◇◆◇序章◇◆◇
少女は、いつも其処にいた。 広い庭にある、大きな樹の下──眩しい陽の降り注ぐ庭で遊ぶ子供達からはなれ、一人、樹の根元に座っている。 一人静かに本を読んだり、絵を描いたり、ただぼんやり空を眺めたり…… 時折、庭で転げ回る仲間達に目を向けることもあった。 その瞳(メ)には、仲間をあたたかく見守る優しさと、羨望。 そして──言い知れぬ哀しみ。 少女は、仲間と共にいながら、常に孤独だった。 たったヒトリ…… 少年はそんな少女を気に掛け、いつしかそばにいるようになった。 仲間と遊ぶより、少女と共にいることが多くなった。 少女は微笑む。 少年は、優しく語りかける── 少女は少年の肩に頭(コウベ)をあずけ、微睡む…… 微かな寝息。 微かな呟き──
ワスレナイデ──
「忘れないよ……」 眠り、聞こえる筈のない少女の閉じられた眼から、一雫の涙が零れ落ちる。 それは頬を伝い、そよ吹く風に触れ、氷となる。 地面に落ち、木洩れ日に反射し、水晶のよう煌めくと、すぐに溶けて消えてしまった。 ほんの僅かな間。 一瞬の出来事。 ただ二人にとっては、触れ合った部分のかすかなぬくもりだけが確かだった。 それは、交わした言葉。 交わした約束──
◇◆◇第一章◇◆◇
◆温子 PART1◆
「……嘘、だろ?」 それは、予想され言葉だった。 「おいアツ。朝っぱらからそんな冗談はないだろ〜?」 受話器ごしの陽介の声は、その口振りとは裏腹に乾いたものだった。 「ホントだよ」 イライラを抑えながら、あたしは言った。 「こんなこと、わざわざ宿泊先に電話かけてまで言う冗談じゃないわっ!」 声が詰まる。 「じゃあ、本当に……」 「そう……本当に死んだのよ、あのコ。 せつ……セッちゃんは……き、昨日……」 喋る途中から、涙声になとてしまう。 泣かないように我慢してたのに…… 私が落ち着くのを待っていたのか、陽介は暫く無言でいたけど、 「俺も行く!」 「へっ!?」 「今日午前中の試合終わったら、明日は俺達のチームは試合ない。 だから……」 「何言ってるのよ! 途中で抜け出せるわけないでしょう!?」 あたしは彼をなんとか会場に残るよう、説得する。 というか……負けたら明日の試合はないぞ。
つづく
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