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2013年09月20日(金)
『かもめ』

『かもめ』@シアターコクーン

北風と太陽な『かもめ』でした。場面場面は面白く、達者な演者たちの達者な振る舞いを楽しみました。やっぱりすごいなー皆、と思ったりして。

ええと説明がややこしいな…トリゴーリンとアルカージナのふたりが北風、トレープレフとニーナが太陽と言おうか。悲劇が喜劇に転じる、それは感じられるものか、感じさせられるものか。笑われるか笑わせるか。このアプローチの違いがとてもちぐはぐに感じました。この“喜劇”、結果的に喜劇に映ると言うところに哀切なユーモアがあり、個人的にはチェーホフがこの作品を喜劇と題したことは、強烈なアイロニーとしてだと解釈しています。悲劇が結果的に喜劇になってしまう、その滑稽さ。

で、途中からこれはどっち側から観ればいいかななんてことを考え乍ら観てしまった。ドールンは太陽、境界線上にソーリンとメドヴェジェンコ。たとえがこれだと北風が悪いみたいな言い草だけど決してそうではないのですよ。どの場面を背負うかにもよるけど、ここを北風方式で行くのは…ここが太陽方式では……と思うところはなかったのです。大竹さんも野村さんも、あの面白さはなあ、素晴しくて。あのとっくみあいとか。自分大好きなアルカージナと魔性の天然トリゴーリン。大竹さん、ところどころ清水ミチコのデヴィ夫人みたいな声色だーと思って笑ってて、帰宅後折り込みチラシを見たら大竹さんと清水さんの共演のお知らせ入っててウケた。

「喜劇として上演しますよ!喜劇と言えばのケラさんを呼んで!」と言う押し出しからして、観る前からこっちが勝手にもやっとしていたと言うところもある。しかし、ケラさんだからこそ、激烈に悲惨な物語から笑いが顔を出す瞬間を見逃さず、毒を以て舞台にあげてくれるだろうと言う期待もあった。それは確かにあった。でも、なんだろう…そのケラさんの毒と、チェーホフの毒の異質さが浮き彫りになったと言うか……それはそれで興味深かったんだけど。

何度か書いてるけど、ケラさんって観客を信用していないんだなあと感じることが多く、近作でまたそれが顕著になってきた。停電で、ライトスタンドがジジ、ジジ、と鳴るところの繰り返し。何故あの回数鳴らすのだろう。このくらい繰り返さないとおまえらには解らないだろうとでも言いたげな執拗さ。いや…それでケラさんのこと嫌いとか言う訳ではない……ただしょんぼりするってだけで。信用されてないって感じてるのは私だけかも知れないし。チェーホフ四部作を全部演出するシリーズだそうなので、全部このアプローチで行くのかなといろいろ考えさせられました。私が考えても意味ないのだが。

プロセニアムを意識させる、コンパクトで整然とした美術(島次郎)は、ちいさな世界で右往左往する人間たちの滑稽さを浮き上がらせて秀逸でした。冒頭舞台背景を斜めに横切る湖の青、庭の木々が揺れる嵐の描写も見事。