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2012年12月14日(金) ■ |
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『ハーベスト ―神が田園を創り、ひとが町をつくった― ハリソン家、百年の物語』 |
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『ハーベスト ―神が田園を創り、ひとが町をつくった― ハリソン家、百年の物語』@世田谷パブリックシアター
わーこういうの大好きです。ヨークシャーに暮らすある家族の、百年(厳密に言えば90年)の物語。1914年から2005年、ふたつの戦争をくぐり抜け、いろんなものを失い、いろんなものを手にする。失ったものは数限りない。だいじに育てた馬、自分の両脚、家族の命。しかし彼らは「心の中で歌をうたいながら」苦難を越え続ける。ときに幸せ、ときに不幸せ。それが日常、それが人生。
二幕七場、休憩込みで三時間の作品ですが全然長く感じませんでした。三時間で90年間の出来事を描くのだもの、のんびりしている時間はありません。社会情勢、経済状況、さまざまな時代背景を映し乍ら、それに翻弄され、それに抗い、危機一髪な場面に幾度も遭いつつ、家族は力を合わせ、ときにはケンカして生きていく。勿論90年を3時間ですから、描かれないことも山のようにある。その余白がまたいいのです。戦場、弟あるいは夫の死。秘めた恋愛、病、不妊。顔を出さない家族たち、跡継ぎ、働き手の不在。これらに直面したとき、登場人物たちは何を考え、どう苦しんで悲しんだのか。凪のような光景の底には、数々の嵐の爪痕がある。
両脚を失ったからとずっと独り身を通したウィリアム。こどもを求めるアルバートとモーディの焦燥。パート先の制服にローラが固執するのは、それがかわいらしく洗練された服だからと言うだけでなく、外の世界の職場を象徴するものだったからかも知れない。登場人物にはさまざまな傷がある。この傷を、言葉を使わず表現する役者たちの佇まいに心を打たれました。
レイフ・ファインズの『太陽の雫』とか好きなひとは気に入ると思いますー。『太陽の雫』はワイン調合、『ハーベスト』は養豚。『太陽の雫』は一族三世代の男たちをファインズひとりで演じ分けましたが、『ハーベスト』はウィリアムと言うひとりの男性の19歳から109歳迄を渡辺徹さんが演じ続けます。『太陽の雫』は死んでも死んでもレイフ・ファインズ、『ハーベスト』は生きちゃって生きちゃって渡辺徹(笑)。あとどちらも女性たちが強い…って、これはデフォか(笑)。激情七瀬なつみさん、のびやかな小島聖さん素敵だったー。平“おいしい、おいしい。何これ”岳大さんはアホな子な弟だったんだけど、その愚かな行為の数々は家族を思うあまり、自分を認めてもらいたい一心でのことだったのでかわいそうだったよ…。
複数の人物を演じる出演者もいます。ドイツ人捕虜として来たヨークシャーでローラと恋に落ち、ウィリアムを助けて養豚に励むこととなるステファンを演じた佐藤アツヒロくんは、年齢の重ねを落ち着きと言う形でじわっと見せてくれました。後半の抑えた演技、よかったなあ。その後アツヒロくんは、コソ泥として入り込んだハリソン家で家業を継ぐこととなるブルーを演じる。養豚を始める前のハリソン家の母親を演じた田根楽子さんは、その81年後、養豚場の環境審査をする獣医として再登場し、経営許可証を出せないと宣告する。この役柄のリンク、ニクい!戯曲指定なのかなあ、気になる。
あと廃墟に弱いので、7場、2005年のハリソン家の様子が舞台上に浮かび上がった途端に涙ぐんだ。そこで泣かんでいい(そのあとひと展開あったしな…それがまたグッとくる展開なんだー)。ゴールドシアターの『聖地』もそうだったけど、主を失った住居が、家からただの建造物となって朽ちていく様子、と言うのは独特の魅力がある。堀尾幸男さんの美術すごくよかったー。SePTの天井の高さを活かした、ゴッツい石造りのハリソン家、キッチンにあるゴッツいテーブル。時代が変わるにつれ調度品も変わっていく。ガスレンジが入り、電話がひかれ、PCが置かれる。ハリソン家の百年を見守っていた家のその姿。
農夫には天使がついてる。いたずらもののその天使にちょっかいを出され乍ら、彼らは生きていく。心の中で歌をうたいながら。
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よだん。
養豚にちなんで、物販にベーコンやハム、ソーセージの詰め合わせセットが。うわあんすごく気になったのに持ち合わせがなくて買えなかったヨー!どうなのおいしいの、改めて物販だけ買いに行ったらダメですか……。
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