まさか、負けても良いなんて言い出さないわよねえ…… 「俺だって、セツの死に目に立ち会えなかったんだ。 葬式くらい出てやりたい……」 「解るわよ、勿論、陽ちゃんの気持ち…… でも、大会も今年最後なんだし── ああ、さっきと立場が逆転してる。 あたしは最後に、 「何か良いのあれば陽ちゃんの分まで遺品もらってくるよ。 今日の試合頑張ってね!」 と言って受話器を置いた。
夏休みもあと少しで終わる、八月も後半を過ぎたある日のことだった。 昨日の夜遅く、母の実家からかかってきた電話で、あたしは同い年の従姉妹・せつが死んだと知る。 あたし達家族三人(父母と一人娘であるあたし)は、翌日の今日、母の実家に向かうことになった。 その前にと、あたしは中学最後のサッカー大会に出場している陽介に、電話をかけた。 あたしは温子(アツコ)。 陽ちゃんは、アツと呼ぶ。 せつ──セッちゃんのことをセツと呼ぶ。 この呼び方は、彼特有のもの。 他の周りの友達は遣わない。 グリーン車両に乗り、北へ向かう途中、ケータイには陽介からメールが入っていた。 『俺の代わりに、サヨナラ言っておいてくれ』 ホントは、それで納得できるわけじゃないだろうに…… 『了解!』 一言だけ返事を返し、目を閉じた。 三人揃って初めて逢ったのは、小学校あがってすぐだろうか。 あたし達三人は、幼なじみだった。
◆陽介 PART1◆
俺が初めてセツと逢ったのは、小一の夏休みだった。 温子──アツは俺んちのすぐ隣に住んでいる。 物心つくかつかない頃からの付き合いで、同じ保育園に通っていた。 アツは毎年夏休みや冬休み、母親の実家に遊びに行ってたそうだ。 俺達が小学校にあかったその年、初めて田舎に行かないかと誘われた。 「おばさんのお姉さんに、せつって名前の温子と陽くんと同じ歳の女の子がいるんだけど。体が弱くて、いつも家にいるの。 学校にもあまり行けないみたいで、友達も少なくて…… もし良かったら、友達になってあげてくれないかな? せっちゃんに、新しい友達を紹介してあげたいの」 友達になれるかどうかは二の次に、俺は田舎に興味があって承諾した。 田舎から帰ったアツからいつも話しを聞かされて、行ってみたいと思ってたからだ。 従妹であるセツの話も度々出たが、 「あたしに似て可愛いよ〜(はぁと)」
つづく
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