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2013年03月20日(水) ■ |
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『マシーン日記』 |
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東京芸術劇場リニューアル記念『マシーン日記』@東京芸術劇場 シアターイースト
いやはや、やっぱ傑作…あんまり簡単に使える言葉じゃないけどやっぱり松尾さんて天才だと思う……。
クローズドな空間で起こる悲喜劇。噴き出してみないと外部の者には判らない出来事、渦中のひとの精神状態。そこに足を踏み込んだ外部、つまり第三者に示されるのは結果なので、「何故?」がある。しかし過程が明らかになったとしても、そこに理解は得られるだろうか。理解があろうが起こることは起こる。「あれ、おかしいぞ?」は外部とのコミュニケーション時に必要なもので、膨張していく内部には必要ないものだ。渦中にいるひとたちは、そこが居心地がいいからついついいてしまうのか、そこ以外でやっていける(生き残れる)か判らない恐怖心からか、そこでしか自分の存在価値を感じられないのか、内部圧がどんどん高くなる場所にい続ける。しかし、最後には外部に出て行く。
昨年の『ヒッキー・ソトニデテミターノ』を観ていたことがちょっとしたヒントになった。コミュニケーションを求めて求めて、それはどこ迄行ってもディスコミュニケーションで、それでも外に出て行く。“果て”は外部にある。外部には、法律に代表される、他者同士が共存していくためのルールがある。内部のルールと外部のルールは違う。そこで彼らはまた難儀する。自分と言う異物、他者と言う異物が共生する日常を生きる。ずるずるべったり、仕方ないよと神さまに言い訳し乍ら、自分を見ている誰かを騙くらかし乍ら。
そこに『オズの魔法使い』のモチーフを持ってくるなんて、松尾さん以外の誰が考えようか。サチコの素足は目に見えない銀色の靴を履いている。踵を三度鳴らす。魔法はどこへでも連れて行ってくれる。虹の彼方へ。ライオンも案山子も、ブリキの木こりもいる。もーこの四人のヴィジュアルが揃ったときは、笑い乍ら泣いたもんね。そしてとにかくホンがすごいので、松尾さんの演出家としてのすごさって一見判りづらいんだけど、今回「役者にああいう演技をつけられる」人間を操作する力をも思い知らされた感じです。これもある種神の手。
そしてその掌の上で、神さまを騙くらかそうと七転八倒する役者たち。そう、このせめぎ合いが演劇の醍醐味ですよ!作家が描いたヴィジョン外のものも舞台上に現れる、一方的には成り得ない関係。新キャスト、すごくよかった!オクイさんが圧倒的。アキトシはどうしようもなく不器用で、問題と答えは解っているのにそれをひとに伝える式を持ち得ない。どうしよう、こんな筈じゃないのに、こうなる筈なのに、と泣いている自分のなかの自分があの目の奥に顔を出す。パントマイムやダンス等の身体表現もキレッキレでした。杏ちゃんのサチコにももうひとりの自分がいる。彼女の身体には日に日に傷や痣が増えていくけれど、暴力行為は直接舞台上には出てこない。その「見えない部分」を表現するための二面性みたいなものを感じました。ミチオは登場人物のなかでは(なかでは、ね…)比較的マトモに見える役だけど、少路くんはそのマトモがクズだと言う痛さをヒヒヒとほくそ笑み乍ら見せつけてくる。眼前に鏡を突きつけられているかのよう。そしてリエさんの“マシーン”には随所に血が通う瞬間がある、その血流に愛情としか言いようのないものを感じる。格好いい!
とにかく激しいので全員怪我なく千秋楽を迎えられますように…ってもう誰か怪我してそうだがなあ。せめて最小限の怪我で終えられますように!
余談。
・工場の装置がぐるりと回り、脚を斬られちゃったミチオが舞台上に姿を現した瞬間、隣席の男性が「あらら…」とぽつり。つられて笑ってもうた。芝居中に喋らないで!ここはお茶の間ではありません!って注意あるけど、ときと場合によってはいいもんだなと思いました(笑)
・観劇してからと言うもの、脳内でマイコーのスムースクリミナルがかかりっぱなしです。タスケテ ・同様に「スパイダーマン!スパイダーマン!」「リンパ流したいっす!リンパ流したいっす!」が耳から離れん。タスケテ
・途中蛍光灯のひもの先についてたドラえもんが上の方にひっかかっちゃったんだけど、それを芝居し乍らさりげなく棒でつついて元に戻そうとしてたリエさんかわいかった。結局とれなくて、転換のときになおしてたみたい
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