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2002年06月11日(火)
『溺れる人』

『溺れる人』@ユーロスペース1


昨年PFFでの特別上映を逃していたので首を長くして待っておりましたこの作品。塚本晋也さんと片岡礼子さんの夫婦って、いやんばかん!ステキ過ぎる!…とは言うものの内容はじわじわ体温が下がるもので。『とらばいゆ』では「塚本さん、結婚して!」でしたが、今回は「塚本さん、別れて!」てな作品でした(なんだそれは)。以下ネタバレしてます。





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バスタブに沈んだまま動かないクミコ。夫・トキオは彼女が死んだと思い狼狽し、泣き、救急車も呼ばずに飲んだくれて寝てしまう。クミコは翌朝目を覚まし、酔いつぶれたトキオを介抱する。妻はあの時死んだ筈だとトキオはクミコのことを訝りはじめ、異常な行動を起こし始める。

「死んだ君はきれいだった。今まででいちばんきれいだった」。救急車を呼ばなかったのは、「君を僕だけのものにしておけると思ったから」。自分の異常な性質を自覚した夫は妻に詫び、許しを乞う。「どんなことでも聞く。殺されてもいい」。男としてはここで殺して貰った方がロマンな感じで良かったんじゃないかな。トキオ本人もそれに酔っていたと思われる。しかし、クミコは現実的に離婚を切り出す。

名古屋で自主製作を続けてきた一尾直樹監督初の16mm作品。監督が講師を務めている名古屋ビジュアルアーツとの共同製作、スタッフも名古屋のひとでかためています。B級映画館のTさん(愛知県在住)によるとこの作品、地元の映画館でチェコアニメ特集や『チェブラーシカ』と同等の力を入れて推されているそうです。…え、それってチェブラーシカと同じくらい塚本さんがかわいらし(以下略)

ダンナの独占欲と身勝手さを丹念に描いているので、自分の離婚経験からこの作品を作ったと言う監督の思いを考えてしまう。ダンナの友人の説教シーンにはいささか説明くささを感じたが、脚本も手掛けた監督本人が自分の中での会話を突き詰めた結果なのだろう。編集を他人に任せたらかなり違ったものになったかも知れない。しかし、喉の奥にひっかかった小さな棘のような感覚は、思いの外静かで心地よかったりする。

最後のシーン。母親が亡くなり、葬儀の帰り道にふらふらと歩いていたクミコは「夢で見た風景」の中に立つ。今となっては、その風景が夢だったのか、現実だったのか「わからない」。クミコは、実は本当にバスタブで溺れて死んだのではないか…。トキオの妄想は、妻を意識化で死に至らしめる。クミコは夫の妄想から逃げる。逃げのびることは出来たのだろうか。そもそもバスタブに沈んだのも、トキオから逃げる為のクミコの意図だったのではないか。

と、嫌な方に考えてみました。

塚本さんは癇の強い、妄想キングな夫がハマっててなあ。怒ると声ひっくりかえるしな。よりを戻したいよ〜と迫るシーンのなっさけなさがよかったです。その反面妻を隠しカメラで監視する目つきのドロンとした切迫感は怖かった。やっぱり狂っているとしか思えない(羨ましくて言ってます)。あとこのひとは身のこなしに色気がある。名優。

片岡さんはも〜う、うっつくしい!うっつくしい!『ハッシュ!』の男ットコ前さとはまた違う、蜻蛉のような美しさで、肌の質感からなんから儚すぎて生きてるか死んでるか微妙なとこが素敵で大変。嫁にしたいです。ハスキーな声がナレーションにいいアクセントを与えていました。

作品内容とは全く関係ないので申し訳ないんだけど気になって仕方なかったこと。塚本さんの身長が、シーンによって妙に違う気が…あんなに片岡さんと身長差はないと思われ…ご、ごめんなさい。でもね、気になってね…。

メイクと衣裳(谷渡香代子氏)がよかったなあ。シンプルで、夫婦ふたりにとても似合っていた。あとこれグラフィック(誰だ!知っているひといたら教えて!エンドクレジットでは『ウルトラグラフィックス』となっていたけど)が出色です。ポスターB全で作るだけある。青がとても綺麗。イビツなタイトルロゴも作品の雰囲気を的確に表現していて凄くいい。