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2012年05月12日(土)
『シダの群れ 純情巡礼編』

『シダの群れ 純情巡礼編』@シアターコクーン

岩松了任侠シリーズ第二作。第一作はこちら→(『シダの群れ』)。個人的にはかーなーりー好きな舞台でした。いやあ、よかった…じわっとくる……今でもきてる……。独立して観ても問題ない内容ですが、前作を知っているとああ…となるところもあります。あの後あのひとは殺されてしまったんだ、とか。その不在の人物が、今回の堤真一さんや風間杜夫さん、松雪泰子さんが演じる人物たちの関係に大きく影を落としています。

前作同様、こういった腹にイツモツ持った者たちのかけひきと言う岩松さんお得意の心理描写が、ヤクザ抗争と男女の関係と言う物語にドンピシャ。隠蔽された殺人、闇に葬られた出来事、相手の気持ちを思ってかもしくは陥れるためか、ものごとの一部分だけを言葉にしたりしなかったりの繰り返しが、登場人物の心を疑念と言う形でじわじわ浸食していく。浸食は観客にも及び、2時間45分(休憩15分)の上演時間中、一触即発の緊張感が持続し続ける。その緊張感がイヤ〜な溶解と言う形で終幕を迎え、ある種の余韻になる。後味悪くホッとすると言ってもいいかな。以下若干ネタバレあります。

前回同様、岩松さんの今迄とは違う面が見られます。階段、液体で濡れる男女、男同士がキモい程じゃれあう。岩松作品に必ずと言っていい程出てくる、エロティシズムを醸し出すこれらのモチーフは健在です。しーかーしーあんなに奥行きを使った岩松了演出初めて観た!セット転換も多かった。岩松さんと言えば一場での悶々、と言う印象が強いのでこれは新鮮でした。ドンパチも派手ですし、かなりエンタテイメントに徹した作品だと思います(岩松さん比)。

しかし、その「場」がとても印象に残ります。廃工場跡地と思われる場面も、セット自体はヨーロッパの地下水道(『第三の男』に出てくるような)のような趣。一見殺風景にも映る、壁面と扉だけのシンプルな成り立ちで、空間の隙間を多くとってある。そこで登場人物がふたりきりで会話をするときの寒々しさ、同時に溢れる熱情。また風間さんと堤さん、堤さんと松雪さんの存在感が、あの広い空間にふたりっきりでいても充分に豊潤な空気を生み出すのです。これにはシビれた。

そう、ヤクザ抗争ものなのにヨーロッパの映画に出てくるような場面が沢山あったな…登場人物の芝居がかった、気障な言動がサマになる。堤さんと松雪さんのラブシーンも、状況としてはかなり芝居がかっているのにこれがいい。こういうリアルなんてなんぼのもんじゃいと言う、しーばーいーを逆手にとるのも岩松さんだなあ……。女優陣の衣裳も、それぞれ役柄のキャラクター(レディ、ビッチ、気風、カワイコ困ったちゃん、めんどくさい女)を際立たせ、欧州を、台詞にも出てくるスペインを連想させる。反面男優陣はものっそNIPPONのYAKUZAな開襟シャツやアロハ、タック入りパンツでした。いやー風間さんサテンのスーツほんっと似合いますね(笑)、勝負服!ああいうの似合うひとなかなかいないよ…堤さんは体格がしっかりしているのでスーツの線が綺麗で、動きも優雅。このふたりが終盤ドスで果たし合いをするのですが(銃じゃないってとこがいい!)、このどうにも避けられない運命の悲壮感を背負ったふたりの格好いいことと言ったら!

小池徹平くんいい役もらいましたね。こんな彼を見たい、と岩松さんが宛てて書いたと言うことかな…ちょー小悪魔。だってある意味この子が拗ねたと言うかヘソ曲げたからこんなことになったんじゃないのー!で、周りの人物もこんな拗ねちゃった子なら恫喝するなり強硬にはねつけることも出来ただろうに、なーんか側に置こうとしちゃうんだよねー。関わった人間全員の人生を狂わせる、ファムファタールならぬオムファタールでした。恐ろしい子!この子を筆頭に、岩松さんてこういう無意識に思わせぶりな人物の描写ホント巧い。あーイライラした(笑顔で)!

荒川良々くんは結構直前迄大人計画の本公演に出演していたからか?出ずっぱりな役ではないのですが、すごく印象に残る役でした。てかいろいろ反則…一声発するだけで笑われる……敢えて野放しにされていたような気も(笑)。しかし彼にしろ風間さんにしろ、絶命したか隠されている(=各自の判断に任される)人物がいるのでこのシリーズは続けようと思えば続けられそうですね。まあヤクザに限らず、誰かがいなくなっても誰かがすぐ跡を継いでいくシステムが出来ている社会であれば、それは続けられるものではあるけれど。

村治佳織さんのギター演奏が場面場面に深い味わいを残してくれました。余韻の残るエンディングは素晴らしく、演奏が終わり幕が下りた途端に拍手が起こりました。これも岩松さんの作品では珍しいよね…高揚感があったもの。村治さんのドレスも素敵だったなー。一場面だけ白のパンツスーツでこれもまた格好よかった。チェロの演奏もそうだけど、女性がクラシックギターを座奏する姿勢には色気がありますね。カーテンコール曲はシリーズ前作同様トーキングヘッズの「サイコキラー」!手拍子が起こり、スタオベもあり、いやはや岩松さんの作品らしくない(ひどい)場面に遭遇してニヤニヤがとまりませんでした。あーなんか岩松岩松って、私岩松さんのことだいすきみたいじゃないのー!認めざるを得ない!くやしい!