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2011年11月10日(木)
『ラブリーベイベー』

『ラブリーベイベー』@東京グローブ座

いやあ、いい舞台だった…作家が若いんだなあと思わせられるところは多々あれど、書いていることに誠実に向き合ってる。出演者もそれに真摯に応え、丁寧に丁寧につくられた印象でした。そうやって差し出されたものには、こちらも素直に向き合える。

何度も交わされる「ごめんなさい」と「ありがとう」。どちらもわるくないのに。どちらも言葉だけでは足りない程感謝しているのに。相手をいたわり、相手を思いやり、彼らは何度も同じ言葉を口にする。とてもせつない、愛しい舞台でした。以下ネタバレあります。

セクシュアリティやジェンダーと言ったフックはありますが、「そのひと」のジェンダーがどうこう、と言う以前の「そのひと」そのものをどう愛しているか、どう愛するかを考えさせられる内容です。日本の法律では、男性と女性なら結婚出来る。生物学上の女性であればこどもが生まれると言う可能性もある。登場人物たち(特に恋司と愛斗)は社会的に普通とされることが出来ない。この障害を置いているので、彼らの「そのひと」を思う気持ちがよりストレートに解りやすく伝わります。そして、社会的な立場を除き個人対個人として向き合えば、どんな恋愛にも問題は皆無ではない。

個人的には旭はズルい(逆ギレじゃねーか)と思うし、遥はお芝居の登場人物としては観ていて楽しめるけど、傍にいてほしくはない(笑)。遥と香澄は共依存な感じもしたなあ。どちらも不器用ではあるけど、香澄はああやって遥に干渉され、激情をぶつけられることでしか自分が愛されていると言う実感を抱けないのかなとも思いましたよ…し、しんどい……。

と言う訳で、恋司と愛斗以外の人間模様で観ていてツラかったのは今日子と耕介。耕介は旭のことを気に病むことはないよー新しい彼氏はいいひとだし幸せになりな!と思いつつ、でもあんなことされちゃあさあ……旭ズルい!ヒドい!都合良過ぎる!と後味わるーいし、今日子はこれからずーっと遥と香澄を見て生きていくのか!そんなんつらすぎるわ……。第三者からするとあんな男(女)忘れてしまえよ〜新しい恋をしなよ〜とか思うけど、当人はそんなカンタンに諦めたり忘れたり出来るものではないでしょう。ヒー(泣)もうやだ。

どんなことがあっても最終的には感謝だけが残る、と言うふうになればいいけど、なかなかそうもいかない人生いろいろ。

恋司が一年かけて愛斗の死を受け入れる喪の仕事についてのストーリーでもあります。日々をだいじに。ささいなことのつみかさね。思い出は残る。留まっていてはいけない。どちらにも「ごめんなさい」の思いはあるだろうけど、「ありがとう」を伝えられたのは本当によかったよね……。

と言うように、すっかり登場人物を登場人物として捉えられたのもよかったです。終わってからはいやー伊達くんゲイ役妙に合うわーとか思ったものですが(笑)上演中はそういうことに気が散らないくらい集中して観られた。一途な思いを時とともに整理していき、その過程で生じる葛藤や悲しみと言った感情のうつろいをしっかり見せてくれた恋司役の三宅くん、先立つ者のつらさと相手を大事に思う気持ちを静かに体現してくれた愛斗役の菅原さん。『ラブリーベイベー』と言う小説のなかで生きる、小島さんの凛としつつも憂いを秘めた美しさも特筆ものでした。三宅くんと菅原さん、三宅くんと小島さん、どちらのラブシーンも美しかった。そして秘めた思いを全て呑み込む今日子役の吉本さん。これ演じるのしんどいだろうなー…素晴らしかったです。

線香花火、流星群等モチーフの扱いと、それにまつわるエピソードも丁寧に描かれてたなー。外の季節の移り変わりを伝え、鏡にもなりうる大きな窓の存在感もよかった。3階席迄線香花火の火薬の匂いが漂ってきたり、キスの音がハッキリ聴こえたりと、扱いづらいグローブ座の構造(音がものすごく響く、1〜3階席迄空間がスコーンと抜けている)を味方につけていた。どこ迄意識して作ったかは判らないけど、いい作品はこういう引きがありますね。

構造はシンプルだけど深い。ひとすじなわではいかない、余韻の残る舞台でした。いいもの観た。

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以下よだん(長い)

・菅原さんが綺麗な菅原さんだったよ!(綺麗なジャイアンと同じニュアンス)よかった!
・いや私、菅原さんとの出会いが『紀雄の部屋』でのプロレスキモヲタだったから…これが刷り込みで……同じひととは思えない!役者って怖い!
・『紀雄の部屋』はいい映画だったなー
・で、綺麗な菅原さんて誰かに…と思ってて気付いた。山川冬樹さんだわ
・いやー猫ホテ退団早々大仕事…いい役を有難う三宅くんと言いたくなる
・で、この日の朝公式発表?(記事が出た)だった菅原さんが出演するスズカツさんの新作『7DOORS』の仮チラが早速置かれていたのでゲット。いやあいいタイミングでした

・ところでこの芝居、同じグローブ座で上演された篠井さんとスズカツさんの『欲望という名の電車』(2007年)に出ていたひとが3人もいたんで個人的にジーンとなっておった。小島さんは身重と言う設定もあったしね

・旭がナンパした男の子、岩瀬亮さん…岩瀬さん……終演後パンフ見て気付いた。このひとサンプルの『ゲヘナにて』に出てたニジンスキー好きっこダンサーだ!あの恥ずかしい衣裳の!(爆笑)今回の衣裳は普通のいいものでしたよ(お祭り仕様)…いやあビックリした
・いやはやこのキャスティングどなたが…他のメンツも曲者揃いでしたし。三宅くん有難うと言いたくなる(だいじなことなので二回言う)

・パンフと言えば、出演者がアンケートに答えてる頁があるんですが、三宅くんと菅原さんと小島さんがほぼ同じ回答をしているところがあって感動。通じ合ってるー
・そしてパンフと言えば、菅原さん伊達くん小島さんらが口を揃えて「おじさんなので」「(自分が)若くない」「(作品が)若いなぁ」と言っていたのがおかしかった…いやあ、身に沁みるわ
・しかしそうやって、年長さんたちが若い子の書いた作品をしっかり舞台に立ち上がらせようとしてるさまってのがすごくよかったなー

・そう三宅くんて自身でもすごく舞台観てますよね。何度も遭遇してる。そんなに毎回同じ日に観る筈もないから、普段から相当な本数の舞台を観てまわってるのでしょう。スズナリで見掛けたときはビックリした。本当にお芝居が、舞台が好きなのだろうなあ
・若手作家/演出家の抜擢も含め、毎回自分のやりたい企画をしっかり提案している感じがします。周囲のスタッフもそれにしっかり応えている印象。マスを相手にしつつの、この仕事のやりかたは尊敬するなあ
・それにしても三宅くんは山口百恵のような陰と言うか暗さがあるよ…(若者には解らないたとえ)バラエティ番組等では見せない魅力が彼の舞台にはありますね