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2013年03月29日(金) ■ |
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小林十市 ダンスアクト『Hamlet Parade 〜Last Dance〜』 |
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小林十市 ダンスアクト『Hamlet Parade 〜Last Dance〜』@Shinjuku BLAZE
昨年末DCPRGを観た会場で十市さんのダンス公演と観ると言う、なかなか貴重な…「(不夜城と言われているが)リーマンショック以降眠るようになった(笑)」(菊地成孔談)とは言え歌舞伎町、普段はヴィジュアル系バンドが使うことの多いハコです。スタンディング使いでしか知らなかったのでどうやるのかな、と思っていたら、普通にパイプ椅子ビッシリ並べてありました。場所によってはかなり視界が違ったかも知れない。自分は4列目センターでした。座席段差がないため、前の席のひとの頭に隠れてステップは見辛かったのですが、それにしたってむちゃ近い。バレエをこんなに近くで観たの初めてです。すごい迫力。踏み切りや着地音だけでなく息遣いもハッキリ聴こえるし、汗とか飛んできそうなくらい。高いジャンプのピルエットを繰り返すところは、遠心力でステージから飛び出してきてしまうのではと思う程でした。ひとりしかいないステージが、狭く見えた。
さて、“ハムレットパレード”とは何ぞや。十市さんのインタヴューによると、青井陽治さんのワークショップで扱われていたマテリアルだそうです。シェイクスピア『ハムレット』から、ハムレットの独白(四大独白+二箇所の独白)とオフィーリアの独白、その前後の状況説明を抜粋構成したテキストを通しで演じること。その“ハムレットパレード”にダンスの要素を組み込み、作品として成立させたものが今回の公演。演出と振付は十市さん本人が手掛けており、ハムレットの翻案ものとしても非常に面白いものでした。ハムレット、オフィーリア、クローディアス、ガートルード、ポローニアスを十市さんひとりが演じる。ステージ後方にあるスクリーンに、ハムレットの独白に応じた登場人物が映し出される。この辺り噺家の血が騒ぐのか(自らアナウンスした開演前後の諸注意、ご挨拶もユーモア溢れるもので面白かった)、現れるデンマークのひとびとは茶目っ気たっぷり。しばしここはどう反応していいのか…?って空気が流れたけど、三つ編みウィッグのガートルードやカトチャンペみたいな扮装のポローニアスが出てくると、程なく笑いが解禁されました。ガートルードがちょっと珍しい解釈だった。あの三つ編みといい、仕草といい、とても幼い。その幼さが、先王の死後すぐにその弟の妻となる浅薄さを暗示しているようにも見えました。ブルネットのショートボブウィッグで、妖婉さすら香らせたオフィーリアの美貌とは真逆です。
そう、オフィーリアの解釈も興味深かった。実際にステージに立ち、ダンスと独白があるのはハムレットとオフィーリアのみ。他の人物は映像の外には出てきません。ハムレットからオフィーリアへの変換は、ウィッグと和装の羽織のみ。しかしこれだけでガラリとダンサーの居住まいが変わります。利発そうな、美しい切れ長の目元、低温の微笑。彼女の狂乱は、自覚のもとの結果だったのではないかとすら思えるものでした。激情的に語る役者さんや演出が多い台詞「気高いお心が壊れてしまった!」を、溜息をつくかのような穏やかさで語ったこともそう感じた要因。ハムレットと自分の行く末を悟っているかのようです。そしてハムレットを思い続けるせつない仕草、表情。悲しい初恋。それらを内包したダンスに涙。ハムレットよりずっと大人に見えたオフィーリア、素晴らしかったです。ちなみにこのオフィーリアの扮装、ジョナサン・ケント演出の日本人キャストによる『ハムレット』を思い出しました。このときオフィーリアを演じた中村芝のぶさんには、こけしや日本人形をモチーフとした衣裳やメイクが施されていました。
独白も観客にしっかり通る。現代口語ではない古典の台詞が、その言葉に込められた意味を持ったものとしてハッキリ伝わる。バレエダンサーを引退した後、新たに得た表現方法。ダンスもそうだが、この役者としての十市さんも(当分)観られなくなる。本当に残念。でも、笑顔で見送らないと。来月から活動の拠点をフランスに移す十市さん。ご本人も「どうなるか自分でも判らない」と前置きした上で、家族(フランスにいる奥さまクリスティーヌと愛娘正果ちゃん)と一緒に暮らすことと言うのがまず第一にあり、フランスでバレエ指導者のライセンスが取得出来たことが大きい、と仰っていたので、日本のステージに立つ姿は当分観られないでしょう。公式サイトも三月いっぱいで停止されるとのこと。
使用曲は『第七』全部の楽章に『月光』と、ベートーベンで構成されてました。ところが最後のダンスで使われたのはRADIOHEADの「Exit Music」。これには驚いた!客入れ曲がずっとRADIOHEADで気になってはいたんだけど、ラストに持ってくるとは。この曲はレオナルド・ディカプリオ主演の映画『ロミオ+ジュリエット』のエンディングに使用されて話題になったものでもあります。なので一瞬ちょ、これハムレットじゃなくてロミジュリ!と思いましたが、目の前で繰り広げられる気迫のダンスにそんなツッコミも霧散しました。ハムレットはレアティーズとの決闘で命を落としますが、この“Last Dance”の幕切れは十市さんが自分の腹をかっさばくと言う衝撃的なものでした。『M』の割腹少年を彷彿させる渾身の振付。「小林十市」は一度死に、「小林十一」に戻るのかも知れない。しかしモーリスもミシマも、表現のなかに生きている。十市さんの、これからに対しての決意表明にも思える“Last Dance”でした。
映像に使われた絵画、イラスト、舞台上に置かれた先王の肖像画(王冠を被った髑髏)は天野弓彦さんによるもの。ユーモアとシリアスを行き来するこの公演にぴったりでした。
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その他メモ。
・魔夜峰央先生からお花が来ていてカンドー(笑)。魔夜先生とバレエは深い縁ですが、十市さんと交流があったとは知らなかった。
・物販に『Blog Jump』なるものが。何だろうと思っていたら前のひとが同じことを思ったらしくスタッフさんに質問していた。「十市さんがブログで定期的に撮っていたジャンプ画像をセレクトした写真集みたいなものです」。あっ、これ好き!ブログも終了してしまうし、ログも残らないかも知れないし!と購入しましたよ
・冒頭に本人のコメントが載っていた。「動ける自分を写真に収めておこうと思って始めた」。ダンサーを引退して無意識に跳びたいと思っていたのかも知れない、それを裏付けるかのように『M』でダンサーに復帰してからは、跳ぶことが減った
・「日常生活での風景に跳んでいるひとがいたら?」と言うこのコンセプト、アートとしてもとても面白い。林ナツミさんの『本日の浮遊』を見たとき、あ、これ十市さんが!と思いましたもん(笑)セルフタイマーで撮られた、重力が消える風景。一瞬だけ世界が停まる、ひとりのダンサーが笑顔で舞っている
・これ、まとめられてすごく嬉しい。フランスでもやってほしいな。そして、いつかまたそれを観る機会が作られるのを待っています
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