くるくる回したまま、レンは呆けた様にこちらを見ている…… と。 ピシッ!? 紐が指から外れ、何かにぶつかる。飛んでった方を見てみたら、いつの間に来てたのか、あの野郎が立っていた。 丁度額の真ん中らへんに、巾着袋が張り付いていた。 ぽす、と軽く音を立てて、巾着袋は彼の掌の中に落ちる。 「えっ、と……その…… だ、大丈夫か?」 ヒヤリと、一筋の汗を流しながら、レン。 あの巾着、確かキルティングで出来てたと思ったけど── (ヤケに鋭い音がしたわねえ……) 彼はムスッとしたまま、手の中にある巾着袋からレンへと視線を移した。 彼の額には、くっきりと石がぶつかったあとがあった。赤くなってる…… よっぽど勢いよく至近距離でぶつかったという事だ。 (……い、痛そう) ムカつく奴ではあるが、私はさすがに同情的になった。気の毒そうな視線を向ける。 なんと言っていいかわからず、惑い二人を交互に見た。 「ごっ、ごめん! ぶつける気はなかったんだ。信じてくれっ!」 「……ワザとじゃないのは、わかるけどなあ……」 ずっと黙ったままだった彼が、やっとで口を開いた。 明らかに不機嫌な…押し殺した声。 「こんなモンに気ィ取られて敵からボール取り損ねてんなよ! 試合中断さすなっ、アホらしいっ!!」 巾着握った手で拳を突き出す。 「だから、ゴメンってば〜!? 許して〜!」 立ち上がりざまにそれを避け、逃げだすレン。 「待ちやがれ!このヤロ〜!」 すかさず彼は追いかけて行き、二人は教室の外へと飛び出していった。 一体、なんの用があったのかと思ったが……体育の授業のことで用があったのかな? 廊下の方から喧騒が聞こえる。追いかけっこは暫くやみそうになかった。 (やれやれ……) 言わんこっちゃない。 (あの石、無事だといいけどねえ…) 私は秋の様相を深めた窓外に目を向けて、溜め息を吐いた。
昼休みが終わるギリギリに、レンは戻って来た。 「あ〜疲れた〜!」 椅子に座り、ヘタっと机に持たれかかる。「石、大丈夫だった?」 「ん〜。ああ、無事だったよ」 言いながら、制服の胸ポケットから巾着を取り出した。 「何があるかわからないからな。今度から体育の時間も、ちゃんと胸ポッケにしまうようにするよ」 ニッコリ笑うレンに、私はゲンナリとしてこう言った。 「だから……そういう問題じゃないと思うよ」
つづく
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