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2011年04月09日(土) ■ |
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『トップ・ガールズ』 |
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『トップ・ガールズ』@シアターコクーン
この作品を裕美さんが演出であのキャスト、面白くないわけがない。タイトル通りトップガールたちの競演です。二幕の寺島しのぶさんと麻実れいさんのガチンコ勝負はすごいぜ!
一幕の同時多発会話(ホン指定)はおんなの井戸端会議そのもので、皆自分の言いたいことを言うのが最優先。ひとの話を殆ど聴かない、もしくはひとの話を自分の話題に無理矢理結びつける(笑)。マーリーンの脳内会話でもあるので、全てを把握しているのはマーリーンだけです。世界各地を旅したイザベラ、男にいいようにされているがそれを自覚していない二条、主婦軍団として侵略者に立ち向かうフリート、女性でこどもを産み落としたことが判明した途端リンチによって殺され、歴代の記録から抹消された法王ヨハンナ、夫への絶対服従を疑うことがなかったグリゼルダ。彼女たちの足跡を現代に生きるマーリーンが辿り、悩み、迷い、しかし前へ進む。
彼女たちはマーリーンの悲しみに寄り添う。私たちはこうやって生きてきた。私たちが切り開いて来た苦難の道を、あなたは歩いていき、そして後世の女性たちのためにまた新たな道を開くのだ。
しかし実際のところ、彼女たちもマーリーンも、後世の女性たちのために!と言った志を持って行動している訳ではない。上昇志向が強いだけだ。非難されるものではない。しかし「女性だと」それは蔑みの眼差しを向けられることが少なくない。
専務へと上り詰めたマーリーンの失ってきたものが二幕で露になる。親に頼らず、自分の力で生きていくと故郷を出て行ったマーリーンと、家に残った姉ジョイスの言い争いは、愛情が根底にある分遠慮がなく、いつ迄も平行線だ。
92年のメジャーリーグ版も観た。本国での初演は82年、サッチャーが英国初の女性首相になった三年後に書かれた、キャリル・チャーチルの代表作だ。社会の状況が変わっていないどころか逆行(というかひとまわりして戻った?)しているようにも感じられたのはつらかった。
女だからと言う理由で、仕事や普段の生活でイヤな思いをしたことが全くないとは言わないし、あー結局こういうときって女は泣き寝入りするしかないんだなーと思わされたこともある。この作品を観て「だから女が社会に進出したらこんなになるんだ、おとなしく家にいて男の言いなりになっていればいいのに」と思う男性がいなくなることは決してないように思う。
そして「この子ちょっと足りないのよ。何かが欠けてるの。……この子はものにならないでしょうね」と評価されるマーリーンの姪(実は娘)アンジーのような弱者たちはどうすればいいのだろうと思う。アンジーには隠れた芸術的才能があることが示されるだけに、それを活かせるような社会に出ていけないまま一生を終えるのだろうかと思うとつらい。
しかしそれでも、こうと決めた登場人物たちの生き方には感銘を受けるし、心強い。キッツい話ですが人生の節目節目に観たい作品です、今観られたのはいいタイミングだった。
寺島さん、麻実さんがすごくよかった。二幕の寺島さん演じるマーリーンと麻実さん演じるジョイスの言い争い、同時に喋るシーンが多いのですが、寺島さんの声(高め)と麻実さんの声(低め)のコントラストがハッキリしているので、どちらの台詞も聴き取り易く胸に刺さる。こういった台詞のパワープレイは裕美さん得意とするところ。「内容に関わらず、声が大きいものの方に耳が行く」との考えのもと仕掛けられるラウドなやりとりが以前は多かったのですが、ここ数年でそれだけではない、音量に関わらず台詞のだいじなところをグッサリ届かせる手法が現れ、それがとても芳醇なものに感じられます。それは演者ふたりの力も大きい。
マーリーンの周りにいる、自分のことを「ちょっとトップだと思ってるガールズ」の解釈も裕美さんならではだったなー。痛烈で、しかしコント的に描く面白さ。トップレベルの仕事を観るのはやはりエキサイティングで楽しい。
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