2003年09月14日(日) |
安藤明、人生初ホームラン(慶応大vs立教大) |
淡々と淡々と、安藤明(4年)はベースを一周した。笑顔はない。 「本当はもっと喜びたかったんですよ。でも、試合中にそんなに喜ぶと怒られるかと思って。もう、ほんと嬉しかったです」 6回表、1死ランナーなしの場面で、安藤はこの日3度目の打席にはいった。マウンドには立大3番手の左腕本田(1年)。カウント1−1からインコース寄りのボールを叩くと、打球はレフトスタンドへ飛び込んだ。打った瞬間、スタンドが沸いた。 「セカンドベースの手前くらいで、本当に入っちゃったのかなと思って。自分がびっくりしました」 試合中にはなかった満面の笑みを浮かべていた。 驚くのも無理はない。安藤にとって、ゆっくりとベース一周するのは野球人生初のことだった。 「今日のホームランが生涯初ホームランなんですよ。高校でも中学でも打ったことないんです。少年野球でランニングホームランを2本打ったことありますけどね(笑)」 安藤の野球人生で初のフェンスオーバー。 「ホームランボールどうするの?」 「親にあげます……、地味ですよね」 いやいや、地味じゃない。素敵なことです。
安藤のホームランにかなり驚き……、安藤の中学時代の恩師である慶応湘南藤沢中の森裕樹先生にすぐに電話。 「ほんと?! おめでとうって言っとていて。多分、一生に一度のことだからさ」と、嬉しそうに話していた。 昨年、ベンチ入りしたことに喜び、今春は試合出場したことに喜び、そして早慶戦スタメン出場に喜び、この秋はホームランまで打ち……。 安藤は慶応湘南藤沢中・高出身者として、初めて神宮でプレーした選手。ということは、もちろん湘南藤沢出身者としての初ホームラン。安藤は湘南藤沢卒業生として、「初」のことを次々と成し遂げている。 春のリーグ戦のとき、安藤は「これから入ってくる後輩のために、自分が道を作ってあげたい。やりやすい道を作ってあげたいんです」と語っていた。徐々に「道」が作られていることは間違いない。
春から秋。安藤は全試合スタメン出場した春の経験を生かし、バッティングフォームを替えていた。 春はバットを目一杯長く持っていたが、秋は一握り短く。肩幅よりも少し広めにとっていたスタンスも、小さくなっていた。それでも、グリップを高い位置で構え、お尻を奇妙に動かす安藤独特の打ち方にそれほどの変わりはない。ただ、バットを長く持つことが、安藤のポリシーだと勝手に思っていたので、短く持っていたことにはかなり驚いた。
ホームランを打つ前の打席では、カウント1−1から、先発小林の真ん中ストレートを左中間にライナーで弾き返し、タイムリー二塁打を放った。 春には見られない打球だった。春はバットを長く持っていたせいか、ストレートにはつまる。その分、スライダーやカーブを拾い、内野の頭を越えるヒットが多かった。 バットを短く持っていることについては、 「長く持つと140km中盤のストレートには、やっぱり詰まってしまうんですよ。春の明治戦から、それを感じていて、本当は春の終盤から短く持ちたかったんです。でも、ゲンを担ぐというか、長く持っていてもヒットが出ていたので、春はそれで通しました」 春が終わってから、短く持ち始め、オープン戦でも好調だったという。じつは、短く持つのには、詰まることを解消する以外に、あるチームの影響があった。 「早稲田の影響なんです。早稲田の選手が全員短く持って、結果が出たという記事を読んだりして」 春の早慶戦終了後、安藤は早稲田打線について「予想以上でした」と話していた。徹底的に分析し、弱点を探った。それでも早稲田には通用しなかった。マスク越しに見る早稲田打線。脅威だった。 短く持つ早稲田打線には、法大の新里捕手(4年)もこんなことを話していた。 「鳥谷とか比嘉とか、長く持っても打てるような選手が、短く持って、しかも繋ぎの意識がある。振り回してこないから、簡単には打ち取られない。うちも見習わないといけないですね」
開幕週、慶大は立大に対し連勝で勝ち点を挙げた。エース清見の不調が少々心配だが、打線は春不振だった早川の復調もあり、好材料の多い連勝スタートである。 慶大は一週空いたあと、春に勝ち点を落とした明大と対戦する。 安藤は「明治戦が勝負です。早稲田への挑戦権を懸けた戦いだと思っています」と力強い言葉。 11月始めの早慶戦まで、残り1ヵ月半。安藤はすでに大学を最後に野球を辞めることを決めている。 最後のシーズンを、最高の結果で終えることを期待しています。
◇東京六大学 第1週 2回戦 慶大 100 321 000 7 立大 000 100 000 1
(慶) ○小林康ー安藤明 (立) ●小林、三村、本田、池田ー横山、鈴木宏、藤村
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