◆ サイドウェイ Sideways [アメリカ・ハンガリー/2004年/130分]
監督・脚本:アレクサンダー・ペイン 出演:ポール・ジアマッティ、 トーマス・ヘイデン・チャーチ、 ヴァージニア・マドセン、サンドラ・オー
良くできているものの、決して好きにはなれなかった前作「アバウト・シュミット」だが、今回はココロから楽しめる大人の味わい深い映画になっていた。 かなり好きだ。
サーブのカブリオレに乗り、知的な英語を話し、ワインに造詣が深いという、一般的なアメリカ人のイメージから遠い中年男が主人公マイルス。 しかしその実、部屋の様子から結構だらしないと知れ、遅刻の言い訳をぐだぐだ言い続け、年老いた母からはお金をくすね、離婚の痛手から立ち直れず、いぢいぢとし、長年の親友にまでも責任逃れの嘘をつき通し・・・等々、要はどこにでもいそうな愛すべき男なのだ。 いや、年老いた母からお金をくすねる男はどこにでもいそうではないけれど、この辺がアレクサンダー・ペインなのだ。 このマイルス役ポール・ジアマッティが良い!「アメリカン・スプレンダー」よりも!
旅の相棒ジャックは、マイルズとは正反対のひたすらシンプルな男。 この役で、トーマス・ヘイデン・チャーチはアカデミー賞の助演男優賞にノミネート。 確かに魅力的な演技なのだが、これは役得というべき。
マイルスに絡むサラがまたチャーミングで素晴らしい! 夜のテラスでの語らい(この映画での彼女の見せ場か)では、内からにじみ出て輝く知的で円熟した魅力に目が離せず、何故かうるうる感動してしまったのだった。もちろん、マイルスもいちころである。 このヴァージニア・マドセンという女優、名字であれっと思って調べたら、マイケル・マドセンの妹だそうだ。確かに今ほど太っていない若い頃のマイケル・マドセンに似ている。 力はあるものの、フィルモグラフィーを見るとチャンスに恵まれず苦労したようだ。
また、最近よく見るサンドラ・オーは、韓国系カナダ人で監督の奥さんだそうでびっくり。
ワインに絡みなぞらえた話が図抜けて面白・可笑しい。 マイルスの職業は英語教師だが、実は作家志望だ。 仕上げた本の出版を待ち望んでいて、旅行の最中も気になってしょうがない。 結局、出版の希望がついえてしまうのだが、その連絡をエージェントから受けた時に居た場所は、大量生産ワイナリー。そのワイナリーは、木の樽ではなくステンレスの樽で保存(しかも屋外にも置いてある)、観光バスから大量に吐き出される観光客に愛嬌を振りまくというような彼の憎む実利主義のスポットだったのだ。 難解で一般に受け入れられない彼の文学(・・と自分では思っている)が、口当たりは良くても内容の伴わないベストセラーにしてやられる図式を、ワインセラーと置き換えてしまい、安物ワイン(=大量生産の安文学)をがぶ飲みして大暴れしまう彼を誰が責められよう・・・。
また、元妻が再婚。結婚10周年記念に飲もうと大切に大切にとって置いたレアなワインを、ファストフード店でジャンクな食べ物と共にこっそりと隠れてプラスティックのグラスで流し込むマイルス。冒頭、旅の始まりで車の中でもワインの為にきちんとガラスのグラスを用意していた人物である。その吹っ切れなさと捨て鉢気分が分かろうというもの。
いくつになっても理想的な人間になるのは難しいのだ。 日々、迷走を続けていくのみだ。
(at 明治安田生命ホール 3/5よりロードショー)
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