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2007年06月16日(土)
『ゾディアック』

『ゾディアック』@シネパレス渋谷 シネマ1

フィンチャー最新作が来ましたよー!フィンチャーと言うとどうも興奮してしまい、初日に行ってしまう程でした。あー大好きだー!そして今回も大好きだったー!以下ネタバレしてます、未見の方はご注意を。

実際にあった未解決事件を極力忠実に追う構成。時系列順に、描写も丁寧です。殺人シーンも丁寧です…ここは怖かった……地味に丁寧なもんだから血の気がひいた……。淡々と進む、地味ではある。カタルシスはない。しかし157分が全然長くない…私はそう思った……。真犯人はある意味特定される。どうしてもそこに辿り着く。しかし状況的証拠と科学的根拠が一致しない。真実と事実の剥離。

ゾディアックが派手に動くのは序盤…そうだな、全体の3分の1くらいに過ぎません。車内のカップルに銃弾を浴びせ、犯行声明を新聞社に送りつけ、次の標的―湖畔に来ていたカップルをめった刺しにし、タクシー運転手を銃殺し、被害者の着ていた服の一部を新聞社に送る。3分の2で周囲の状況を追う。模倣犯、便乗犯、愉快犯が跋扈し始める。捜査は迷走し、メディアは混乱し、事件にのめりこんだひとびとはあらゆるものを失う。地位、職場、家庭、身体。この“事件に関わったひとたち”の描写がキモです。「“ゾディアック事件”を健全なまま生き延びた者はひとりもいない」、今も生きている(既に亡くなったひともいるが)、実在するひとたち。

犯人は結構なミスをしている。暗号表記がそもそも間違っていたり、ちょっとした運…警察のミスで難を逃れている。正直明晰な頭脳を持った天才殺人鬼とは思えない。派手にメディアを煽った割に、実際に実行したと立証されている事件は4件、殺したのは5人。生き残った被害者も、意図的に生き残らせたのではなく、単に「殺しきれなかった」ようにすら思える。

それでも事件は解決出来ない。今も、だ。ロバートは“趣味”から暗号解読を始め、小さな正義感と好奇心、探究心を燃料に事件を追い続ける。この展開も静か。妻はこどもを連れて出て行き、捜査を担当していた刑事からは疎まれる。そうして辿り着いた犯人のDNA鑑定は結局一致しない。一瞬見えた光もすぐに閉ざされるような徒労感。事件から身をひいたひとは諦観と安堵の入り交じった複雑な表情をしている。後味は悪い。人生は曖昧で、現実世界に確かなことは何ひとつなくて、例え確かなことが解明しても気は晴れない。すーごいいろいろ考えさせられた。

キャストも地味ではある。しかしそれがよくてですね…うーん地味と言うと語弊があるかな、スタースターしてないキャストがいいんです。事件に興味を持った、事件に関わったが為に人生を狂わせられたひとたち。キャスト中唯一セッレーブな雰囲気を漂わせるクロエ・セヴィニーも、本編ではうまーく地味ーな妻を演じてます。ジェイク・ギレンホールは何だかあのヲタな感じが似合いますね…まっすぐなどんぐりまなこがいいですよ…時々怖くなるけど。だから妻は出て行っちゃったのよー。ロバート・ダウニーJr.も後半のヤク中っぷり(でも最初にロバートと呑んで以来ブルーハワイ?に執着してるとこがかわいかった)がハマり過ぎでどんよりです…活きのいい辣腕記者だったのに……。マーク・ラファロもよかったなあ。最後のダイナーのシーンとか。諦めきっていたのに、ロバートの話を聞いているうちに一瞬メラッとする。でも、すぐ静かな表情になって店を出て行く。

フィンチャーお得意のスタイリッシュな画面は今回は極力抑えめ。しかし煤けたような'70年代の風景、色合いがとても印象的。あとひろーい場所撮るといつも格好いいよね……。2ヶ所、お、来たフィンチャー節!と思える映像があります。さりげないシーンですが、ここがとても効果的。暗号解読に取り憑かれたロバートが職場で見る光景と、砂時計のように時間が過ぎ去り、風景が変わる街。ここは鳥肌たちました。

あとタクシーを鳥瞰で撮るシーンで、カーブ曲がるところがあまりにも滑らかでビビる。あれ絶対空撮じゃないよね…てことは上空にレールひいて撮ったのか?でもそれにしてはすんごくすんごく距離があった!どんだけのクレーンだよ…てことはクレーンじゃないのか?CG?何か仕掛けがありそうですごく気になりました。メイキングが観たいよ……。

サントラもいいです、スコアもポピュラー選曲も。ほんの一瞬ラジオから流れる曲とかも。音効も細かいところがいちいちよかったー、銃声の飛び具合とか。

それにしても、数年後にすぐ映画化とかしちゃう(『ダーティハリー』)アメリカのジャンボリーさって驚異的だなあと思った。9.11の映画化も早かったもんな……。