徒然なる Short story 集

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『月のカケラ』 十一

2007年02月08日(木)

 コンコン、と窓を叩かれる音で、あたしは目を覚ました。
 誰だか解ってはいるけど、念の為訊いてみる。
「レン?」
「さみーよ〜、中に入れてくれよ〜」
 レンは情けない声を出す。
 あたしは窓を開け、彼を招き入れた。
「ベランダ乗り越えたわけ? 危ないじゃない!
 こういう時はケータイ遣って連絡しなさいよ」
「だって、繋がらないからさ……」
「え!?」
 あたしは一瞬、耳を疑った。
「いっつも寝る時は電源切ってるけど、今夜は入れとけって言っておいたのに〜。
 忘れてただろ」
 ケータイを確認したら、確かに電源は切られていた。
「ご……ゴメンゴメン! つい、癖で……」
 レンはジト目であたしを睨む。
「いや〜……習慣って、ある意味コワいわねえ……」
 あはは……と誤魔化し笑いをするあたしを、レンはジトっと恨めしそうに見続ける。
 視線が痛い。
 目覚時計は、普段起きる時間にセットしたままにして、代わりにケータイのアラームを利用するつもりでもいたのだが、そのセットすら忘れてた。
 レンがわざわざ起こしに来なかったら、あたしは普段どおり、朝までスヤスヤ寝続けてただろう。
 あたしは気まずく頭を掻いてたが、
「ゴメン!」
 改めて謝罪した。
「ナナって、時々物忘れ激しいよな〜」
 レンは、憮然として言う。
「ほんとゴメン!」
 あたしは両の掌を合わせて、平謝りする。
「まあいいや」
 機嫌が直ったのか、苦笑しながら蓮は言った。
「それより、早く出掛ける準備しようぜ。
 頭……寝癖ついてる」
「えっ!?」
 恥ずかしい……
 あたしは部屋の電気をつけると、鏡台の前に陣とって寝癖を直す。
 髪を長く伸ばしてたのが幸いして、前髪をちょっと直す程度で済んだ。
 さてと、次は着替える訳だが……
 チョコンとあたしのベッドの上に、自分の靴を抱え座ったまま、ニコニコとレンはあたしの準備が整うのを待ち続ける。
 引きつりそうになるのを我慢し、笑顔であたしは言った。
「部屋の外に出てなさい」


つづく


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如月なつき [MAIL] [HOMEPAGE]