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2012年05月25日(金)
『ミッション』

イキウメ『ミッション』@シアタートラム

前作『太陽』がドッシリくる内容+描写だったので、今回は清々しく観た部分もありました。『太陽』のラストもある種の決着があるものでしたが、『ミッション』のそれは決意する人間の悲壮感や諦観、後悔とはまた別の、ポジティヴなその後を示すまっすぐさ、素直さがあり、それをこちらも希望を持って受け止めることが出来ました。

そしてどうもイキウメとなると赤堀さんの話をしたくなるのだが(笑)、そもそも前川知大と言う作家を知ったのは赤堀さんのおかげなので、もー赤堀さんホントありがとー!と言いたくもなるのです。今回は、3月に上演されたTHE SHAMPOO HATの最新作『一丁目ぞめき』を思い返したりしつつ観たところもありました。あとどちらも暴力、抑圧描写が巧い(…)。以下ネタバレあります。

たまたま自分がこの作品を観た日は急な雨で、会社に置いていたビニール傘を差して劇場に向かった。たまたま数日前にシアタートラムがある駅と同じ沿線、すぐ近くの駅で刺傷事件があった。芝居のなかで、ビニール傘でひとを刺すシーンがあった。

どうしても現在を掴まえてしまう演劇と言うものはあるが、これを単なる偶然と思うか、シンクロニシティと受け取るか。現象に因果を見出し、意味を持たせ、それを自分自身の行為と存在意義に結び付ける。それはときには奇跡になり、ときにはただの偶然と終わる。それについて考える力は、病気だとか、宗教だとか言う名前が付けられる。衝動はミッションなのか?それに従うか、抗うか。選ぶのは自分になる。世界に生きると言うことは社会に生きると言うことで、自分以外は他人しかいない。使命は信念と紙一重で、社会で生きるには責任が伴う。社会に生きるひと同士が言葉で相手を理解するのはとても難しい。理解者は自分のことを決して理解していない、しかしその存在があると言うことはとても幸福なこと。

客演が三人おり、劇団員を贅沢に使ったなあと言う印象でした。勿体ないとも言える程。今回劇団に文芸部を設け、外部から演出家(小川絵梨子さん)を呼び、ディスカッションを重ねて芝居を組み立てていったそうなのですが、劇団の本公演で客演を呼ぶケースと、あらかじめ主演が決まっているプロデュース公演に劇団員を参加させるケースの違いを考えさせられました。とはいえ、こうしたちいさな積み重ねが台詞のやりとりのテンポの良さに繋がり、説明的な台詞の堅さを和らげていたように思います。次回のキッズプログラム『暗いところからやってくる』も同じ作演出コンビとのことなので、ここから劇団員がどう変化していくか期待が持てます。辛抱強さが必要な方法でしょうが、長いスパンで考えると今後劇団にとって財産になるのではないかな……。

そうそうテンポがよかったんです。「おまえの妹ブス!」「なにをっ、おまえの弟…弟……くうぅ!」、「兄貴はきっと馬鹿にする」「おまえは見下す」のやりとり等、返しの間がいい。浜田さんと盛さんは長年の阿吽の呼吸があるのでしょうし、安井さんはお笑いの方なので、ボケツッコミの体得があるのでしょう。この辺り、稽古を重ねて組み立てていったのではないかな…言葉が身体に即している感じがした。夫、息子、義妹へのちょっとした口調の違いで、相手との距離感を表現する岩本さんすごかったなー。盛さんが矢継ぎ早に単語を連発するシーンは聴覚がゲシュタルト崩壊を起こすような錯覚を感じさせ、そのシーンを立体的に見せていた。話していることは妄想か?病人が言っていることか?宗教的なことか?そして皆さん声がいい。

盛さんと言えば、件のビニール傘のシーンがものっそい怖かった…『太陽』での森下さんが演じた役がそうでしたが(そして今回、その森下さんが暴力の対象になる側だったことにもゾワーとした)、悪意を悪意と自覚せず、暴力と遊戯が同じラインにある。

今回大窪くんがつらい役回りなのですが、彼のミッションをミッションと自覚する前と後の変化が見事でした。彼が加茂さんに対して起こすとある動作が、その後大窪くんと安井さんで繰り返されるシーンがあります。その衝動はアオカンになるのか、救済になるのか。安井さんが大窪くんを抱きしめるシーンは深く印象に残りました。

あと単純なところであたりまえと言えばあたりまえなのだが、そのひとがその役でちゃんと見える。『太陽』で軍服似合ってあら素敵、なんて思った浜田さんがちょーもっさいあんちゃんで、ギャグももっさい。世代を感じました(笑)わかる、わかるで……。渡邊さんや井上さんは、終演後配役表を見てあまりに印象が違って驚きました。今度他の作品で観たときすぐ「あ、あのときの!」て気付く自信がない……これって何げにすごい。

鏑木知宏さんの音響がよかった。トラムの空間を隙間なく埋め尽くす雨音がホワイトノイズに転じたような瞬間があって、ここにも聴覚のゲシュタルト崩壊を感じたなー。土岐研一さんの美術も印象的。トラムの横幅をいっぱいに使ったステージ。ジグザグの傾斜と、演者自らが移動させる支柱によって、そのシーンの空間と距離感、経過時間を示す。ルールの提示が非常に整理されていて、具象のセットがないのに転換がとても自然。視覚聴覚ともに、面白い体験が出来ました。

『一丁目ぞめき』のことを思い出したのは、家族の修復能力について。赤堀さんが描く家族のそれと、前川さんの描いたそれを観られたことは、個人的に興味深いことでした。発端、経緯、感情の表現の違い。そして共通点。前川×赤堀作品、また観たいな。

弟が怪我を負ったことで家族の綻びが露になったけど、皆が笑顔で揃った。川縁の家は流されたけど、入院していたことで師匠は助かった。そういうちょっとしたことが、全て繋がっていると思える瞬間、そして世界。その些細な出来事が可能性になり、希望に転じる瞬間がある。見えない未来に決意を持つ。それを見られたことが嬉しかったです。