初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2013年05月31日(金)
ハイバイ10周年記念全国ツアー『て』

ハイバイ10周年記念全国ツアー『て』@東京芸術劇場 シアターイースト

やっと観に行けました『て』。改題(「その族の名は『家族』」)含めて今回で四演目。初見は舞台で!なタチなのですが、逃しに逃して待ちきれず、結局先に映像(菅原さんが母役の再演版)で観てしまった作品です。

祖母の葬式に集まった家族と、その少し前カラオケ大会に集まった家族のあれやこれや。前半は次男の視点から、後半は母の視点から同じ場面を繰り返します。それぞれの家族の事情が浮かび上がる。おまえはそれを知らないからそんなことが言えるんだな、おまえはそれを知ってるからそんなことを言うんだな。ののしりあってとっくみあいして、それでも家族、どうやっても家族。泣いたり笑ったり憎んだり愛を注いだり、それでも離れられない家族。

まああれだ…ウチも結構こじらせ家族なんですけども+そして母の葬式であれやこれやありましたけども+その後もあれやこれやで解決してないことも多く、これからもそうなんだろうけども、もー身につまされて大変!のたうちまわりましたね。いや実際客席でのたうちまわったら周りに迷惑ですので脳内でのたうちまわりましたけどね。あとどなたかがツイートしてたけど「アフタートーク等で反応を聞くと、父親に対して東京だとドンびきするひとが多いのに九州だと『ああ、あるある〜』だったりする」ってなんか解る…解るぞ!

でも私、おとーさんのことだいきらいでだいすきですよ。そしてとても感謝してる。だからこそいろいろせつなくなります。そしてだからこそ、これを「DV」の一言で片付けてしまうと、だいじなことを取りこぼすと思っています。名前を付けたからって安心してんじゃねえよってやつです(同時にこのややこしさを言葉に置き換えて伝えることの難しさを思う)。その辺りいろいろ複雑なのよ。おめーにわかるかってどの家族も思うところってあると思うのよ、おめーに「それこそがDVなんです、大変でしたね!」とか「暴力を恐れて反抗出来なくなってしまうんです、つらかったでしょう!」とか言われてたまるかと言うね。そして「つくりが違う」長女の旦那さんにほっとする。

そういう要素がない家族っているんだろうか。まあ、いるか。

さてそういう個人的なことはさておき、今回実際に舞台で観て、何度も上演される訳だわと納得。なんてったってとにかく「面白い」。その「面白さ」が再演に耐えうる強靭さと柔軟さを兼ね備えているだけでなく、丁寧な構成、演出、改訂を重ね磨き抜かれている感じです。今回あの「葬儀屋をしばく」シーンがなかったことも印象的。意図的な笑いを入れ込まずとも、泣き笑いのおかしみは決して薄れない。そして恒例となっているアフタートークで積極的に観客の解釈を聞き、自らの解説も怠らない。作品をだいじに扱う姿勢にも好感が持てました。

実際に舞台で観て印象的だったことをいくつか。まず美術。四隅の柱はまるで火事で焼け落ちたかのように焦げ付き、床につくことなく宙に浮いている。そして舞台はあるタイミングで傾斜になる。業火で傾き、崩落しそうな家に集まってくる家族のことを思う。直接役者が持って移動させる、と言う最小限の動作で、観客の視点を変換させるスイッチとなるハイバイドアは効果絶大。ハケて演技エリア外から舞台を見つめる岩井さんが演出家の顔になっている瞬間の格好よさ、おかーさんの扮装してるのに(笑)。昼間のパパは〜ちょっとちがう〜昼間のパパは〜男だぜ〜♪ですね。夜だけど。そして長男役の平原さん。うっわ平原さん、前回(映像で)観たときは「つくりが違う」長女の旦那だったんだよ!これも再演が繰り返されるならではの面白さですね。今回家族の不和ド真ん中!あの「得体の知れなさ」は過去ハイバイで観た平原さんの他の役にも通じるのですが、これが後半効いてくる。いやあのうざったさ俺を理解してくれ俺は自分からは言わないけどっぷり、うぎゃー!いやー!(ほめてる)上田さんの末っ子っぷりはもうだいすき。あと観る度同情を禁じ得ない次男のともだち…(笑)他人の家族の大げんかに居合わせて、「怖かったでしょう」と言われて「はい………(はっ)いや、大丈夫です」て返すあの瞬間!ここおかしいやら気の毒やらでもうたまらん!だいすき!高橋さんのおどおどっぷり最高でした。もうさ〜こういう状況下にともだちつれてきちゃう次男は無邪気だよね〜ホントにさ〜!とまたのたうちまわる。そしてまた身につまされる(笑)。

そして舞台で観るあのシーン…「母親が見た白昼夢」と言おうか、家族皆が肩組んで大合唱する「リバーサイドホテル」は格別だった。これは幻に終わるのか、いつか見ることの出来る光景か。その光景は生きている世界にあるのか、それとも死後の世界なのか。さまざまな感情が頭に溢れ、母親と一緒に心のなかで慟哭した。

ふと青山演劇フェスティヴァルで観たMODE×青春五月党の『魚の祭』を思い出しました。家族のいざこざ、そして葬式を「面白く」、せつなく描いた秀作だったと記憶しています。『魚の祭』はあっけらかんと和解し再生する家族の物語で、柳美里さんと岩井さんの家族の描き方は違うものだとは思いますが、どちらも「面白かった」のは確か。それもあって『て』を青山円形劇場でも観てみたいとも思いました。『その族〜』は円形でやったんだよね、観たかったー(泣)。今回は対面客席での上演。転換に効果的なものになっていました。

恒例上演前の諸注意に「携帯ヴァイブが鳴っても自分のじゃないふりをする」が新しく加わっておりました。「これはもう、恐怖です」「ここ迄言って解らないひとにはもうどうすればいいのか…恐怖しかないです……」ほんとほんと。この「暗黙の了解」ってハイバイの作品づくりにも深く関わっていることだし、演劇全般、そしてコミュニケーションにも言えること。こういうことを諦めず、根気よく考え続けていくことのだいじさについても考えました。劇団10周年とのことですが、劇団でチケット買ったらおまけくれたりする手づくり感が10年やった今も続いてるってすごいことです。フレッシュ感溢れる手だれっぷりと言う不思議存在。おまけ交換済みの印としてチケットに捺してくれたはんこが手づくりっぽくてまたかわいかった。

-----

おまけ。ちょっと前のものだけど、このインタヴューは今読み返すといろんなことを考えるヒントになりました。
・アーティスト・インタビュー:岩井秀人(ハイバイ)| Performing Arts Network Japan(2011.8.22)