徒然なる Short story 集

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『月のカケラ』 十

2006年11月09日(木)

「つまりは……時間の感覚が狂ってきてたってことよね?」
 お弁当を食べながら、話をする。
「そうそう」
 とレン。
『石』が落ちてきた場所を中心に、近辺に住む住人と遠くに住む住人との時間の感覚に、誤差が出てきたのだ。
 あたし達みたいに間近に住む者達は、今、時間の進みがとてもゆっくりに感じられる。
 その原因は『石』にあると、レンは言う。
 あの石には、月の精が宿っている。月は時間を司る力を持っていて、その一部が欠けたことにより、バランスが狂っているんだそうな。
「でも、なんだってゆっくりに感じられるの?」
「欠けた月から満ちた月へと、変わってったからだよ」
 ……なんとなく……わかるような、わからないような……
「それで……どうやったら、元にもどせるんだ?」
 と、あの野郎がレンに質問した。
 できれば口に出したくも、考えたくもないから普段からヤツ呼ばわりしているが──
 彼の名は、神無月達郎という。
 あたしとは、小学校に入ってからの顔見知り。
 昔は、そこそこ喋りもしたんだけど……今は、それ程仲良くない。
 というか、犬猿の仲というか。
 今現在、あたしは彼を嫌っているから──
 仕方なく名前を呼ぶ時、あたしは名字で呼ぶ。
 レンは親しみを込めて『タッちゃん』とか言ってるけど。
「それは──」
ミルクコーヒーを飲み終えて、レンガ答えた。
「石に宿る月の精を、月に還してやれば良いんだよ」
「じゃあ、早く還そう!」
 とあたし。
「まだダメだよ」
「そうなの?」
「うん。石が降ってきたのと同じ、月齢のあたりじゃないとね……」
「そんな〜」
 あたしはちょっとがっかりした。
「となると……まだ、だいぶ先だな?」
 とヤツ──神無月。
「うん。今丁度、満月期だし……二週間は先」
 とレンは答えた。
 二週間……
(ほんと、まだ先ね……)
 あたしはドッと疲れた。
「還す時は真夜中になるけどさ。どう? タッちゃんも一緒する?」
 ニコッとして、レンは誘う。
 そしたらヤツは、
「平日だったら、部活の朝練があるから……そん時ャやめとく」
 と言った。
 それを聞いて、あたしはホッとした。
 でも何故か、少しだけ寂しくも感じた。
(気の迷いだろうけど……)
 そんなことを考えてたら、レンはあたしにどうするか訊いてきた。
あたしは、
「もちろん、あたしは行くよ」
 きっぱりと参加を告げた。



つづく


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如月なつき [MAIL] [HOMEPAGE]