何でも帳。


同じ星を一緒に観る事が出来たのなら



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2001年10月21日(日) September-rain・4




即答で来ると思っていた返答は来なくて、ただじっと様子を見据える。
…見当違い、だったか?
何にせよ、沈積してしまっている感情を何もかも吐露させるのが一番だと思って、口にしたんだけれど。何も反応が無い、というのはちょっと予想外で。
ゆるやかな呼吸を10回はしただろうか?
俯いていたティアラが顔を上げて、困った様な表情で答を返してくる。
  「……ううん。殺したりなんか、しなくていい。ルックの気持ちはすごく嬉しいけど。
   でも、僕はルックの手が血に染まるの、見たくないし」
  「………それは、僕が青いのに返り討ちされる、って意味?」
それは確かかも知れないけれど、こういう状況でそう言われるのは心外で。思わず声音が幾分冷たくなってしまう。
  「!そうじゃなくてっ!!僕はルックもフリックも大切なの!!
   ルックが言ってくれた事は、僕を気遣っての事だと思うから、すごく嬉しいんだってば!」
…何もそこまで顔を赤くして、懸命に説明する必要はないと思うんだけど。
怒っていても仕方が無いので、ぽんぽん、とティアラの頭、撫ぜてやって、もうすっかり冷めてしまった紅茶を一口飲む。
…さて、こういう状況になるとはちょっと予想外だったかも。
頭の中で、問題点を復唱してみる。


ティアラは青いのが好きで、青いのもティアラを好きで。
青いのはティアラに『愛してる』と口にしていて、でも、ティアラはその言葉を言いたいのに言えなくて。
更には、青いのが『抱きたい』(率直に言ってしまえばそうだよね?)とティアラに言って…ティアラはそれに返事が出来ないでいる。
その原因は『生と死の紋章』をティアラが持っている所為で。
魂喰いの紋章に青いのが喰われてしまうのが嫌で。
だからといって、青いのが魂喰いの紋章以外の所為で死ぬのも厭っていて。


……なんだ。だったら話は簡単だ。




風の音に聴覚を集中させる。
ずっと降り続いていた雨はようやく小降りになっていて、石版の前の風は通りすがりの人物を伝えてくる。
普段は大抵、石版の前にいるから風もそこに留めているんだけど、離れる時は必ずひとつの風を置いておく事にしている。僕がいない時に何かあったら、責任問題だしね。
複数ある入口、どこから入っても石版の前を通らないと上の階には行けないから。
頭の中で、ざっと予測を立てて、まぁこんなモノかな…と。
…願わくば、嫌われない事を祈りつつ。



  「……ティアラ=マクドール、ふたつ、聞きたい事があるんだけど答えてくれるかい?」
あえてフルネームで呼ぶと、ティアラは真剣な表情で僕の瞳を見据えてくる。
  「………何?」
真剣な分、心なし硬い声音。
それでもちゃんと瞳を合わせてくれるのが、嬉しく思った。
  「まずひとつは……君、一体いつから寝ていない?」

一瞬、瞳が逃げた。
  「ちゃんと寝ている、とか適当な誤魔化しはしないでよね」
このぼんやりが、ここまで思いつめるのにはそれなりの時間が必要だった筈だ。日中はあまり会う機会も無かったから気付かずにいたけれど。
逃げた瞳を捕まえて、尋ねるとティアラは視線を落として、びくびくと答える。
…だから、怒っている訳じゃないんだってば。
  「……フリックが遠征に行った日から、だから……でも、微睡んではいたから……」
という事は、5日はロクに寝ていないという事だ。莫迦にも程がある。
  「そう……じゃあ、とりあえず寝台に入りなよ?目を閉じているだけでも違うから」
出来うる限りの優しい表情と声で、そう誘導すると、ティアラは何の疑問も持たずにぼてぼてと寝台に入って、枕元に移動した僕を不思議そうに見る。
  「……何か、寝台の側にルックがいるのって不思議かも。
   あれ?聞きたいこと、ってもうひとつ、あるんだよね?」
あまりに無防備すぎて、いっそこのまま眠りの風で寝かしつけてしまおうかとも思った。今更ながら言いたくない様な気がするんだけど…まぁ、仕方が無い。
小さく息を整えて、何でもない様な素振りで最後の質問を。
  「あぁ…それね……
   ……ティアラ、君、フリックに抱かれたい、って思ってる?」
  「!!ル、ルック!?」


――― いや、だからそこまで顔を赤くしなくてもいいんだけど。大体、僕だってこんな出歯亀みたいなコト、言いたくないんだし。



顔を深紅に染めて、口を金魚みたいにぱくぱくさせていたティアラが、聞き取れるかどうかの微かな声で返事を紡ぎ出す。
言いかけては止めて、また言いかけての繰り返しに僕は耳を凝らしていて。
  「………よく判らないけど……でも、夜もずっと一緒にいれたらいいな、って……」
ぽんぽん。寝ている頭を撫ぜてやって。動揺している隙を狙って、追加の問い。
  「そう……ティアラ、僕の事は好きかい?」
動揺しているから、会話の流れが変なのに気付かないでいるらしいティアラは、にっこりと微笑んで答えてくる。
  「今更、何、言ってるの?ルック〜?好きに決まってるでしょぉう?」
くすくす微笑って、そう言われるのは内心、嬉しいんだけどね。



瞳を閉じて、意識を集中させてもう一度だけ、願う。
願わくば、これから自分がする事によってティアラに嫌われない事を。

息を静かに吐いて、そっとティアラの頬に触れる。
  「……だったら、僕で予行演習、してみたらいい。
   君を抱いた後でも、僕が生きていたら…青いのからの誘いにも応えられるだろ?」



……念の為に言っておくけど、僕はその位で魂喰いの紋章に喰われるだなんて思っちゃいない。
僕が真の紋章持ち、という事を除いても、だ。
だから、ティアラは青いのの誘いに応じても、『愛してる』と応えても、何ともないと思っている。
でも、こればかりは本人が克服して納得しないといけない事柄だから。
思考回路が真っ白になったらしいティアラの頤を掬い上げて、そっと触れるだけのキスを落とす。
そっと触れては離れるキスを繰り返していると、何回目かのそれで、やっとティアラは我に返ってこれ以上はない位の赤い顔をして、じたばたと藻掻き始める。
  「ちょっ!ちょっとっ!!ルックっっ!!!」
僕は眉を顰めて見せて、ティアラの上に覆い被さる。大体、いくら藻掻いたって、僕が体力無いからってロクに寝ていないティアラが振り落とせる筈は無い。
  「……何?ティアラ?」
甘い声、優しい口調で耳に囁くと、肩を振るわせる。ついでだから、上着も少しはだけさせて。
白い肌に、細い首にそっと唇を落とすと、ティアラは声を殺して瞳に涙を浮かばせていた。
  「……ルック……冗談、にしてはタチ悪いと思うんだけど……」
  「冗談じゃない、って言ったら?」
風が流れてきて、此処からが正念場だと諦める。
  「………ティアラ、好き、だよ?」
今度は先刻よりも濃いキスを落とす。ティアラは、呼吸が上手く出来ずに僕の手に腕を伸ばす。
見方によっては、縋っているようにも見える体制。



微かなノック音と同時に入ってくる人影。
  「…ティアラ?こんな時間まで起きていたのか?」




――――― そして、沈黙が部屋を支配する。






ルク坊まがいはここで終了ですーっ!!(涙)コレ以上は流石に書きませんっ!!
あとは青兄さんの甲斐性に期待ーーーーーっっ!!!(脱兎)

……実はこの後、プロットありません(^-^;

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