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2010年08月14日(土) ■ |
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有元利夫展、八月花形歌舞伎 第三部 |
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有元利夫展『天空の音楽』@東京都庭園美術館
学生の頃同級生に教えてもらった有元利夫。その時貸してもらった『女神たち』はその後自分でも買い求め、今でもよく開く画集です。その同級生はグラフィックデザイン専攻同士だったのだが、有元さんの絵が岩絵具を使っていることにとても興味を持っていて、日本画についてもっと知りたいと言っていた。卒業してから会わなくなったが、今はどうしているのかな。
代表的な作品は勿論、芸大買い上げになった卒制作品(連作『私にとってのピエロ・デラ・フランチェスカ』)も半分展示されていた。『花降る日』『春』『厳格なカノン』もあって嬉しかった。いろんな本の装幀にも使われているのでポピュラーでもある。こういう作品がポップになりうるのも不思議なものだな、と思っていたが、有元さんは芸大卒業後数年電通に勤めており、制作ノートにも「商品としては…」と書いていたりして、意識的なものもあったのだなあと思う。
絵に登場する人物は、どっしりとした女性像が多いのにも関わらず、なんだかふわりと浮いているように見える。モチーフとして使われる花弁、球体、布らしき薄い板状のものも、常にふわふわと漂っている。絵の中に躍動感は一切ない(と言うより意識的に排除しているのだと思われる)のだが、そこには風の存在を感じる。
その風は“風化”の風なのだろうか。最初から風化を目指している、と言うか、風化したものが本来の姿と言ったような絵の数々。その風化を一刻も早く見たい、とでも言うように、有元さんは若くして亡くなってしまった。遺された作品の数々は、今でも風化することなく愛され続けている。時間が止まっているかのような庭園美術館で観られたのもよかった。
下描きやメモ類が観られたのも面白かったな。何故かほうれん草のチャーハンのレシピとか詳細にメモってるの(笑)思わず憶えて帰っちゃった。
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八月花形歌舞伎 第三部『東海道四谷怪談』@新橋演舞場
勘太郎くんのお岩が素晴らしくてもう恐れ入りました。おまっなんでそんなに女心が解るねん!とすら言いたくなった。いや、女心だけでなく…愛情を失うこと、信じていたものに裏切られること、自分のアイデンティティを喪失すること、そういう負の感情をこのひとはどこで得てきたのだろう?なんてことすら思ってしまった。普段の勘太郎くんは見ての通り(と言っても自分たちは本当の素の勘太郎くん=波野雅行さんのことなど知る由はないのですが)明るいキャラクターでまっすぐなイメージですけどね。恐ろしい役者さんです。以下まわりくどいのもなんなのでもういきなりネタバレです。
とにかく二幕目第三場、『元の伊衛右門浪宅の場』に尽きます。容貌の変わったお岩が伊藤家へ向かうべくお歯黒を塗り髪梳きをする場面。圧巻です。演舞場静まり返りまくり。その前の薬を毒と知らず感謝して服む場面は勘三郎さんを彷彿とさせる型で、こちらも素晴らしかったのですが…いやー……髪梳きはもう有名な場面ですが、お歯黒塗る場面から涙したのは初めてだよ私……。
失礼な話だが、この辺りって大概宅悦がお岩の顔見る度に「ひいっ!」とか「ぎゃあっ!」とかすごい騒ぐ演出じゃないですか。そこで笑いが起こるのも常で。今回もそうだったんだけど、お岩の怒りと悲しみの表現が凄まじくて、宅悦の反応を鬱陶しく感じた(笑)もうおめーうるせーよ!お岩可哀相じゃんよ、もっと気遣えや!とすら思った(笑)市蔵さんごめんなさい。いやでもあの場面に笑いを挟み込む必要はないと思ってしまったよ…それ程迫真の場面でした。
