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2004年01月25日(日)
『タイタス・アンドロニカス』+訃報

『タイタス・アンドロニカス』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

文字通り血で血を洗う復讐劇。殺人、強姦、策略、人食。ショッキングな内容ゆえ滅多に上演されないこの演目が、どう料理されているか?以下ネタバレしてます。

「蜷川さんがセゾン劇場でやった『三人姉妹』や『ハムレット』と同じ幕開きだよ」との噂を聞き付け、開場早々に会場入り。おお〜ホントだ、役者さんがロビーをうろうろしています。衣裳や小道具もロビーに置いてある。いきなりバシエイナス役の横田栄司さんとはち合わせ、で、デカい!ただでさえハッキリした顔だちなうえ舞台メイクなので、ごっつう濃い顔になってました(笑)体格もいいし、ホント日本人離れしてる…。カイロンを探したけれど見付からず、残念。

ステージ上ではリハーサル(演出の一環だが)の真っ最中。この日は蜷川さんの姿は見付からず(欠席だったのかな?)井上さんがマイクで指示を伝えていました。そして「はいっ」と言う合図で開幕。あっと言う間に劇場は古代ローマ帝国に。

今回いちばん気になっていたのは、夥しく流れる血の描写をどうするのかと言うところ。これがうっつくしかった!全て布と糸で表現されます。タイタスが、両手と舌を切られて血まみれのラヴィニアとキスする時、血の糸を口移しするんだけどこっれがもう〜!美しい!あと〜あれだ、ええと〜ラヴィニアって処女だったので〜やっちゃうと出血甚だしいんですね。彼女を陵辱した後、ディミートリアスとカイロンがほぼ全裸で出てくるんですが、前ばりが例の赤い糸。これはウマい!と思いました。妙に感心してしまった…。真っ白な装置、衣裳との対比も素晴らしかったです。タイタスとマーカスのアンドロニカス兄弟はプラチナブロンドの髪の色で、これも映えた。ゴート族の3人(タモーラ、ディミートリアス、カイロン)は黒、緑、青の原色衣裳。エアロンは赤。この対比も美しい。

それにしてもこの話。ここ迄くるともはや喜劇です。結構笑えるんだよね…錯乱した(と見せ掛けてる=いや、ホントにおかしくなってたのかも知れないが)タイタスをそそのかそうと、タモーラ母子が復讐の女神とその手下に扮して現れるシーンとかもうおかしくて!だって名前が「殺人」に「強姦」ですよ!グループ魂の「破壊」「暴動」とタメ張りますよ。こことかタイタスと道化のやりとりのシーンはもう笑かしたるでー、って演出だったので遠慮なく笑わせて貰いました。タモーラに抱きついて離れないタイタスの頭をぺしっとはたく兄弟のばかっぷりもおかしかった…高下駄履き慣れてなくてヨロヨロ歩いてる姿にも笑った…捻挫に気を付けてなー。

しかしラヴィニア、実は結構嫌な女なんだよな。ひとを蔑む言動が甚だしい。も〜どっちもどっちだね!いろいろ部族とか立場の違いとかあるけども!おまいらもうちょっと他人の言葉に耳を傾けなさいよ〜いっときの感情で動くのやめなさいよ!マーカスおじさんもラヴィニア見付けた時に朗々と語ってないで(これがまた流石シェイクスピアってな美しい台詞なわけですよ)手当てしてやれよ!てなツッコミを入れっぱなしです。オモロいよ…。タイタスとマーカスのやりとりなんて漫才かって思えるようなボケボケツッコミ満載です。これに出てくる兄弟は皆愚かと言うかボケてるよ…タモーラんとこのバカ息子といいタイタス兄弟といいサターナイナスとバシエイナス兄弟といい。いやバシエイナスはちょっと気の毒だったが。そう考えるといちばん言動に筋が通っていたのってエアロンだよなあ…いちばん悪行三昧だったひとですけど。いや筋が通ってたからってやっていいことと悪いことがありますけども。

