何でも帳。


同じ星を一緒に観る事が出来たのなら



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2001年10月27日(土) September-rain・5





どちらかが言葉を発するのを苛々しながら待っていた。
けれども、いくら待っても、心の中で10数えても部屋に『音』は発生する事無く。
ティアラが何も言わないのはまだ、判る。困惑とか、どうしたらいいのか判らないのとかで頭の中がパニック状態になってしまっているのだろうから。
問題は…部屋に入ってきた青いの、だ。
どうしてここで怒るなり、慌てるなり何らかのアクションを起こさないのやら。呆れるを通り越して、蔑みそうにさえなってしまう。青いにも程がある。

更に10、数えても何も変わらなかったので甚だ不本意ながら、青いのに向けて言葉を発してやる。大きく溜息ついたり、眉を顰めたり、口調が嫌そうになってしまうのはもう仕方が無い。
   「……例え話、をしようか?
   声を発する事が出来ない者がいるとする。
   もし君が、その者にも言葉、を望むというのであればあまりにも愚かだ。
   …知恵があるのならば、考えればいい。
   その意味と理由を」
僕がそう告げると青いのは、呆けていた瞳に光が戻って言葉の意味を考え出す。
それから、まだ僕の下にいるティアラに。
優しい声になる様、努めて、ちゃんと意味が届くようにと思いを込めて伝える。
  「…言いたい、と思う気持ちがあるのなら今の内に言うべきだよ?
   いつか、判ってくれる。判ってくれたらいいな…そう思っているかも知れないけれど。
   でも正しくは判ってくれないよ?ティアラがちゃんと口に出さないとね」
ティアラはまだ微かに潤んだ紅茶色した大きな瞳で見上げてくる。
恐らくは僕が青いのに告げた言葉とティアラに言った言葉が相対しているからなのだろう。
だから笑って、薄墨色の髪の毛を梳いてやりながらそっと耳元に唇を寄せて。
  「……ティアラがこれだけ悩んだんだから、青いのだって少しは悩むべきだろ?
   ………君の上には、幸運の風が吹いているのだから案じる事はない。
   繋いだ手は、離したらそこで終りなんだからね?」
祈りを込めて、静かに頭に口付けを落として、ティアラの顔を覗き込むと…久し振りに見た、造り物ではない笑顔。僕にとって何より嬉しいモノ。
そして瞳を合わせてぎゅっ、と僕の手を握って微かな吐息みたいに。
  「……ありがと。ルック」
  「…お礼、なんか要らないよ。今度こそちゃんとしたお茶、淹れてよね?」



ティアラの上から降りて、ベッドサイドに腰掛けながらそんなやりとりをしていると、急に影が陰って。
  「……じゃあ、ティアラ、連れてくから。世話になったな」
とか何とか言いながら、青いのは不意打ちを食らって呆然としているティアラの身体を引き寄せて、肩に担ぎ上げる。
……思考回路は壊れていないんだろうね?
それでも僕が出来るのはここまで、だ。後は当事者同士でカタをつけるしか無い事なのだから。
  「ちょっ、ちょっと!!フリックっ!!!」
いきなりの事で流石に慌てるティアラ。
…まぁ、荒療治は必要だとは思うけどね。でもあと少しだけ、おせっかい。
  「……僕が言った事、ちゃんと聞いていたんだろうね?青二才。」
ティアラを肩に担ぎ上げたまま、扉に向かってすたすた歩いている足を止めて、振り向かずに返ってくるいらえ。
  「………強情は幸運を逃してしまう、ってコトだろ?」
答えたらすぐ歩き出す辺り、何か気に入らないんだけど?
  「……34点、ってトコかな。赤点は何とか免れたって感じだけど。
   そうそう。ティアラ、ほぼ5日、寝てないから…理由は判るよね?」
そう言ってやると、歩みが一瞬止まって、内心ほくそ笑む。
  「ルック!!余計な事、言わないでよーっ!
   フリック!降ろしてってばーっっ!!!」
……君は、黙っていなさい。今は体力気力を温存させておくべきだ。
青いのは、自分の肩の上でじたばた藻掻いているティアラを担ぎなおす。
  「責任、はちゃんと取らせてもらうよ」
とだけ言うと、後ろ手で手を振って扉を開けて出て行った。
どう責任取るかは知らないけどね…でも、甲斐性ナシの事だから、まぁ。
ティアラにとって、不幸な事にはならないだろう。
彼等が入る門が、広い門では無く、狭い門であります様に。広い門に幸があるとは限らないのだから。
細く長い道でも、お互いの気持ちが通じていれば、それは幸せへと辿り着く為の過程だろうから。
そんな事を考えていると、急激に襲ってくる疲労。
随分と神経とか頭とか風の力を使った所為だろう。とりあえずは、扉の鍵をかけておく。
万が一、ティアラが青いのから逃げおおせた場合でも、逃げ場所が無いように。
いつでも逃げ場所、は作っていたけれど…今回だけは、敢えて。
チャンスは天使の前髪より掴み難い物なんだからね?



ベッドに倒れこむように、横になって。分散させていた風を一つにまとめて瞳を閉じる。
今の自分に出来る事は全部やった筈。だから後悔はしていないけど、心配だとは思う。
以前はこんなにおせっかい焼きじゃなかったのにな…と思うと、何だかくすぐったいのだけど。
でも、自分がする事で、自分にとって大切な人が幸せに笑ってくれるのなら。
そんな事をつらつらと考えている間にも、意識はとろとろと溶けてきて。
眠りに落ちる寸前に窓の外から見えた景色はうっすらと明けかけてきている空。





……おやすみなさい。よい夢を。
次に瞳を開けた時は、憂いが消えています様に。






何か、ルックちゃんが偉そうというか思想家というかでアレなのですが。
魔法を学んでいる分、真理とかを知識として知っているかな…と思ったので。
フリックさんは甲斐性があるのかないのか、今回の話ではまだ判りませんがとりあえず『回収』は出来たのでいいかな、って(笑)
次回以降に期待っ!<兄さん甲斐性。
そして結局、ルックちゃんはフリックさんの事を名前で呼ばずに終わってしまいました〜(^-^;

ちなみにルックちゃんの出番はこれで終了、なので(寝てしまいましたしね…)次の話からはティアラの一人称になると思います。多分。
あと1、2話で終わると思いますので、よろしければお付き合いの程を♪


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