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2008年09月23日(火)
『葡萄』

危うくトラムに行くところだった…チケット見て書き写した筈のスケジュール帳にもトラムって書いてるし!なんなの?私はバカなの?渋谷でなんとなくチケット見なかったら三茶に行っていた……間に合ってよかった。

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THE SHAMPOO HAT『葡萄』@ザ・スズナリ

いんや今年の赤堀(敬称略が敬称)の仕事は全てハズレがなかった…なんかもーいい観劇年だったと締めくくってしまいそうな程ですよ。今年のあかほり、残りはケラマップへの役者出演のみです。ああ、いい一年だった。

90分のうちおよそ86分が一触即発。3分で一撃必殺。ラスト1分で爆笑必至。終演後、時間が経つにつれじわじわ涙。

これをどこかで待っている。そして必ずそれは叶う。いや、それを遥かに裏切り、遥かに遠いところへ持って行く。

『その夜の侍』『立川ドライブ』での新機軸の演出を経て、一場のストーリーに戻ってきた(『ウドンゲ』も一場だったが)。時間も飛ばない。ダイアローグで進む。会話が全くないシーンも目が離せない。ダメなひとばかり出てくる。しかし、そのダメなひとを糾弾する資格がおまえにあるのか?と書く。当事者にしか解らないことがある。今回はその糾弾を担当したのが教師で、彼女は少し分が悪いが、その彼女だって一生懸命なのだ。90分で11人の登場人物全員の両面を逃さず書いている。注意深く、どんな小さなことも見逃さず、そっと掬いあげる。

それを扱うのはとてもやっかいだ。ガードが堅い、ひねくれている、シャイなあまり攻撃的になる。すごく難しいひとばかり。何故そこを見落とさないんだろう、いや、見逃せないのか?そしてどうしてそれをあんなにそっと書けるのか。アガツマさんなのに…(後述)

そして、敢えて書かない箇所が絶妙。菊池の銃は本物か偽物か、みどりは6年前に何があったのか、直樹が菊池にだけ悩みを打ち明けたのは何故なのか。直樹が菊池のことを父親だと知っていたか知らなかったのかはこの際どうでもいいことだ。みどりが牛乳のおかわりを持ってくると提案したのは、菊池にとどまってほしかったからか、言葉通り半端に残った牛乳を片付けたかったのか、菊池が牛乳を好きだと言ったからか。節子は菊池に何を言おうとしたのか。沈黙の間に考える。「ひじきおいしかったって言ってくれて有難う」?「また食べたくなったらいつでもうちに来て」?「順とまた会って」?それでも結局節子は何も言わず帰って行く。

孤独な男・菊池は赤堀さんが書いたものだが、体現するのは野中さんだ。小さな台風。その台風は嵐を持ってくるが、同時に凪も連れてくる。口を開けばああいう言葉しか出てこないが、時折ぽろりと漏らす心の奥に気付き、近寄ってしまうみどりと菊池のシーンはどれもが歪んでいて寂しく、同時に暖かく美しかった。コメディエンヌとしての評価が高い池谷さんを、ああいう役に起用した演出家を他に知らない。こんなところに色気が宿るのか。場作りが得意、カンパニーとの関係性を築くのが上手、役者と闘い鍛え上げる、いろいろな手法があるが、こういう演出家もいる。すんません今迄赤堀さんの演出ってラウドな印象が強くつかみ所がないと思っていたのですが、今回はもう恐れ入りましたとしか……。

それなのにアガツマさんなの、あかほり。登場人物たちの間で散々語られ、キチガイと言われ、奇行の数々を暴露され、そのうち観客は「あ、このアガツマ、あかほりがやるんだ……」と思い始める。いつ迄も出てこない。その地域の有名人で、近所のひとたちから疎まれ馬鹿にされ、それでも悪く言えないひともいる。そんなアガツマさんはどういう姿形で出てくるのか?これを頭の隅に置きつつ本筋を観て行き、そのうちストーリーは絶妙な位置に着地し暗転。泣きそうになりつつニヤニヤしつつ、「あれ、アガツマさんは…?」と思っていると照明が灯り、アガツマさんがひとりでぽつんと突っ立っている。あの最後の1分間はひょっとすると一生忘れられないかも知れない…皆がぽかん、そのうちじわじわと笑い声が拡がっていく。

あーあんなにいい話だったのに、菊池の後ろ姿も、みどりの菊池を見詰める表情も、あんなにあんなに素敵だったのに、夢に出るのはきっとアガツマさんだ。降参です。

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帰りに寄ったとこで食べたフルーツタルトに葡萄が入っていてニヤニヤ。そして話すことはアガツマさんと尾崎のミュージカルはどうなるのかってのとサマソニとオエイシスとあかほりとアガツマ。天気もよくいい一日でした。