と考えながら観るとあら不思議、現代と全く変わらないじゃ〜あ〜りませんか。人間て進歩ないのね。だからこそ最後の、戯曲にはない幕切れはよかったな。子供ら、頼むよ!未来を明るく照らしておくれよ!(涙)

役者陣は見事でした。タイタスの吉田鋼太郎さんの迫力はすごかった!稽古中に右手を骨折したと聞いていたので、その手をばんばん床に叩き付けてるシーンではオロオロ。正に全身全霊を役に傾けている、鬼気迫る将軍でした。怒り狂う時は星一徹なみのガンコ親父、嘆きの時も激しいが、こちらの涙も誘います。あんなにラヴィニアの言葉に耳を傾けなかったのに、後半は彼女に幾度となく優しく言葉をかけ、話を聞こうとする。だけどその時にはもうラヴィニアは喋れなくなっている。皮肉だわー。凱旋してきた時はあんなに誇り高い、自信に溢れた姿だったのに、皇帝の気まぐれであっと言う間に失脚(ほぼそうだよね)した後の狼狽と怒り、嘆きがないまぜになった時の姿が素晴らしかったです。ここでの落胆がないと、この後の怒濤の展開が弱くなるもんね。

マーカスの萩原流行さんはグッドルッキング。白の衣裳と金髪が似合い、動きが綺麗。森で見付けたラヴィニアを、自分の服にくるんでタイタスのもとに連れてくるシーンが美しかった!時々台詞が浮いた感じがしてヒヤヒヤしたけど、兄ちゃんがあれじゃ苦労も多かろうってな(でもボケ)弟像が面白かった。サターナイナスの鶴見辰吾さんは、皇帝の器じゃないね!ってな部分がよく出ていた。あと岡本健一さん演じるエアロンが良かったわー。登場人物中唯一の黒い肌。最初誰か判らなかった。奴隷的な立場でいながら、彼は誰に対してもいちばん優位に立っていた。死ぬ迄誇り高くいた。酷い人物なんだけどうっかり魅力も感じてしまう、すごかったです。

そしてタモーラ!タモ〜ラ!麻実れいさん。やっぱこの女王はこれくらいゴージャスなひとがやらんと!もう〜タモーラにぴったりだよ…(って言うと失礼なのかも知れないが(笑))冒頭の、長男を生け贄にされた後随分長く台詞なしで舞台上にいるんだけど、無言の迫力がすごい。放心状態からちょっとずつメラメラ炎が立ってくるような。圧倒されました。

あー、あと村井克行さんを楽しみにしていたんだけど、席が遠かったこともあり、どこにいるか探してる間に終わってしまった…トホホ。

高橋洋くんはカイロン。ホントにバカ息子だった…ここ迄来るとかわいいわ、もう。「ばーかばーか!」とか言ってるしな。それは戯曲にはない台詞です(笑)ホントにバカだった…これが昨年実直なホレイシオをやった役者と同一人物かい!底力を見たわー、ずっと応援するよー。

それにしてもアクションが激しいこと。怪我人続出と聞いていたのでもうヒヤヒヤしちゃった。高橋くんなんて、序盤は捕虜になっているので首輪と鎖をかけられているんだけど、それをぐいっと引っ張られた時にゲホゲホむせちゃってて。あと舞台から転がり落ちたりもしてた。頭を踏まれた日もあったとか…どこ迄演技なんだ〜!時期が時期なので喉をやられているひとも多いとか。無事楽日を迎えられますように!

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■ヘルムート・ニュートン氏死去
83歳。

■青木富夫氏死去
80歳。

朝刊を開いて「えっ!…」その後絶句、と言うのが2日続くとキツい。
ニュートンは事故か…。まだまだ現役だったのに。
青木さん、『忘れられぬ刑事たち』に出演した時のあの姿は、演出ではなかったのかも知れないな…最後の最後迄現役。リアルタイムで観られた作品は少ないけれど、素晴らしい存在感でした。周りのひとを笑顔にさせる。ああ言う歳のとり方したいなあと思ったものです。

御冥福をお祈りします。