2005年05月25日(水) |
「エレニの旅」「北京にブラームスが流れた日」 |
◆ エレニの旅 TRILOGIA I: TO LIVADI POU DAKRYZEI [ギリシア/2005年/170分] 監督・脚本:テオ・アンゲロプロス
爆睡したこともある、唸ったこともあるアンゲロプロスの映画。 少々臆しながらも新作に足を運ぶ。 普段は見る前に情報を入れない私であるが、(びびっているので)これは前もって少々調べてみた。が、一夜明けるとすっかり忘れて、可哀想な私の脳には“何やら壮大なるギリシアの歴史の序章であるらしい”位しか残っていない。 などと少々不安な気持ちで向かったわけだが、始まってみると、興味は前へ前へと尽きず、何より映像の美しさにひたすら右脳が活性化。 ため息も漏れる。
しかし、ギリシアの現代史など何も知らない私、それをエレニが体現しているというキモの部分についてはぴんと来ないまま終盤を迎える。 が、ファシズムの台頭から大戦〜内戦にかけて、夫はアメリカ軍として大戦に参戦し、双子の兄弟は政府軍と反乱軍として内戦に参加、エレニ自身投獄されるなど悲惨な行方を見守るうちに、そもそも難民として始まった彼女らの厳しい運命を思いやる。 ラスト、あからさまな観念の世界で(倒れたエレニの幻覚かもしれないが)、エレニの悲痛なまでの叫びに胸がつまる。 これがギリシアの慟哭か。 (5/25 at シャンテシネ)
◆北京にブラームスが流れた日〜小澤征爾、原点へのタクト〜 『スゴバン/すごい番組がありました』という、テレビマンユニオンの制作した番組のレトロスペクティブがライズXであった。何本も見たいものがあったのだけれど、結局これ一本の鑑賞となった。
・中国の文化大革命中、厳しく封印されていた“西洋音楽”が初めて甦った。 反革命の罪で9年も獄中にいたコンサートマスターが率いる北京のオーケストラ『中央楽団』。その指揮は中国で生まれた小澤征爾。 当時、中国との国交がなかったにもかかわらず5年越しの交渉が実る。 1978年7月放送
この間の事情は、以前に読んだ武満徹との対談集『音楽』でも触れてあって、かなり印象深く残っていた。 革命中は12年間も政治的な音楽以外は、自国の古典音楽さえも禁止されていたという。 実際、練習前に「この中でブラームスを弾いたことのある人は?」という問いに、映像ではひとりの挙手があったきり。(本では3人ぐらいになっていたけど。) 基礎技術は高くても、ブラームスの弾き方を全く知らない、でもいつか弾きたかったというオケの熱い思いに小澤が応える。
練習時間が極端に短かったり、国民性の違いなどにも苦労したように見受けられるが、演奏が終わり、涙を流す楽団員や観客の姿は、決して中央からの押しつけの成功や感動とは違うもののような気がした。
また、昨年たまたま演奏会で見た、二胡の建姜華が18才の頃の映像があったのにも驚いた。 今ではすっかりあか抜けた大人の女性だが、当時の彼女はリンゴのほっぺのまんまるお下げ髪少女。 そういえば小澤に認められて広く活躍するようになったと聞いた気がする。 18才の彼女の演奏を聴き、泣く小澤の映像は印象的だった。 (5/29 at ライズX)
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