何でも帳。


同じ星を一緒に観る事が出来たのなら



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2001年11月12日(月) September-rain・7






  「……フリックがくれる言葉は凄く、嬉しい…でも……」

ぽつりぽつりと紡ぎ始める言の葉。たどたどしい口調。合わさる事の無い視線。
それをただじっと聞くしかない自分。
  「…でも、僕にはコレ、があるから…だから」
右手に存在している紋章を擦って、辛そうに視線を落とす。
ティアラが何を悩んでいたのか全く判らなかった訳ではない。けれどもここまで辛い思いを背負わせてしまっていたとは知らずにいたから。
ティアラが持っている紋章…『生と死を司る紋章』はあの時からずっと、ティアラを宿主と決めていて。右手にずっと存在して。それがもたらす結果、に怯えているのだと知る。
愛する人達を奪い去ってしまった、紋章。
何か言わなければ…そう思ったが、思いつく言葉はどれも説得出来る物ではなく。
  「………俺が、ティアラを思うのが、お前にとって辛い事でしかないのなら」
口をついて出るのは、一つの提案。選択肢の、一つ。


  「…この戦いが終わったら、お前の前から姿を消すよ。
   それ迄の間は、態度にも言葉にも出さない」
息を飲んだ音が、聞こえた。
顔を上げると、紅茶色した瞳にうっすらと涙を浮かべているティアラがいて…折角した決心が鈍くなってしまいそうになる。思わずそっと頬に触れて、苦笑いしつつも笑いかけてやる。
  「……それで、お前が楽になれるんだったら…構わないから」


離れても、生きては、いける。例え毎日が空しく過ぎていくだけだとしても。
それでも辛い思いをさせるよりは、と思う。辛い思いなら俺だけが背負えばいい事だ。
ティアラは今にも泣きそうな表情でしがみついてくる。
  「莫迦莫迦莫迦ーーーっ!!どうしてそんなコト、言うのーーーっ!!」
  「…莫迦、って……だって、お前、辛いだろ?」
  「また、いなくなっちゃうのっ!?また、一人にするつもりなの!?莫迦フリックーっ!!」
悲痛じみた、声。
………あぁ、そうか。前の最終戦の事を指しているのか。
それでも、あの時はああするより他なかった。
一番上に立つ者が、リーダーが、最後まで生き延びてこその勝利。また同じ状況に立たされたら、俺は同じ選択をするだろう。だから後悔はしていないのだが。
  「……でも、お前の側にいたら、俺は自分の感情を制御出来ないから。
   …好きだから『愛してる』って告げたいし、抱き締めたい。
   抱きたい、って思う気持ちをいつまで止めていられるか自信も無い」
だから、離れるのも選択肢の一つだと思って。
ティアラに辛い思いはさせたくないし、嫌がる事もしたくは無いから。
  「……莫迦フリック。人の気も知らないでーっ!!」
俯いていた顔を上げて、いきなり殴りかかってくる。しかも冗談半分、ではなく、力加減なしで。
慌てて避けるが、それでも2、3発は避けきれずに。
訳が判らずに兎に角、避けつつも抱き締める。そっと表情を盗み見ると…紅い顔して、涙目になっていて。折角した決心とか、理性とかが音を立てて崩れ壊れそうになってしまう。
  「………ティア?どうした?」
一応は大人しく腕の中にいるティアラの背を宥める様に撫ぜてやって、そっと耳元に口を寄せて尋ねる。
いらえが返って来たのは心の中で深呼吸を二つばかりした後。微かな、声。
  「……人の気も、知らないで……フリックは『口に出来ない辛さ』知らないから…」
  「それが『本当に言いたい事』なのか?だったら、とっとと言って楽になっちまえ」
『言いたくないけど言わないといけない事』はもう言った筈だ。だったら、次に来るのは『本当に言いたい事』だと思うから。
そう考えながらも、少しだけ詰める様な口調で言うと、ティアラはこの期に及んで口篭もる。


ぷつん。と糸が切れた様な感覚。


それは忍耐の、だったかも知れないし、理性の、だったのかも知れない。
いずれにせよ何かの糸が切れたのは確かで。
  「………大体、俺は、お前の部屋で見た、ルックとのコト、何も聞いていないんだが?」
思い出したら、また腹が立ってきた。俺も少しばかり酔ってしまっているのかも知れない。
  「っ!あれはっ!!」
  「ルックにはいいのに、俺は駄目なのか?」
  「そうじゃなくてっ!!」
突付けば今にも泣きそうなティアラの腕を押さえつける。
  「…だったら、どこまでだったらいい?」
  「……フリック?」
ここに来て、ようやく会った視線。それはどこか怯えた様な瞳でもあったのだけれど。答を待っていられたのは数秒だけ。
ティアラの腕をシーツに縫い付けて、落とすキス。
じたばたと逃れようと藻掻くのが判るが、無理矢理押さえつけて、何度目かの噛み付く様なキスの後に服の裾から手を差し入れて。
  「…それとも、ここまで?」
そっと脇腹を撫ぜ上げると、素肌に触れる感触に一瞬、体を震わせたのが判った。
僅かに逸れたティアラの唇から、微かに悲鳴じみた声が漏れたのが聞こえたけれど、それももう欲に火を注ぐだけでしかなくて。
浅ましい独占欲だ、とか、つまらない嫉妬だとか…頭の片隅ではそう思ったのだけれど。






……『甲斐性がある』のと『鬼畜』なのは結構似ているものなのかも。とか思いはじめています……(遠い目)
打っていて「……もしもし?」とセルフ突っ込みするコト多数。弱気なんだか、強気なんだかよく判りません<うち兄さん。
何はともあれ、参考資料を作ってくれた風早おねぇに心からの感謝をvv愛してるわっ!!(ひしっ、と抱きつき)
…多分あと一、二話で終わるんじゃないかと思っているのですが…どうなるコトやら(涙)



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