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2011年11月12日(土)
『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』

『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

フェスティバル/トーキョー(F/T11)五本目、ラストです。F/T11のクロージングでもあるジェローム・ベルの『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』。めーちゃーめーちゃー面白かった!身体、現在、瞬間、普遍。ダンスだけでなく、音楽と密接に関わった演劇に興味のあるひとにはグッとくる!端々にあらゆる仕掛けが施されていて、シンプルに舞台上で起こることを楽しむことも出来るし、出演者やスタッフのバックグラウンドを探りたくなる魅力にも溢れている。いやージェローム、策士だわー。以下バリッとネタバレします。

28人のダンサーとDJが出演者。オーディションで選ばれたのは26人だそうなので、2人はスカウトだったのかな?(この謎はアフタートークで明らかになります。後述)ダンサーの出自はさまざま。快快の篠田千明さん(二日目は降板)や冨士山アネットの長谷川寧さん等、実際にダンスカンパニーで活躍されているひともいれば、足立智美さんや今井尋也さんと言った音楽家もいる。ダンスでステージに立つのは初めてなのでは?と思わされるひともいる。年齢は17〜67歳、身体的特徴もバラバラ。音響卓はステージと客席最前列の間に置かれており、さい芸の音響スタッフの方がDJとして曲をかけていく(一曲ずつ、CDをセットして鳴らす)。

果たしてかかった曲のタイトルが、舞台上で繰り広げられることになります。えーと、使用曲もネタバレしますね(と言うか自分用メモ)。

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01.Tonight(Jim Bryant, Marni Nixon / Leonard Bernstein / West Side Story ost)
02. Let the Sunshine in ―太陽の光を入れよう(The 5th dimension / Galt Mac Dermot / Hair ost)
03. Come Together(The Beatles)
04. Let's Dance(David Bowie)
05. I Like to Move It ―それを動かすのが好き(Reel 2 Real)
06. Ballerina Girl(Lionel Richie)
07. Private Dancer(Tina Turner)
08. Macarena ―恋のマカレナ(Los del Rio)
09. Into My Arms ―腕の中へ(NIck Cave & The Bad Seeds)
10. My Heart Will Go On(Céline Dion / Titanic ost)
11. Yellow Submarine ―黄色い潜水艦(The Beatles)
12. La Vie En Rose ―ばら色の人生(Édith Piaf)
13. Imagine(John Lennon)
14. Sound Of Silence(Simon & Garfunkel / The Graduate ost)
15. Every Breath You Take ―見つめていたい(The Police)
16. I Want Your Sex(George Michael)※これどうだったっけか…リストにはあるが記憶にはない
17. Killing Me Softly With His Song(Roberta Flack)
18. The Show Must Go On(Queen)

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かかった曲のタイトル部分が唄われるタイミングで、ステージ上部のスクリーンにその曲のタイトルが字幕表示されます。オペが一箇所ミスって、「Into My Arms」の最中に「My Heart Will Go On」のタイトルが出てしまったのが惜しかったー。何やるか判っちゃったもんね(苦笑)。でもこの作品を宴会芸やネタものと言う文脈で片付けたら、それ以上のものは見えて来ない。さて、舞台は整えられている。想像力でどこ迄遊べるか。

「Tonight」は完全暗転。「Let the Sunshine in」で照明が灯り始め、「Come Together」でダンサーがステージ上に集まってくる。これは…これって……と固唾を呑んで見守っているときた、「Let's Dance」!ダンサーたちが思い思いの動きで一斉に踊りだす。いやホント思い思いで好きに踊ってます。客席側が一気に弛緩した雰囲気になりました。プレイヤーからCDを出して、次の盤をセットしてPLAYボタンを押す作業がその都度あるので曲間が空くのですが、「Let's Dance」後のダンサーたちは激しく動いたのでハアハアゲホゲホ言ってる。静かな場内にそれが響き渡るのでウケる…ああ、こういうことか!それじゃあ遠慮なく楽しませてもらう!F/T11のクロージングと言う祝祭感覚もあったか、そこから盛り上がりましたねー。歓声や口笛が飛んだり、拍手が起こったり。

キチッと振付らしい振付があったのは「Macarena」くらいかな。と言ってもこれはジェロームの振付ではなく、当時大流行りした「マカレナダンス」。所謂“ダンス”が起こらない曲もあります。「Yellow Submarine」ではセリが降りた奈落から黄色い照明が照らされるだけ。続いての「La Vie En Rose」はバラ色の照明が客席を照らす。そのタイミングで遅刻して来た客が係員に案内されて入場して来たものだから、演者が客席側から現れたと勘違いした観客の視線が集中、大ウケでした。同時に無言で苦虫を噛みつぶしたような表情の観客もいたことでしょう。

そのうち、ダンサーたちのバックグラウンドに興味がわいてくる。「Ballerina Girl」で上手側にいた女の子は実際にバレエをやってそうだな、動きが素人とは違う。とか、素晴らしい歌声を披露したふくよかな女性はオペラの心得があるのだろうか、等々。衣裳(私服かな)もそれぞれ個性がある。観客と地続きのような、観客の鏡でもあるような彼らが、今ここにいて生きているのです。

1シーンだけ、ステージに流れない曲がありました。出演者がイヤフォンを装着し、DJのキューとともにポータブルプレイヤーのPLAYボタンを押し、サビの部分になったらそれを大声で唄うのです。知ってる曲も知らない曲もあった。「あいわなびあどーっぐ!」と絶叫する男性、「俺の話を聞け〜」「わかりはじめたマーイレボリューション」「ふぁんふぁんうぃひっざすてーっぷすてーっぷ」、あちこちで爆発するメロディ。サビ以外の彼らは沈黙し、イヤフォンから聴こえているであろう曲に没頭しています。終わった順に退場していく。最後に残った女の子は「いきのーこーりーたーい、いきのーこーりーたーい」と唄い、笑い声と拍手をあとに退場。何故あの子にはあの曲だったんだろう、それともあの曲は自分で選んだもの?彼らはどういった思いでステージに立っているのだろう?

