂敷のたたみ方もえらいダイナミックなんだけど、セット=見立てで進められる舞台はSFと相性いいなと思った。専門用語も多くなるので、役者の実力、台詞まわしの巧さもポイントになる。高岡奏輔さん(いつの間にかまた名前表記が変わっていた)、羽場裕一さんが舞台を引っ張る。クローンとオリジナルの二役を演じ分ける高岡さんの発声、仕草には唸らされる。力を入れていない、弱々しい声が舞台後方迄するりと通る。羽場さんはとにかくヤな演技が巧い(笑)んですが、自分を頼り切るクローンや、それを飼おうとする“ママ”との暮らしのなかで徐々に変化していく心情を巧みに表現していた。陳内将さんもとにかくヤな人物(笑)。しかしそれが最後はああなるところ、不思議な説得力。

タイトルとは裏腹に(悪意の描写がガンガン出てくるんで途中かなりムカムカする)、どの人物にもその原因と、同時に消しきることの出来ない良心も描いている。悪意をもって記事を書いたライターが事件を明るみに出す。クローンを飼おうと言った女性は黙ることをやめる。作者は優しいひとなんだなと思った。この「優しい」「いい」ひと、と言うのも今作のフックで、優しい、いい、と言うのはひとを傷付ける。主体性がないとも言える。誰も愛することが出来ず、だからと言って自分を愛している訳でもない。その価値基準がそもそもない。良心の誕生は本能として備わっているものか、環境に左右されるものか? と言うところにもスポットがあたる。以下ネタバレあります。

裁判のシーンでは、クローンの存在についてさまざまな問題提起がされる。クローンに心はあるのかと言ったことから、クローンは人間なのかと言ったこと迄。容器としての肉体に魂は宿るのか。教育をそのまま吸収してきたクローンに判断力はあるのか、精神鑑定は通用するのか。クローンのオリジナルである研究員は何故ここ迄優しいのか、いいひとなのかと言う謎も最後の最後に明かされる訳だが、その理由―実は彼もクローンで、“母親”からいい子だと言われ続けて育ち、そこにしか存在価値を見出せなかった―について少し突き詰めたものを観たい欲求もあった。しかし二時間程の作品に多様な要素をここ迄詰め込み、関心を喚起したのは見事。

クローンの“親”は誰か? DNAを提供した者か、育てた者か。クローンが家族を作り、社会の一員になったとき、彼らはマイノリティとして受け入れられるのだろうか? 悪意は差別に繋がる。差別は連鎖を起こす。クローンがさらりと呟いた「戸籍がもらえるかもしれない(けど、それはさほど重要なことではない)」「バイトも見付からない。やっぱり気持ち悪いって」と言う言葉は、それをこともなげに話す本人の様子とともに胸を衝いた。善とは、悪とは何だろう。そして人間が築く幸せとは? 鑑賞後、長く長く考えさせられる作品。

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・作・演出は岡本貴也さん。初見でしたが、劇場によく行くひとはチラシ束をめくる手がとまった経験があるんじゃないでしょうか、『舞台 阪神淡路大震災。』を手掛けた方でした(宣美も)

・観劇予報:高岡奏輔主演で人間の善悪を描く問題作『惡』製作発表&公開稽古

・観劇予報:何が善で何が悪かを描き出す舞台『惡』開幕間近! 陳内将インタビュー

・おまけ。冒頭にKid Aと書いたけど、こっちのがしっくりくるかも? 敢えてフジの動画を貼る

[01] Nine Inch Nails - Copy of A (Fuji Rock Festival 2013)