2005年01月19日(水) |
「ソン・フレール -兄との約束ー」 |
◆ ソン・フレール -兄との約束ー Son Frere / His Brother [フランス/2003年/90分]
監督・脚本:パトリス・シェロー 原作: フィリップ・ベッソン 出演:ブルーノ・トデシーニ、エリック・カラヴァカ
映画を見た直後に、チラシを読んだ。 この映画の真髄が簡潔に表現された文章があった。
人間にとって「死」とは何か?本作は、すべての芸術家が描き続けたテーマに向かい合い、その残酷さを回避することなしに、同時に逝くものと残されるものに与えられる癒しと安らぎを鮮やかに描き出す。
血小板が減少していくという難病に冒された兄とそれを看護し見守る弟というシンプルなストーリーながら、チラシの文そのものの深遠かつ静謐な世界が広がっていた。
映画はおおまかにパリとブルターニュ、ふたつのパートから構成され、それぞれの部分が巧妙に切り取られ差し込まれて配置、美しい詩が構築されている。
まず、病気が再発した兄がパリの病院に入院しているパートでは、生々しい肉体の死を予感させる描写や徐々に希望を失い疲弊していく姿が描かれていく。同時にそれぞれの恋人との決別を通し、しがらみをなくして子どもの頃の世界へ戻る準備を整えて行くのだ。 そして、医師の警告にもかかわらず退院して子どもの頃に住んでいたブルターニュの海岸沿いの家に移り住むパートでは、ふたりの静謐な世界に焦点が絞られる。 パリのパートでは現在のそれぞれの背景が見えてくるが、こちらのパートでは、ふたりの兄弟がたどった過去の関係が見えてくる。
乱暴に言ってしまうと、ブルターニュの海岸が縦軸、それに差し込まれるパリが横軸ということになるだろうか。 それぞれがまた時系列ばらばらに描かれるが、だんだんに浮かび上がってくる心情をきちんと受け止めるラストは感動的だ。
死への儀式が描かれたともいえるこの映画。 生々しい死を通じて描かれたのは“生”そのものに他ならない。
脾臓摘出手術前日、兄トマの体毛を二人の看護士が手際よく正確な手順で剃っていくシーンは、非常に印象的だった。 カメラはその行為のいっさいを何の感情も交えず延々と映し続ける。 痩せ衰えたその体を否が応でも眺めることになる我々観客は、死に近い冷たい現実をまざまざと見せつけられ、目が離せなくなる。 そこへ距離を置いて兄を眺める弟リュックが映し出され、我々の目線は弟と同一化される。 ショックを受け呆然と立ちすくみながらも、受け入れざるを得ない現実に直面した瞬間だったのだ。 震えるほど残酷で美しいシーンだった。 トマを演じるブルーノ・トデシーニはこの役のために12キロも減量したそうだが、その体あってのリアルな感動を与えてくれる。
横たわるトマを足下から映し出す映像は、モンテーニャの“死せるキリスト”の絵のようだ。また、リュックとそのゲイの恋人との裸体は、エゴン・シーレ描くところの裸体を思い起こさせる。世紀末に生き、生を謳歌した早世の画家の姿と、全てを背負って現世での死を迎えたイエス・・といいうように、生と死・明と暗の対比のイメージも何度か見受けられ興味深かった。
(at日仏学院エスパス・イマージュ・2/12よりユーロスペースにて上映)
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