彼らはステージ上で飛び跳ね、身体を動かし、ハグして、タイタニックのポーズを組体操のようにとって(笑)、ゆったりと死体となり甦る。ザ・ショウ・マスト・ゴー・オン、フレディ・マーキュリーの歌声とともに立ち上がり客席をまっすぐ見つめる彼らに盛大な拍手と歓声がわきました。90分の、音楽と身体の物語。

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そしてアフタートークが60分超(笑)ジェローム・ベルがかなりのお話好きで、しかもその内容がものっそい面白い!予定の時間を大幅超過です。そしてビックリ、ジェロームの通訳として出て来た女性が、先程迄ステージに立っていた方だったのです。この方の通訳がまた絶妙で、演出家と作品のバックグラウンドをちゃんと理解したうえで、微に入り細にわたりなおかつ解りやすい言葉にして、ジェロームの話を伝えてくださった。前回ジェロームが来日した際、「『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』の日本公演に出て!」と口説き落としたのも頷ける、魅力溢れる通訳さんでした。

なんでも初演(2001年)は相当な物議を醸したそうで、「こんなのはダンス公演ではない」「チケット代を返せ」と随分叩かれたそう。上演する国によって反応も様々で、その土地で上演された時期も反映される。イスラエルでは自爆テロ後の追悼行為としてある沈黙がステージ上にあるのを耐えきれず観客がパニックになってしまったり、政権が交替したばかりのブラジルでは何をやってもお祭り騒ぎ状態だったそうです(客席がな・笑)。興奮して客席から乱入して踊りだしたひともいたとか。「『Imagine』や『Sound Of Silence』のシーンで、観客が騒がず舞台を鑑賞していたのは日本で3カ国目です」だって。唄いだしちゃうひとがいた国もあったそう、わ、わかる……(笑)。反面「日本での上演でこんなに盛り上がるとは」と驚いていたようでもありました。

「偶然」に起こることは沢山ある、それぞれのシーンの発想は曲のタイトルのみから、歌詞を全部理解してないと楽しめないなんてことはないんだよ、と強調していたジェローム。質疑応答でとんだ多少トンチンカンな質問(「英詞がわからない日本で上演することについてどう考えてるの?私はわかるけど(ドヤッ)」「今回のF/T11は震災がテーマなんだけどこの作品を上演した意味は?」等)にも、ユーモアを交え乍ら丁寧に応えておりました。ちなみにジェロームはフランス人、この作品上演をオファーされたのは昨年。

いずれこの「誰もがメロディを聴いたことのある曲」が無効になるときが来るでしょう。この作品の有効性はいつ迄続くか。曲を替えればいい、と言うことにはならない。音楽の流通方法が刻々と変化している今、誰もが知っている曲は確実に減りつつある。

件のイヤフォン装着のシーンで唄われる歌については「歌詞に“私は、私が”が入っている曲をそれぞれ選んできてもらった」とのこと。唄われた部分の日本語は理解しているようだった。この公演のためにジェロームが来日したのは11日だそうだけど、それ迄演出助手や日本上演スタッフが細部を詰め、必要な情報を的確に彼に伝えている印象がありました。ハプニングが起こる迄の準備は万端と言ったところか。偶然と言っていても、「生き残りたい」と唄う女の子をあのシーンの最後に残したのは、確実に演出がありますよね。それを「震災から連想される言葉」と受け取るのは観客の選択です。

そして「見つめていたい」のシーンは原題の“Every Breath You Take”ではなく歌詞中の“I'll be watching you”から発想されたシーンのように思えました。それは邦題が“I'll be watching you”に繋がっているのを知った上での日本上演版なのか、他の国でも同じなのか、とか気になることも沢山。それを言ったら「My Heart Will Go On」のシーンは、歌詞からの発想ではないわね(笑)。アイディア一発ものと思われそうですが、実は綿密に設計された作品に思えました。それを「偶然だよ〜」と言うのも快感だろうなー。ジェロームったらーとか言いたくなる。今回も感想を検索してみると、賛否まっぷたつに分かれています。ニヤニヤしてるジェロームの顔が浮かぶようだよ(笑)。いやホント面白かった。上演された国の数だけ、観たひとの数だけこの作品はあるんだなあ。また観たいよー!

あーそれにしても「The Show Must Go On」は珠玉の名曲ですな…フレディの声含め。ベジャールの『The Show Must Go On』ラストシーンも思い出したなー。

と言う訳でフェスティヴァル/トーキョーで観たのは5作品。どれも刺激的で面白いものばかりでした。エキサイティングな舞台をありがとー、次回も楽しみにしています!