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2014年06月15日(日)
『∧ ∧ ∧ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと―――――』

マームとジプシー『∧ ∧ ∧ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと―――――』@東京芸術劇場 シアターイースト

お初です。飴屋さんとのコラボは即完で行けなかったんですよね…秋にはプレイハウスで『小指の思い出』を演出することも話題、若手注目株の藤田貴大のユニット。2012年に岸田戯曲賞を受賞した『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』 のリニューアル再演。『かえりの合図〜』 後発表した作品もリミクスされているとのことですが、もともとは『帰りの合図、』『待ってた食卓、』『塩ふる世界。』とそれぞれ独立した作品だったようです。

繰り返される言葉と運動。それらが少しずつ変容し、登場人物と彼らをとりまく環境が次第に像を結んでくる。ひとつの家族の集う場所、巣立ち、帰省、死によって家族は少しずつ姿を変える。家が取り壊される迄の思い出と家が取り壊されたあとにかえる場所、まってたひと。

∧ ∧ ∧は食卓の、合図の屋根部分。屋根は家の屋根。音数、映像使い、段取り。その情報量の多さと、過剰な程続く身体的なリフレイン。そのスタイル(百聞は一見に如かず。どんなに劇評を読んでも実感がわかなかった)と、あれだけ動いて息ひとつ切らさず、台詞も明瞭な演者たちに驚かされる。意外にも連想したのは新感線でした。しかしこの作品の演者たちは、台詞を記号のように話す。繰り返される言葉はループし、新たな情報を加えられてまたループする。何故彼女は怒っているのか、何故彼は言い出せないのか。あの合図は何なのか、食卓で起こったことはどんなことか。そして語られない母親の不在。感情とは程遠いとすら思われたその台詞たちが、次第に熱と湿度を帯び、ある瞬間に色鮮やかに輝き出す。

その独特なスタイルもかなり好きだったんですが、そこにあるストーリーにかなりやられた次第です。地方出身者にはクるよ!そしてまあ個人的なことになるが、あの夏休みの風景はウチにもあったものだ。いとこたちと食べるおそうめん、けんか、なかなおり。雑魚寝。櫛の歯が欠けるように、失われていった光景。もう二度とない時間。当日パンフレットに付いていた、縁日で売られているようなべっこう飴をなめなめ記憶の風景を反芻する。記憶はだんだん薄れていく。

気が遠くなるような時間が過ぎ、やがて誰もいなくなる。でも、彼らが存在した痕跡はそこに確かに残っている――蜷川さんが彼の作品に惹かれたのも判るような気がします。『小指の思い出』が決まったとき「あー蜷川さん『野田に先を越された!』って悔しがってるだろうなー、『藤田俺には新作を書き下ろしてくれ』って言ってそうだなー(笑)」と思いましたが、蜷川さんが演出する藤田さんのテキスト、実際すごく観たいのです。

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アフタートークも面白かった。セットの床に胡座をかいて、話していることとは関係ないリズムでぐにゃぐにゃと動く足。ねこのしっぽみたいでした。岸田戯曲賞を受賞したことは結構なプレッシャーだったようで、それを「傷」と独特な言いまわしで表現していました。でも地元の名誉市民になったりして、実家に帰りやすくなったんですって(笑)。

今回でも結構音大きいなと思っていたけれど、もともと爆音が基本だったそうです。役者の喉のコンディションに合わせ、本番中でも毎回調整しているとのこと。zAkさんの「役者の声を聴かせる面白みもあるんやで」と言う言葉が音響を見なおすきっかけになったそうです。こういうとこ、ああ若い!ってなんだか感動しちゃった。

いつも同じだとdisられてると言いつつ、個人的なことを書いてそこから拡がっていったり、何か変化があったりすることが面白いとのこと。今作のモチーフは群馬にあったおばあさまの家だそうで、家がなくなったことは悲しいけどおばあちゃんがひとりでいないでよくなった面もある。でも……これはおばあちゃんに観てもらいたくて。沢山のひとに観てもらえることは嬉しいしすごいことだと思うけど、ひとりに向けて作っているってところはあるとのこと。今作はその地元でも上演が決まっているそうで、思い入れがあるようでした。今は入院中だと言うそのおばあさまが、公演を観られますようにと祈りつつ劇場を出ました。