嗚呼!米国駐在員。
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2006年05月15日(月) 米国トヨタ社長のセクハラ訴訟

北米トヨタ自動車の女性社員が、上司の大高英昭社長からセクハラ行為を受けたとして、トヨタ本社と北米トヨタ、同社長を相手取り総額1億9000万ドルの損害賠償を求める訴訟をニューヨーク州地方裁判所に起こした。訴えた女性は42才の日本人社員。社長秘書をしていた2005年に繰り返し社長からセクハラを受けたとしている。


損害賠償の要求額がなんと、1.9億ドル(210億円)!

さすがアメリカ、日本とは桁違いだ。ちなみに日本で有名なセクハラ事件といえば、あの横山ノック事件だが、訴訟金額は1100万円だった。


北米市場では、トヨタが新車販売台数を伸ばす一方、アメリカ国産であるGMやフォードが苦戦している。トヨタへの風当たりが強まりかねない中で起きた為、「GMの刺客」という噂もあった。勢いの止まらないトヨタのイメージダウンを狙ったBIG3及びユダヤ系が裏で糸を引いていたという説 - 満更ありえそうな話しではある。

まあ、訴えるほうだって、世界で注目される事は分かっていてそれなりのリスクを背負うわけだから、余程の勝算があったに違いない。既に証人を集めて証拠固めの準備は終わっているだろうし、もしかしたら社長のセクハラ発言のテープでも録音しているかもしれない。そうなると、訴訟の行方は大方決まっているのだろう。


日本では、うまくはめられた、という、トヨタ社長擁護の意見も多いかもしれないが、ここはアメリカだ。

この社長は「日本的な上司と秘書の関係」という、世界から見れば微妙で特殊な関係をアメリカに持ち込んで仕事をしてしまったのがいけない。ついつい気が緩んだのかもしれないが、大企業の役員としては失格だな。

この事件を聞いた時、日本のオッサンが行くアメリカの日本料理屋が浮かんだ。

特に年配者に多いのだが、普段はアメリカの地元レストランで、「ハーイ」「サンキュ〜ウ」なんて、低姿勢で慣れない笑顔を振りまいているのに、日本食レストランに行った途端、パンパンと手を叩いて、「から揚げまだなの!?早くしてよ、もう」などと、ついつい日本人バイトに偉そうに振舞ってしまうのである。普段はアメ人を前に大人しいオッサンのこうした豹変振りを目にすると本当に不愉快になるのだが、つまりは、相手が日本人または日本の環境だと、ついつい気が緩んでタガが外れてしまうのである。

日本からアメリカに駐在してくる幹部社員にとって、駐在生活というのは楽なものではない。言葉はもちろん文化の違いで日常生活もままならず、話す相手も非常に限られる。日本と違って、今日は一杯いこか、なんて事もないし、社内の情報だって遠く離れた異国にまでは、今までのようには入ってこない。家族がくればきたで、アメリカ生活に慣れない家族の世話でさらにストレスをためる。

だから、身近にいろいろ世話をやいてくれる人がいれば甘えが出てくる。特に、日本語が話せる相手に対しては、ついついそれがエスカレートしてしまう。

大方、今回のセクハラ事件の背景はそんな所だろう。


こんな日本独特の背景があるからだろうか。過去を振り返ると、頭に残っているセクハラ裁判は日本企業が対象のものばかりだ。
日本の常識、世界の非常識、である。赴任前にセクハラ講習をみっちり日本で受けてきたはずなのに、ついつい気が緩んでしまう。そして、アメリカにいるのに普通の日本人感覚でセクハラして、残りの人生を棒に振る。提訴されてまもなく社長の座を下ろされたトヨタのおっさん、高い代償だったな。


アメリカ企業の経営幹部は絶対にセクハラなんていう、無利益で高リスクな行動は絶対にとらない。隙は絶対に作らない。アメリカでは、肩書きが上になればなるほど、不用意にセクハラ発言をしただけで高額の慰謝料を払わされる標的にされる事が、よーく分かっているからである。アメリカの大企業の重役たちは自分たちが標的にされるのは百も承知だから、くだらないジョーク一発が身の破滅になる可能性を秘めている事をわかっている。だからそんな事はしないのだ。


トヨタのは、海外の生産現場にも日本流の生産管理を持ち込んで、低コスト、 高品質の製品を追及し続けて成功を収めた。

しかし、アメリカでは許されない、日本独特の特殊なモノまで外国に持ち込もうとしてしまったのは、大きな間違いだった。


Kyosuke