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2007年10月13日(土) ■ |
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『オセロー』 |
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彩の国シェイクスピア・シリーズ『オセロー』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
おおおっ、これはっ、面白かったです!過去何度か観ていて、どうも腑に落ちなかった部分がスコンと納得出来た!やはり蜷川さん演出のシェイクスピアは解りやすいし、シェイクスピアのすごさが直球で伝わる。
ポイントとしては、デスデモーナのキャスティング。蒼井優ちゃんすごくよかった!あのー細かいところつっこむといろいろあるんですよ、台詞回しが不安定とか、言葉を使いこなせてないかなと思う部分があるとか。でもそれが、若く美しく無邪気なデスデモーナそのものに見える。彼女がオセローのことを何度か「ムーアさま」と言う箇所も、彼女なら蔑称とも言われる“ムーア”を、悪意なく愛称のような意味合いで使っているんだなと自然に納得出来たし。あとすんごい表情で語るひとですね…ここらへんやはり映像のひとなのかなとも思うけど。今回最前(オセローがてんかんの発作起こすシーンで、舞台上の振動が伝わりまくって地震かと思ったよ…鋼太郎さんの飛ぶ唾もよく見えたよ……)だったので、その細かい表情の移ろいを堪能出来ました。
エミリアの馬渕さんもよかった!いやんもーすげーいいおかみー!だいすきー!まあこのエミリアの解釈には、ちょっとひっかかるところもあるのですが。デスデモーナとの「柳の歌」の場で語る台詞が、おおうあの時代にこんなことを語らせるとは、シェイクスピアはフェミニストだったのか?と思ったりして感心したんだけど(つーか、シェイクスピアあんたはなんでそんなに女心がわかるのん!と驚くっちゅうねん)、その後のビアンカとの言い争いのところで結局「この売女!」って言っちゃうでしょう、ここにやはり矛盾を感じてしまう。エミリアは、夫であるイアゴーにどういう思いを抱いているのかちょっと判らない部分があって、これは戯曲の狙いでもあると思うんです。最後のシーンはイアゴーへの鬱屈を晴らす場面とも言えなくはないので。そこが、今回の解釈でますます判らなくなったと言うか(笑)亭主の尻を叩く肝っ玉おかんみたいだったもんね。
しかしこのエミリアだったからこそ、観客を味方につけられたような気がするなあ。あの告発のシーン、観客絶対皆「早く言っちゃえー!」って思ってたと思う(笑)言った時、ある種のカタルシスがあったもん。ホントいいひとやった、エミリア…素敵だった……。
とにかく、この女優ふたりの「柳の歌」の場が白眉でした。普遍のシーンだなあ。初演は推定で1604年だそうですが、その作品が今なお説得力を持って観られるってのは正直すごいと思う。名作と言われる所以ですね…。そしてそれを、現在の舞台で感動的なシーンに仕上げたふたりも素晴らしい。
で、対しての男優陣。この作品の構造上「ああっばかー!オセローのばかー!いやーん!」と言うあれなんで…(笑)だって、あれ程の知将が嫉妬にかられて判断力がかんったんに狂うんだもん!もったいない、もったいないよオセロー…素晴らしい人格者だったのに……てな感じで非常に脆い人間に描かれているので、損と言えば損な役回り。で、あんまり簡単にころっころ騙されるもんで、笑えてしまうんですよね…実際結構深刻な場面で客席が笑いに包まれることも。まあそこが人間らしいと言えばそうで、その“脆い”オセローを鋼太郎さんが好演していました。デスデモーナとのなれそめを語るシーンがすっごくよかった。どれだけ差別されてきたか、それをどれだけの努力でこの地位迄のぼりつめてきたかを訥々と語る。その繊細さが諸刃の剣だったのでしょうが〜あーだからこそもったいない!もったいない!なんでデスデモーナを信じてあげられなかったのよ!デスデモーナはあんなに一途だったのに〜!まあそこにはやはりどこかで差別を受けてきたものの遠慮みたいなもんがあったのかな…根が深いよ、こういうのは。ずっと変わらないよ(涙)
まあそれだけかんったんに騙されてしまったので、後悔もトゥーマッチな訳です。トゥーマッチなだけに悲劇なのですが。タイタスの時もそうだったけど、鋼太郎さんは悲しみの演技が素晴らしいなあ。台詞回しも巧いひとだけど(唾も沢山飛ばすけど(笑))、無言で全身から感情を沸き立たせる力があると言うか…。
そしてイアゴー、高橋くん。これはっ、これはっ、よかったですよー!もはや色悪でした。つうかこれ、バッサリ言えばイアゴーモテモテやんってな話だもんよ(笑)皆イアゴーが大好きー!だからころっと騙されるー!で、今回のイアゴーは相当屈折した人物像で、出世欲、嫉妬、上司そして国家への不満のどこにも動機がないように見えてかなり不気味、それだけに魅力的でした。幕間ロビーで「いやあホンットにくたらしいわ」「やっぱりうまいねー!」って声を耳にしてニヤニヤしたよ…。とにかく台詞量が多いので、それを語りこなすのも相当ですが、ちゃんと頭に届くもんな。序盤以外は。序盤がなー、自分の席の位置も関係するのかも知れないけど、囁き声だったからか殆ど聴き取れなかった。これは残念だった。ここ、悪巧みの説明として観客に伝えなければならない情報が沢山入っているのでなあ。高橋くんていつからか(『ハムレット』の後くらいかな)発声ががらっと変わってすごく聴き取りやすくなったんだけど、ちょっとこの序盤は昔を思い出した(苦笑)
しかしな…ほめちぎるが今回のイアゴーは、ニナカンに入った高橋くんを初めてベニサン・ピットで観た時の衝撃を思い出しましたよ…あの『罪と罰』のラスコーリニコフ。ああ、この時も何言ってるか伝わりづらかったけど(笑)あの迫力には気圧されたもんなあ。そう、このひとってすんごい暗い(笑)屈折した人物像が巧い…巧いってんじゃないな、巧いと思わせられたのはむしろ喜劇の方だ、喜劇も出来るんだ!って意味で。技術(勿論技術もあるが)だけではどうにもならない不気味さ、緊張感、目が離せなくなる力を持っていると思う。それが如何なく発揮されるのがこういう役なのかな…。
そういえば鋼太郎さんもイアゴーやったことあるんだよなあ、どういう人物像だったんだろう。観たかったー。
いやあいいもん見せて頂きました。3時間40分があっと言う間でした。
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