初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2002年05月27日(月)
『突入せよ!「あさま山荘」事件』

『突入せよ!「あさま山荘」事件』@新宿東映

1972年2月、連合赤軍が軽井沢の標高1169.2mに位置するあさま山荘に立て籠る。人質は山荘の管理人の妻ひとり。10日間の攻防の末犯人を確保、人質も無事救出。死者は警官2名、民間人1名。史実をもとにしたフィクション。最後どうなるかは殆ど皆が知っている。なのにこれが面白いんですよ…。

非常に観やすい。と言うのもエンタテイメントとして充分に機能しているからだ。脚本も手掛けた原田眞人監督の、ストーリーの肝を掴む握力に迷いがなく、大人数の登場人物を扱う演出も極めて明解。犯人の姿を極力見せない(最後の最後で顔を見せた犯人2人があの役者とは〜。観たひとのお楽しみ)、視点を警官隊に絞り、その代表として現場の指揮を執る警察庁警備局付監察官・佐々(役所広司さん)を立てる。観客の意識を警察側に、心情を佐々に持っていくように仕掛けている。警察間での縄張り争い、弁当をも凍らせる極寒の自然環境、銃器が使えないもどかしさ。観客は佐々同様、困惑したり腹を立てたり笑ったりする。

そう、笑える。過酷な状況の中の物語なのにおかしいのだ。県警と警察庁・警視庁の小競り合いに小ネタが沢山仕込んであって面白い。休憩時間にキャラメルを警視庁側にしか配らなくって怒られたりね(笑)煙草をもうもうと燻す県警側と、キャラメルを噛み噛みする警視庁の構図はおかしかったなー。個人的にいちばん笑ってしまったのは(そんな状況じゃないんだけどな…)、山荘の室内に貼ってあった松尾スズキ氏の、ボーリング大会で優勝した(らしい)時の写真。トロフィー持って満面の笑み。それがまた何度も映るのよ…マイボールもあって、警官に転がされたりもしていた(笑)。「ぷはっ」と吹き出してしまう客も多くて(自分含む)面白かったな。

そんな観客が後半は「が、がんばれ!」と一体に。緊張感の持続力が強力。山荘に警官隊が突入してからが予想より長い。建物に入ったらすぐ片付きそうなものじゃないですか、こーれーがーそうじゃないんだな。犯人は姿を見せない、隠れている部屋に入れない、銃弾は飛んでくる。その銃弾がジェラルミンの盾に穴を空けたもんだから、警官隊は大混乱に陥る。そのケイオスっぷりがすごくて、展開においていかれそうになる。実際の現場もそうだったんだろう、これはやきもきする。臨場感に溢れていて非常に効果的。目を離せなくなる。

大体亡くなるのはどのひとって見当は付いているのだけど、いろんな伏線が張ってあるので「フィクションと銘打ってあるだけに、3人以上死んじゃうかも…」と半泣きになりながら観てました。翻弄されましたよトホホ。「そのコート、白くて目立つな」とか、頭を出した時にスローモーションになるとか、「(差し入れの酒は)任務が終わってから飲みます」とか!いや今飲んどけ!飲んどいた方がいい!あんた一生飲めないぞ!と心の中で叫んでもスクリーンの向こうに届く訳もなし(当たり前)。

個人的には篠井英介さん、田中哲司さん、松尾スズキさん、荒川良々さん、遠藤憲一さん、豊原功補さんに注目。松尾さん、めっちゃポイントな役だった…散歩をさせてた犬がすんごいかわいい。終始フラットな言動だったのが、最後の最後でその均衡が崩れ泣き出すシーンがあり、これはキたわ…犬もいるし。動物には弱い。篠井さんは「この作品でどんな…きっとイヤ〜な上司役とかなんだろな」と実はあまり期待していなかったのですが、これが良くて!偽善者ならぬ偽悪者で良かった、あとやっぱり滑舌が抜群で台詞が聞き取りやすい。役所さんが正直あまり滑舌良くないのでね…とはいえ役所さんは指揮官を演じるカリスマが強力にあるにも関わらず、現場で困惑する様子にユーモアが溢れてて面白い!他のキャスティングは…考えられないな。素晴らしかったです。

収穫は遊人さん。瞳キラキラで、佐々を慕う仔犬っぷり炸裂で印象的でした。無防備過ぎるんじゃー!心配するだろう!主人(佐々)を見失って半泣き顔で盾より上に頭出しちゃってキョロキョロすんだもんよ…「何やってんだあんた!」「頭下げろよ!」「うわあん!」と思いましたよ…。こういうキャラはこの手の話には必須です。あと藤田まことさん扮する後藤田長官がホンモノそっくりで、客席から笑いが漏れる程でした。

犯人達を生きて確保した事で内ゲバの事実が明かされ、それが先に公開された『光の雨』にも繋がっていくような気がする。観る機会を逃してしまっていたので、これから『光の雨』を観れば、頭をクリアに出来るかもしれないな。