嗚呼!米国駐在員。
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2006年01月25日(水) なんちゃって日本メシ

昨日は日本からの来客を連れてデトロイトに出張。うちのアメリカ人スタッフも同行させて取引先へと車を走らせた。

途中、昼飯を食おうか、という事になった。来客は、度重なるアメリカのジャンクフードに辟易しており、出来れば日本食で御願い出来ませんかね、とのリクエストがあった。控えめだったが確固たる意思を持った要望であった。ちなみに、ファーストフードだけでなくて普通のアメリカンレストランでも、日本人からすれば立派なジャンクフードである。

幸いにもお勧め出来る日本飯レストランを知っていた。
店員もカウンターの職人も全て日本飯。値段は張るけど、会社の経費だし、安心しておいしいランチにありつける。

運転中のスタッフに、その店まで行くよう道順を指示した。

すると、「もっと近くにいい日本食レストランがあるのを知っているよ。本当にオススメ。何度も行ったことがある。」と言う。


確かに、自分の知っている店は少し遠回りであった。雪もちらついてきており、余計なドライブは避けたかったので、そのオススメとやらに言ってみることにした。このスタッフはうちの会社で働いて6年。日本出張もしているし何度も日本食に連れて行っているので、まあ日本食の何たるかくらいは十分知っている。車中では、久しぶりに日本飯にありつけるお客が、この数日間でどんなにひどいアメ食を食べてきたかを語り、やっぱり日本飯が一番ですよね、いや〜久しぶりの日本飯ですよ、と、本当に楽しみにしている様子であった。

幹線道路を曲がると、先の方にレストランらしきものが見えてきた。何だか東洋風の大きな建屋である。


嫌な予感がした。



近づいてみると、 「SEOUL HOUSE」というレストランの名前だ。

あ〜よかった、韓国飯だった。店は近づいてきたけどウィンカーも出さずに曲がる気配もない、



と、安心した瞬間に、キュっと右折してレストランの駐車場に車を舞い込ませやがった。

「オイオイ、ここ!? これって韓国レストランだよ。」

「いや、日本飯だ。心配するな。俺は何度も来ているから知っている。ほら見てみろ。」 と指差した先には、SUSHI BAR の看板。




...絶望的だ。




入るのも恥ずかしくなるような、いかにもオリエントな作りの店構え。
店の入り口にはハングルと英語で書かれたメニューだ。日本語のかけらもない。とはいえ他に選択肢もない。

韓国レストランと思いきや形だけの寿司カウンターがありメキシカンの板前がおかしなハッピをきている。日本人店員の気配は全く無い。

昼時なのにバカでかい店内には客が数組しかいない。テーブルに通されメニューを見た。韓国、中華、日本、と豊富なレパートリーだ。どうも韓国系臭い店だから、ビビンバあたりにしておけば良かったのだが、いざ目の前にある日本食メニューを素通りすることは出来なかった。

出張者はてんぷらソバ、自分と米人スタッフは寿司セットをオーダー。

お茶がマグカップに入って運ばれてきた。続いて、寿司セットに付く味噌汁が来た。とてつもなくヌルいし、レンゲが突っ込んであるのが気に食わない。よく見れはナルトが入っている。しばらくして来た寿司セット。皿の隅にはワサビが山のように大量にもってあるアメリカンスタイル。見た目は確かに寿司の握りだが、冷え切ったシャリの塊とその上に申し訳なさそうに乗った釣りえさのようにネタは、明らかに冷蔵庫から出してきたものだ。

出張者のソバには具が何もない。しばらくするとべチャベチャのてんぷらが皿に盛られて運ばれてきた。


隣で「EXCELLENT!」と叫びながら、ワサビを大量に溶かした醤油に浸された寿司ネタを口に運ぶ(アメリカ人流)スタッフを横目に、異国の地で日本食に恋焦がれた出張者には申し訳ない気持ちだった。「意外とまあまあいけますよ」と気を使っていってもらったが、案の定ソバも天ぷらも残っていた。自分も、エビを残した。


アメリカ在住間もない日本人がよくだまされる“なんちゃって日本メシ屋”。全米のどこにでもそれは見つかるが、日本食ではない。厳密には日本食を見た目だけ真似して作った料理だ。赴任以来3年を迎える自分がこんな日本食屋に入ってしまったことに大きな後悔を感じた。

そして、どんなに日本メシ通といってもアメリカ人の舌はやはり絶対に信じてはならない、と再認識した。




Kyosuke