嗚呼!米国駐在員。
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2005年12月14日(水) 「半島を出よ(上・下)」 村上龍 

「半島を出よ(上・下)」 村上龍 著 読了。

7月に帰国した際、日本を出る際に慌ただしく上下巻を買った。レジの前に平積みされていたのだが、村上龍とタイトルを見て何も考えずに分厚い2冊をレジに持って行った。評判もストーリーも全く知らなかった。先日思い出して本棚から取り出し一気に読了。久々にいい本に出合えた。






実に丹念に丁寧に描かれた小説だ。気持ちが良いほど当たり前の事を力強く主張しているが、これだけ当たり前の事にスポットが当てられた小説は意外とめぐり合えない。

小説だから、北朝鮮が福岡を占領するなんていう現実味のない話にも素直に楽しめる。ただ、現実味がないとはいっても、あまりに綿密に取材された上に成り立っているストーリーなので、ひょっとして明日にでも実際にありえる話かも、という気にさせてしまう。

そういえばしばらくアメリカに住んでいて忘れていたのだが、日本という国の持つ無気力さ、無責任さ、事なかれ主義というものを嫌というほど思い出させてくれた。それにしても小説の中の日本の政治家もバカにされたものだけど、果たして実際に同じ事件が起きたらどう対処するのだろうか。後、日本とは逆に北朝鮮という、決断する事に全く迷いも疑問もない国との対比が際立っていて興味深かった。

昔はなんだかアクの強さだけが目立っていたような村上龍なのだが、小説を読む度に、彼はとても真面目な勉強家だと思うようになった。単なる才能だけではこんな小説は書けないだろう。巻末の参考文献の羅列を見て、その途方も無く奥行きある取材ぶりに目がくらんだ。


一流の人は何をやっても一流なんだろう。

村上龍は、きっと一流の建築家にも科学者にも医者にも営業マンにもなれるのだろう。



「何かを選ぶというのは同時に別の何かを捨てることだが、それがわかっていない人間が大勢いる」

「リアルな現実というのは面倒臭く厄介なものだ」

印象に残る文が多かった。



Kyosuke