表身頃のココロ
ぼちぼちと。今さらながら。

2005年02月15日(火) 「マシニスト」

◆ マシニスト
The Machinist
[スペイン・アメリカ/2004年/102分]
監督:ブラッド・アンダーソン
脚本:スコット・コーサー
出演:クリスチャン・ベイル、ジェニファー・ジェイソン・リー、アイタナ・サンチェス=ギヨン

監督のブラッド・アンダーソンは「ワンダーランド駅で」「セッション9」で結構お気に入りなのだ。特に「セッション9」は世間の評判がいまひとつだったが、私は気に入っている。あの映画は決してホラーではなく、壊れゆく人間を描いた心理ドラマだったのだ。
が、意匠をこらしすぎ焦点がぼやけてしまった事と、犯人に導くミスリードがうまく機能しなかった事で、空回り傾向になってしまった感は否めない。
が、まったりとからみつく静かなる狂気を体現したピーター・ミュランが素晴らしく、また狂気を描く演出は、かなり地味だが出色の出来だったと思っている。

そして、この「マシニスト」。
やはり意匠をこらし(過ぎ)ているのは相変わらずだが、きちんと整合性のとれた凝り方で、ぶれも感じられない。
そして主人公トレヴァーの追い詰められた混沌を演じたクリスチャン・ベイルは素晴らしく、やはりまったりとからみつくような演出と色調含めた映像はかなり好みだ。

主役トレヴァーはこの映画のために30キロも痩せたという話題のクリスチャン・ベイル。
無理すんな〜。
不眠症で1年間眠っていないということだが、時々うとうとするシーンがあり、おかげで何とか生きながらえているような状態。
そんな状態でも何とか日常をこなしているのは、工場で働き、空港のカフェに立ち寄り、時に娼婦であるジェニファー・ジェイソン・リーの元へ訪れる・・・マシニスト=機械工=マシーンのごとき正確な繰り返しの毎日だからなのか。
睡眠不足による記憶の飛びをメモで補おうとする姿は、あぁ痛ましや・・人ごとではなかったりする。


以下、一方的解釈によるネタバレに満ちた、だらだらとした覚え書き

一時的健忘症というのだろうか。
あまりに重い罪を犯しそれに耐えられずココロに負荷がかかりすぎた時、その原因を忘れ去ってしまおうとする脳の自己防衛メカニズムだと思われる。
表面では何事もなく日常を送っていても、意識下では絶え間なく罪悪感・贖罪感・良心の呵責などに苛まれる。それが高じて睡眠不足に陥った男が主人公である。
極度の睡眠不足では半睡半覚醒状態が続き、意識と無意識の境界が定かではなくなる。
無意識の領域は未だ解明されていない分野だという。

赤いスポーツカーのデブ男=分身男登場あたりから、トレヴァーの無意識の領域で起こる幻覚が描かれ、それに支配され始める。

何度か登場する分かれ道はトレヴァーの彷徨える心の象徴だ。
遊園地のルート666というお化け屋敷では、右が天国左が地獄。
工場からの帰り道の岐路では右が市街(だったか?)、左が空港のカフェに通じる道。
右の市街地には出頭すべき警察があるはず。左の空港に通じる道にはご丁寧に“Escape”という看板さえあった。
無意識の領域で、右( right=正しい)の道という選択肢を作っているところで彼の良心の呵責が見えるわけだが、彼が選ぶのは(遊園地の分かれ道も結局彼の選択だ)常に左の道。
現実逃避の底なし地獄だ。
トレヴァーが逃げ込んだ地下の用水路でも分かれ道があったが、この行き先は失念。

また、記憶の補填のためだった付箋メモに書かれた謎のメモ・・首吊り男とKILLERの文字・・・は、無意識下の良心の呵責が書かせたものだった。

空港のカフェのウェイトレス・マリアは彼に癒しを与えてくれるが、実際にはひき殺した少年の母親の姿をとっていて、彼女との会話は皆彼の想像の産物だった。
許しを得たいというトレヴァーの願望の現れだったのだと思われる。
また、遊園地で回転木馬前の記念撮影からトレヴァーの母の姿を思い起こすわけだが、実際に遊園地に行ったのはトレヴァーひとりのはず。トレヴァーのかつての家族構成(母ひとり子ひとり)を、ひき逃げした子とその母に置き換えていたのだ。マリアの家で彼が目にした古い人形やガラスのボウルは実際にはトレヴァーのものだったということからも、彼の幸せだった時へのノスタルジーかつ、安心な母の懐に戻りたいという現れでもあるのだろう。

トレヴァーにだけ見える、一年前の事故で廃車になった赤いスポーツカー、それに乗るトレヴァーの分身であるアイヴァンは罪悪の象徴として醜く太った姿で現れる。
痩せる一方のトレヴァーとは対称的だ。
事故後、魚釣りに行ったと思えるが、魚釣りの写真に写っていた(彼の目にそう見えた)のは太ったアイヴァン。悪いことをしたのは皆アイヴァンなのだという逃げ。また、途中で“魚釣りに行きたかっただけ”と書かれたナンバープレートが映し出されていたが、彼の自責の念+言い訳なのだ。

娼婦であるジェニファー・ジェイソン・リーは、トレヴァーの唯一現実との接点。
確かな肉体の実感を伴っているからかもしれない。
虚と実を悟り始めるきっかけを彼女によりもたらされる。

何度も挟み込まれる、常に1:30を指す時計、車のシガレットライターの映像は、トレヴァーの脳裏に焼き付けられた事故直前の記憶。

それらすべてが合致した時、トレヴァーの記憶は蘇り自分が犯した過ちを悟るのである。

警察へ自首した後、引きずり込まれるような眠りの何と安らかそうなことか!
恐ろしい悪夢から解放されたのだ。

ラストはあまりにも整いすぎていて、一歩間違えると単なる教訓めいたまとめになりそうで怖いが、非常に良くできた心理スリラーだったと思う。


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るつ [MAIL]

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