お家は没落、自分は夜鷹となってなんとか日々の糧を得るも、父は殺され、旦那はアレで、跡継ぎとなる男子を産んでも何の評価もされずむしろ疎まれ、自身の顔も存在の意味も崩壊していく。『四谷怪談』って何度観ても酷い話でお岩が可哀相でならないのですが、エンタテイメントとしての効力があるのか、世情とか伊右衛門の都合とかもまあ含み置く余裕もあったりはするんです。しかし今回はなかったな、そんなの!(笑)もーなんで!?なんでお岩がこんな目に遭わなきゃならないの?お岩何も悪いことしてないのに!とてもいい娘で、姉で、妻で、母なのに!女が背負うもん皆背負ってそれでも凛と生きているのに!どー(涙)てなものですよ……。
お岩の悲しみ、焦燥、怒りがこれだけ伝わったのは、勘太郎くんが若いからと言うのもあるのではと思いました。お岩は大役ですからベテランの役者さんが演じることが多いですが、考えてみればお岩さんの実年齢って、勘太郎くんの方が近いと思うのです。あの辺りの年齢だからこそ感じるものがあったと言うか…親が亡くなり長女として家を守らねばと言う責任感を負っているとか、若い娘に旦那をとられちゃうとか。上の世代は死んでいき、下の世代には追い立てられる。怒り、悲しみが実年齢に添うように感じられたのです。リアルだった。
そもそもリアルに見せない(=それこそが粋)為に歌舞伎の型があるのだとは思いますが、そういう約束事を打ち破ってこその歌舞伎だとも思うのです。そしてそれは、ただリアルに、ストレートに感情を出せばいいと言うものでもない。実際舞台上のお岩は慟哭したりはしません。言い回し、動きはしっかり型に乗っ取っているものです。ただ若いから、だけで務まるものではなく、技量も必要と言うことです。だからこそこれは今の勘太郎くんでなければ演じられなかったのではないか、とすら思いました。今だからこそのお岩像とも言えます。そういう意味でも貴重。今後勘太郎くんが歳を重ね、お岩像を更新していくのを目撃出来る楽しみもあります。
はーお岩のことばかり書いてしまったぞ。他も面白かったですよ…お岩を演じる役者さんは与茂七、小平も演じますが、その醍醐味でもある戸板返しの場面がちょっとギリギリでヒヤリとしました、ご愛嬌(笑)。そしてお岩役のためだと思うのですが、勘太郎くんすごく痩せてて、与茂七役やってる時にすごく華奢に見えた。しかしその分身体のキレがよく、大詰第二場『仇討の場』では軽妙さ溢れる殺陣で盛り上がりました。まあ勘太郎くんはいつもキレがよいが…お岩で抑えている分与茂七で炸裂と言った感じか。
はー勘太郎くんのことばかり書いてしまったぞ。他も(以下略)
・三角屋敷の場がないとやっぱお袖と直助のことは尻切れトンボになるよねえ…仕方ないとは言え ・舞台番(猿弥さんでした)お約束の「おや、お岩さんがいらしたようですよ」の後の客席いじりは毎度のことと分かっていてもやっぱりビビるよねー! ・演舞場なので歌舞伎座程どよ〜んとした真っ暗闇にはならないんだけど、やっぱり怖いわー ・そしてお岩が客席に!以外で「ぎゃあー!」と叫び乍ら知らせのひとが客席を横断して舞台上に駆け上がって来るって演出は初めて観た。あんまりビックリしたのでそのひとが何を知らせに来たか忘れた(笑) ・小山三さんがおいろ役で出演。舞台上ではお元気そうに見えました。笑いも沢山とりました。退場時に「中村屋!」と声がとんでジーン
・しかし同じ『東海道四谷怪談』の同じ場面でも「首が飛んでも動いてみせるわ」って台詞があったりなかったり、小平の指が折れてぶらぶら〜があったりなかったり、お岩の息子がねずみに連れて行かれた後も出て来たり出て来なかったり。これってどこのお家が主役をやるかとかによって違うんでしょうか?流派みたいな…未だによく判らない
・海老蔵さんの伊右衛門は…姿はかなりよかったです。あとやっぱこういう色男があーゆーDVやるとホンットムカつくね!(笑)蚊帳迄はぎとっていくとことかさ!あーホント腹立つ
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