嗚呼!米国駐在員。
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2005年12月10日(土) |
出張帰り道でのトラブル |
木曜日までデトロイト出張だったのだが、その帰路は悲惨であった。
午前、午後と1件ずつの顧客訪問を終えて、空港に着いたのは午後5時。午後6時半のフライトには十分な時間である。朝から気の張ったミーティングが続いた疲労が出たのだろう。搭乗までの待ち時間でうつらうつらとしてしまったのだが、周りのアメリカ人が「オーマイガッ」と一斉に騒ぎ出した物音で目が覚めた。
何があった?
繰り返し放送されたアナウンスに耳を凝らした。
「シカゴ大雪による天候不良のため、UA841便はキャンセルになりました。」
おいおい、それだけかよ。
今日のホテルの手配、レンタカーは?とやるべき事が思い浮かんだが、まずは帰り便を押えなければならない。最初のアナウンスの時点で、既にカウンターにはチケット片手に乗客が長蛇の列をなしていたが、諦めて列の後ろに並ぶことにした。まあ天候によるキャンセルなので誰も責めは出来ない。まずはホテルを確保。並んでいるアメリカ人は比較的我慢強くというか諦めて淡々としていたのに対し、中国人とヨーロッパ人は大騒ぎをしていた。特に、上品な顔立ちのヨーロッパ人(スーツに白靴下はいただけなかったが)は乗り継ぎでイギリスに行くようで、俺の国際線はどうなるんじゃ!と落ち着き無くカウンターに詰め寄っていた。
40分並んでようやく自分の番が来た。 何人かの会話を聴いていると、既に明日も全便予約で埋まったというような事を言っていた。そして、絶望的な思いでカウンターの向こうのオバチャンと向き合った。と、そこへカウンターに電話が入り、「Are you sure?」と電話の相手に確認した後、係りのオバチャンはこちらに満面の笑顔で教えてくれた。
「アンタ、ラッキーだわ。たった今入った情報によると、こちらにもうすぐ到着するフライトがあるけど、Stand-Byしてうまく席が見つかれば、それに乗れるわよ。」
もちろん、こちらが30万マイルを裕に越えるExectiveステータスであることが分かっての発言だ。キャンセル待ちをすればほぼ間違いなく席は手当てしてくれる。横のカウンターでは先ほどのヨーロッパ人が同じ説明を受けてガッツポーズを繰り返している。こちらも迷わずにStand-Byチケットを発券してもらい、再びゲートへと急いだ。外を見ると既に機体は到着している。よしよし、俺はついている。
難なく自分の名前が呼び出されて、正式なチケットが手に入った。あ〜よかった。
ほどなく搭乗アナウンスがあり、機内へと向かう。 誰もがトラブルを回避出来た喜びにハイテンションであり、やや異様な雰囲気さえした。機内では、席に着いた乗客を前に客室乗務員が偉そうに大声でのたまう。
「皆さん、よかったですね。我々は無事に目的地へと向かうことが出来ますよ。他の便同様、この便もキャンセルの見込みが強かったのですけど、ホント皆さんラッキーですよね。」
「イェーイ!」
単純なアメリカ人どもは奇声を上げて拍手喝さい。 その気持ちはよく分かったが、こちとらこの1時間半のバタバタに睡魔が押し寄せてきて目を閉じた。
1時間弱のフライトはあっという間だ。 睡眠から覚めると既に目的地・・・のはずだが・・・
飛行機全く動いてないじゃないか。
時計を見るともう2時間経過。乗務員のアナウンスが入る。
「目的地の天候不順のために離陸の許可が下りません。いつ飛び立てるかだって?I don't know.」
てめえ、I don't knowじゃないだろが。
気がつくと、デトロイトにも雪が降ってきていた。みるみるうちに積もってきて、窓も雪で覆われて全く外が見えなくなってしまった。機内のコメディ映画を見て無邪気に笑っていた周りの客も、絶望的な雰囲気をかもし出してきてきた。既に3時間経過。周りの客が騒ぎ出した。
「外に出してくれ。いつまで閉じ込めておくんだ!!」
「気持ちは分かりますが、安全上の理由で外に出ることは許可されていません。それに、既にターミナルも閉鎖されています。」
搭乗時のハイテンションもどこへやら。淡々とした回答で乗務員が答えた。
午後8時前のフライトだったのに、既に日付が変わろうとしていた。 もともと、短距離のフライトだからドリンクもそんなに用意されていない。既に貴重なコップ一杯のドリンクサービスは数時間前に終わってしまった。いつもは持たないのだけど、何故かこのときに限ってホテルで出してくれたチップスとペットボトルをカバンにぶち込んでおいたのだが、本当に助かった。周りの乗客の雰囲気も絶望的なものから異様なものに変わってきた。後ろの白人は、呼吸が苦しそうでハアハア言っている。
長時間のフライトは、覚悟も出来ているいるからこれほど苦にはならない。 しかし、全く動かない飛行機に何時間も閉じ込められるのは想像できないほど苦痛であった。おまけにいつ出発するかも分からない。全く比較にはならないけど、ハイジャックされたらこんな感じなのかなあ、と思った。外は相変わらずの大雪。
午前1時。 飛行機が動き出した。滑走路に向かった。救われた、と思った矢先、飛行機はまた戻ってきてしまった。強風で飛ばせないらしい。確かに外は猛吹雪だ。誰も責めれない。村上龍の「半島を出よ」を持って来たので、幸いなことにいい時間つぶしにはなったが、精神的に疲れてしまってとっくに本にも集中出来なくなっていた。高イビキで寝ているアメリカ人がうらやましかった。 外を見ると、猛吹雪の中でクレーン車がやってきて凍結防止の液体を機体に噴射しているのが見えた。クレーンの上から宇宙服のように完全装備をした人が、大きなノズルを機体に向けている。彼もやっていられない事だろう。
そして午前2時半。 機体が離陸体制に入った。相変わらず全く回りが見えないほどだが、早く飛んでくれ、と祈る。今回は大丈夫だ。機体は離陸した。アナウンスによると、わずか30分以内で目的地に着くという。追い風なんだろうか。これで解放される、家に帰れる。本当にホッとした。
しかし、そこでホッとした自分はまだまだ甘かったのである。
(続)
Kyosuke
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