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2004年05月02日(日) ■ |
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『山羊―シルビアってだれ?―』 |
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春の団祭り2004/青年団国際演劇交流プロジェクト2004『山羊―シルビアってだれ?―』@こまばアゴラ劇場
こ、これは面白かった!面白かったって言うとヤバいですが。でもすごく面白かった。すごくヘコんだ。2002年トニー賞受賞のエドワード・オールビー最新作、日本初演。以下ネタバレしてます。
建築家のマーティンとその妻・スティービーはとても仲のよい夫婦。マーティンは息子のビリーがゲイなのをちょっと心配しているけれど、友人ロスは病気のようなもんさ、大人になれば治るさと言っている。そのロスにマーティンはある告白をする。妻以外に初めて愛した彼女がいる、それはシルビア。写真に写っていたのは…山羊。仰天したロスはスティービーに手紙を書く。あなたがたの友人だからこそ言わねばならない、スティービー、マーティンは浮気をしている…。
ここらへんから中盤迄は爆笑続きです。スティービーは怒り狂う。シルビアとやったあとに私とベッドを共にしていたの?と言うか、何で山羊なの?ビリーは父親を軽蔑する。僕の相手は人間だ、獣じゃない。パパの方がおかしい。マーティンも逆ギレ気味、あの目が!あの目を見た時に僕達は解り合えたんだ。あのピュアな瞳に…スティービーまたも激昂。そりゃピュアな瞳でしょうよ、だって相手は動物だもの!スティービーは出ていく、「私と同じ場所迄あなたを引きずり降ろしてやる」と言い残して。どうやって引きずり降ろしたかがラストシーン。
笑いながらも場が進むにつれ、何がおかしいのか判らなくなってくる。…なんかねえ、観ているうちにタブーなんてないんじゃないかと思えてしまうんです。ゲイ?何か問題あるっけ?獣姦?いいんじゃないの?近親相姦?両人がよければ構わないんじゃないの?……おいおい、大丈夫か自分。混乱するうちスティービーがシルビアを連れてくる。これはどうなのか…まあスティービーは夫にそれだけのことをされたってことだけれども。「私と同じ場所迄あなたを引きずり降ろしてやる」。
それでも希望を感じたのは私だけだろうか?ビリーは、最後の最後、あんな状況になっていても、自分の両親を「パパ、ママ」と呼ぶ。人間って意外とタフなんだ。いや、違うな。壊れているんだ。ダメかな?ダメだな。きっとダメだ。希望なんてもんじゃないんだ、あれは。あの家族はこれからどうやって暮らせばいいの?いやでも、法にはひっかかってないよなあ。……うん、いいんじゃないの。待て待て、法にひっかからなければいいのか?倫理ってもんが。え、倫理って何?きっとマーティンとビリーはやっていける。…でも、スティービーはどうだろう。そしてシルビアがああなった後のマーティンは。
ほらほらやばいことになってるぞー、自分の価値観が崩れ落ちる。愛の限界ってどこにあるのかね。愛ってどこ迄チャレンジしていいのかね。…いいんじゃないの、チャレンジしたいひとはとことんチャレンジすればいいんだ。オールビーは、『動物園物語』からずっと、愛についての話を書き続けているんだ。
すっとぼけた夫婦のやりとりが絶妙。志賀廣太郎さんと大崎由利子さんのふたりじゃなかったら、もっと陰惨なものになっていたかも。いや、充分陰惨なんですが、どっかに救いがあるかもとうっかり思わせてくれる。それは多分「うっかり」だ。そうやってうっかり出来るから、人間は生きていけるんだ。
成功した建築家の上品な家が再現された舞台美術もすっごく良かった。消耗品多くて大変でしょうね(笑・激昂したスティービーが家のものをどんどん壊していくの。花瓶とか割りまくり)…役者さんも怪我しないように気をつけてね…。是非再演してほしい!
それにしてもこれがトニー賞ってのもある意味太っ腹ですよね…。アメリカってジャンボリーだよ。ジャンボリー。だからああ言う国なんだろう。
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