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2008年10月13日(月) ■ |
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『THE DIVER』 |
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三茶無印のカフェがなくなっていた…がーんここでお昼食べようと早めに出てきたのに……。と言う訳でしょんぼりコロラドでごはんを食べていたら、『1945』に出演の某役者さんに遭遇しました。稽古中かな。そういやコロラドではこないだも某ミュージシャン一家を見たな…穴場(何の)なのか?
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現代能楽集IV『THE DIVER』@シアタートラム
能『海人』『葵上』、『源氏物語』がモチーフ。数年前に起きた実在の事件を読み解くサスペンス仕立てであり乍ら、女性は成仏することが出来ないと言う中世仏教思想考察にもなっています。
不倫相手のこどもをふたり焼き殺した女性に責任能力があるか。23日間の拘留中に、精神科医が鑑定を行います。女性は海人から夕顔、六条御息所に変化し、自分が全肯定していた帝=不倫相手との関係を語ります。主人の命を受け、自らの命と引き換えに我が子を守った海人。源氏の寵愛を受けたが若くして死ぬ夕顔。生き霊となり源氏の正室=葵上を取り殺した六条。鑑定を受けている現代の女性ユミは、不倫相手のこどもをふたり堕胎し、相手のこどもをふたり殺す。
『オイル』『ロープ』のように、被害者側に立ったストーリーを書くことが多かった最近の野田さんですが、今回は原作があるとは言え、加害者側の立場を見守っています。加害者が犯罪に手を染める迄に、どんな目に遭ったかを丁寧に描いています。精神科医は真実を探り当てますが、法の前にはそれは役に立ちません。責任能力ありと判断され、女性は死刑に処せられます。実際の事件は無期懲役の判決だったように記憶していますが、ここで女性が死ぬことによって、ラストシーンで起こることが明快になります。
不倫相手の妻がユミに言い放つ言葉は、今回の英語上演の作品中唯一日本語で語られます。全て英語の予定で進めていましたが、初日前日のゲネプロで急遽変更したそうです。これは効果大でした。ひとがひとを蔑む気持ちには底がないのかと思わせられる程おぞましい言葉。ユミが一線を越えるのに充分な説得力がありました。
当初ユミが語っていた「四人が死んだ」と言う言葉は、終盤鑑定用の録音テープを再生すると「四人を殺した」となっている。しかし社会的に認知されている「殺されたこども」は、被害者のこどもふたりだけ。彼女を救うことが出来なかった精神科医は、白昼夢のような幻を見る。
海人が海底で、失った筈のこどもを産む。臍の緒を切り、彼女は微笑を浮かべているような、別れを惜しんでいるような表情を浮かべ海底に沈む。こどもは水面へ向かい、産声(=母親と別れる悲しみの叫びにもとれ、生まれることの喜びにもとれる)をあげる。そのこどもは精神科医へ戻り、彼は泣き笑いのような表情を浮かべて立ち尽くす。
解釈は多々あると思いますが、私は野田さんが鎮魂と希望を最後に提示したように感じました。無念を抱えて死んでいくひとは沢山いる。その魂がどこへ行くにしても、レクイエムで送ることが出来たら、と願わずにはいられませんでした。
『THE BEE』のように日本語版、日本人キャストヴァージョンも観てみたいように思いましたが、事件の記憶がまだ生々しく、かなり重いものになるかも知れません。そしてスピーディーな場面転換、海中でのスローモーション等、身体能力の高い役者でないとやれないと思う。怪物キャサリン・ハンターはやはりすごい役者です。彼女と野田さんの身体(造形、動作)を観るだけでも価値がある舞台だと思いますが、それには表情も含まれます。悲しみと安らぎと慈しみをないまぜにしたふたりの最後の表情がストーリーの重さを支えていたように思います。
英語上演、日本語字幕での上演でしたが違和感はありませんでした。一箇所だけ突っ込むと、爆発が起こるのは灯油でなくガソリンだと思います。字幕では灯油だとなっていたけど、英語だとどうだったかな…憶えてない……。
演出は小道具を巧く使い場面をどんどん展開させる野田さんお得意のもの。囃子方(囃子、笛、琴、太鼓等)も参加で効果音や背景の曲をライヴで聴かせるものでした。妻と愛人の携帯電話での会話は、最後の決め台詞がある迄笑うひとあり、涙を流すひとありと反応はまっぷたつ。私は恐ろしくて肩がガチガチになった。野田さんの女性役てホントすごいですね…よく見ていると言うか、どこをどう掴めばその生き物のいちばんイヤな部分が見えるってのを体得している感じがします。こわーい。
と言えば、野田さんの作家としての能力、演出家としての能力、役者としての能力はどれも素晴らしいけれど、観られなくなるのがいちばん惜しいのは役者として、と言うのは誰が言ったんだっけ?本人だっけ?(笑)年齢的なものがいちばん現れるのが役者だからって。うーん、確かに舞台上の野田さんが観られなくなるのはイヤだ。まだまだ元気でいてくださいな。
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